呪詛遊び

碧絃(aoi)

第1話 序章

 もしも目の前で事件が起こったら、自分だけはすぐに逃げる事が出来るだろう。


 ヒーローみたいに颯爽さっそうと、被害者を救うことが出来るだろう。

 

 大多数の人がそう思っていて、僕だって当然のようにそう思っていた。


 でも、それは理想りそうであって、ただの幻想げんそうぎないと知った。


 足元に転がった友人を見ながら、転校生の耶永やえ恍惚こうこつとした笑みを浮かべている。


 他の生徒達は目の前で起こった事に絶句し、静まり返った廊下で、耶永は一度も驚くようなそぶりすら見せず、自分の足元に転がった友人を見下ろす。


 もしもの時は自分なら何とかできる、なんて思い上がっていた僕は、他の生徒達と同じように、ただ呆然ぼうぜんと立ちくす事しかできなかった。


 1つだけ他の人達と違っていた事は、僕が見ていたのは床に転がっている女生徒ではなく、彼女を見下ろしている耶永だった、という事くらいだ。


 まるで宝石でもながめるように、うっとりと目を細めた耶永の横顔が、僕の脳裏のうりに深く刻み込まれた。

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