第8話 お風呂とお布団

 食後、ガーネットと一緒にアニメを見ようかと思ったのだが、それよりも初めての恋人になってくれたこの超絶美少女と話していたい気持ちの方が強かった。

 顔は綺麗で可愛くて、胸は大きくて、脚は怖ろしく魅惑的な曲線を描いているアンドロイド少女と過ごす最初の夜。胸が高鳴り、落ち着いてアニメ鑑賞なんてできそうにない。

 つい見つめてしまう。


「本当におまえは綺麗だな、ガーネット」

「数多もなかなかのイケメンだぞ」

「僕がイケメン? お世辞はいらないよ」

「いや、嘘なんて言ってないぜ」

 このアンドロイドは美醜の感覚がおかしいのかな? まあいいや。面と向かってブサイクと言われるよりは気分がいい。


「明日は月曜日だ。平日は市役所へ仕事しに行く。悪いけど、ガーネットは留守番していてくれ」

「あたしもついていきたい! 数多の仕事のアシストをしたい!」

「いや、それはやめてくれ。美少女をつれて仕事するなんて非常識なことはできない」

「むう。仕方ないな。留守番しているよ」

「ひとりで留守番、退屈か?」

「アンドロイドに退屈はない。ネットサーフィンでもしているから、その点は心配はいらないぜ」

「そうか。それと、僕の仕事はなかなか忙しいんだ。定時には帰れない。帰宅は午後8時か9時頃になると思う」

「忙しいのか……。早く帰ってきてほしいな。数多がいないと寂しい……」

 ガーネットがいじらしく僕を上目遣いで見つめる。

 破壊力抜群の愛らしい仕草だ。また抱きしめたくなった。

「僕も定時で帰って、ガーネットと一緒に過ごしたいけれど、仕事はきちんとやらないといけないんだよ。公務員は全体の奉仕者だからな。それに残業代でおまえの維持費や衣装代を稼ぐ必要がある」

「衣装なんて、この赤いワンピースだけで充分だよ」

「いや、女の子の服がそれだけってわけにはいかないだろ? 僕はおまえに似合う服を買ってやりたい」

「数多ぁ!」

 ガーネットが椅子から立ち上がって、飛びつくようにして僕に抱きついてきた。思わず顔がにやけてしまうほどうれしい。


「さて、そろそろ僕はお風呂に入るよ」

 僕は浴室へ行き、スイッチを押した。10分ほどでお湯が溜まる。

 服を脱いで、ゆっくりと湯舟に浸かった。

 ふう、今日は刺激的すぎて疲れた。お風呂と睡眠で疲労を取り、明日の仕事に備えないと。

 のんびりと温まっていると、突然、浴室のドアが開かれた。

 僕はそちらの方を向いた。

 全裸のガーネットがそこにいた。

 スタイル抜群の美少女の裸! 初めて見る異性の裸に僕は驚愕した。エロい。エロすぎる。本田浅葱はとんでもない造型師だ。美と淫の絶妙な混合。たぷんたぷんとした身体は僕には刺激が強すぎる。鼻血が出そうだ。

「おい、なんで入ってきた? さすがに一緒にお風呂に入るのはまずいだろ?」

「なんで? あたしたちは恋人同士だ。まずくなんてない」

 ガーネットは天真爛漫だ。いや、小悪魔かもしれない。微かに、にまっと笑っている。

「アンドロイドは風呂に入れるのか? 早々に壊れたら困る」

「心配はいらないぜ。あたしの身体は完全防水だ。廉価版アンドロイドとは品質がちがう」

 ガーネットは僕の身体に座るような感じでお風呂に入ってきた。浴槽からお湯があふれる。

 ひいーっ、心臓がドクドクと激しく動きすぎて、気絶しそうだ。

 ガーネットが柔らかすぎる!

 

 お風呂では少しも疲れが取れなかった。かえって疲れた。

 この分だと睡眠も心配だ。

 眠れないかも。 

 僕は1セットしかない布団を敷いた。

「アンドロイドにも休眠が必要だって、言ってたよな。どうしようか。いまは布団がひとつしかないんだ」

「同衾しようぜ。当然だろ?」

 確かにそうしたいんだけど、いいのかな? 17歳の少女だぞ。いや、生まれてから、まだ2か月も経っていない赤ん坊という見方もできる。でも、こいつ、人間じゃないしな。いいのかも。

「眠る前に、えっちしようぜ」

 ガーネットなら、そう言うと思った。

「い、いいのか? 初日から、そこまでサービスしてくれなくてもいいんだぞ」 

「サービスなんかじゃない。あたしがそうしたいんだ。数多と裸で抱き合いたい」

 アンドロイドに性欲はあるのだろうか。僕は率直に訊いてみた。

「おまえ、性欲はあるのか?」

「ある!」

 やっぱりあるのか。本田浅葱のプログラミングだな。非常に踏み込んで、かなり意欲的に人間に近いアンドロイドを造ったみたいだから、当然、性欲は組み込まれているだろうと予想していた。

「ちなみに、性感は?」

「残念ながら、それはない。まだその機能は発明されていないんだ。だから、性感とはなにか、言葉の定義だけしか、あたしは知らない。本当に残念だよ。でも、数多とセックスしたいという欲は確かにむらむらとあるんだ。しようぜ!」


 その夜、僕はアンドロイドとセックスした。

 人間としたわけではないから、厳密にはまだ童貞なのかもしれないが、気持ちの上では、もう童貞ではないと僕は思った。

 ガーネットは恋人なんだ。

 恋人とセックスしたんだから、童貞じゃないと言ってもいいだろう?

 ガーネットは最高のパートナーだ。人間の恋人なんて、本当にいらない。

 もし誰かが、アンドロイドとセックスしたって童貞のままだと言うのなら、僕は一生童貞でかまわない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る