第2話 転校生

 世の中には、常識では説明できない事がたくさんある。


 僕、御門碧みかどあおいは幼い頃から、不思議なものを視る力があった。


 我が家は代々霊感が強い人間が生まれやすく、この世のものではないもの達

が寄ってきやすい家だ。


 僕が1番困っているのは、祖父が趣味で集めてきた日本人形に取りいているもの達で、80体以上も、美しい人形達がいるものだから、どれだけ物の怪もののけ達がやって来ても、入りたい放題の状態になっている。


 夜になると部屋の中に人影があったり、取り憑かれて体調が悪くなったり。本当に勘弁してほしい。


 家族の中でも、霊感が1番強い僕ばかり被害に遭っているので、祖父には人形集めをやめて欲しかったが、未だに何も言えてない。


 そして僕は少し特殊なのか、霊体をはっきりと視る事は少ないが、どうやら呪いは他の人より、よく視えているらしい。


 それに気付いたのは、中学校2年生の頃だった。




 夏休みが終わり学校へ行くと、自分達とは違う制服を着た、見知らぬ女生徒がいた。


「なに、転校生?」


 僕が訊くと、友人達は少し興奮気味こうふんぎみに返した。


「らしいよ。結構かわいくない?」

「でも、隣のクラスだってさ。残念」

「どうせ、お前じゃ相手にされないよ」


 ———みんな朝から元気だな。


 僕は朝が苦手なので、今にも倒れそうな状態だ。知らない人がいる。と思っただけで、女の子なんかどうでもいい。


 隣のクラスにきた転校生の女生徒は、日本人形のように長くて真っ黒な髪が印象的だった。切れ長の大きな目に、口紅を塗ったような赤い唇。田舎に住んでいる僕からすると、都会の人に見える。


 彼女はとても社交的な子で、その日の昼休憩には、もう同じクラスの人達と笑っていた。人見知りをする僕とは正反対の人間だ。そのせいか、僕は妙に彼女の事が気になり始めた。


 別に、好みのタイプだったわけではない。それなのに何故か、彼女に目が行ってしまうのだ。




 1週間程して、彼女が皆と同じ制服になった頃、僕のクラスの女生徒3人が、お揃いのブレスレットをしている事に気が付いた。


 3人は僕の目の前で話をしていて、黒みがかった赤と、い紫のひもで編んであるブレスレットをしている。


 ——中学生にしては渋い色だな。女の子って、もっと可愛い感じの色が好きなんだと思ってた。


 僕がブレスレットを見つめていると、視線に気付いたのか、前の席の橋本さんが振り返った。


「これ、可愛いでしょう?」


 可愛いでしょう、と言っている人に対して、可愛くない、と返す勇気はない。どう返そうかと、僕は少し迷った。


「うん、そうだね……」


 そう言ってうなずくのが正解なのだろう、と思った。


「これねぇ、ヤエちゃんに貰ったんだ〜」


 橋本さんは自分の腕を見ながら、嬉しそうに微笑む。


 普通なら「誰だそれは?」と言いたくなる所だが、ある人物が脳裏に浮かんだ。


「……あぁ、転校生の?」


 なぜ彼女だと思ったのかは、自分でもよく分からない。


「そうそう、よく分かったね!」

「うん。なんか、なんとなく」

「これね、昨日貰ったんだ。いいでしょう?」

 

橋本さんは、腕を僕の方に突き出す。


 黒みがかった赤と、濃い紫のブレスレットには、陶器のような素材の珠が付いていた。紐よりさらに色が濃い紫に、蔦を描いたような金色の模様が入っている。


 女性が見るとおしゃれに見えるのかも知れないが、僕には、だいぶ年配のご婦人が好みそうな色合いに見えた。どこかで、そんな配色のアクセサリーを身につけたご婦人を見たような気がするのだ。


 それでも橋本さん達は「可愛い」と言っている。


 ——やっぱり、女の子の考える事って、よく分からないな……。


 この間も、どう見ても、ただの小太りのおじさんにしか見えない先生を、可愛いと言っていた。彼女達はすぐ「可愛い」と言うが、本当に可愛いと思っているのだろうか。


 僕にはちょっと、理解ができない。

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