プロローグ(2)
我が家には父親が存在しなかった。
彼が上京するとなって、初めて父親と母親が離婚していたことを知った。
子どもの時はよく母親に
「ウチにはお父さんはいないの?」
と質問したが、お菓子やジュースを与えてたぶらかされていたものだった。
実家のある町は、村に等しい景色であった。
本当に小さかった時は村に”ばぁば”という老婆がいて、その人に付いていき、山の奥の方を探検した。
特に木々が開けた丘のような場所にある廃れた社には”ばぁば”が都会から持って来たとかいう玩具がたくさんあり、学校の帰りによく寄ったものだった。
その”ばぁば”も6歳ばかりの時に亡くなってしまった。
散々お世話になっていたはずなのに、感謝の情も、沈痛さえも生まれなかった。
ただ、もう二度と”ばぁば”に会えないと思うと、少しばかりさみしさを覚えた気がした。
その後の小学校生活は、登校するのに1時間弱かかったことは今でも信じられないことだ。
車で麓の小学校に毎日登下校するものだから、友達の家に遊びに行くことも少なかった。
だが、近辺に同じ小学生がいないわけではなかった。
一人、同い年の女子がいたはずだ。
「—お客様。」
思い出を振り返っていると、車掌さんが声をかけてきた。
「お客様はどちらまで向かわれるのですか?」
「あぁ、〇〇駅までですが・・・」
そう答えると、車掌さんの表情は和らいだ。
「でしたら、間もなく到着しますよ。乗り過ごさなくてよかったです」
「あぁすみません。わざわざありがとうございます。」
「いえいえ」
辺りはようやく故郷の景色へと変化していた。
もっとも、山を登らなければいけないのだが―。
下車する準備として少し散らかった荷物を整理しはじめた。
その時、ふと頭の中に一つの単純な興味が生まれた。
―あの人は今、何をしているのだろうか。
無人駅に等しい〇〇駅から外に出るとスマホを持っている左手を挙げている姉がいた。
先に帰郷していた姉は実家にある車で迎えに来てくれていたのだ。
姉に気付いた彼は近づいて行った。
「久しぶり、姉貴」
「全く連絡つかないのな、慎」
「突然出て行った姉貴が言うかそれを」
「でも、まぁ・・・最後に見た時よりすっかり大人になったな」
「姉貴は相変わらず元気そうで」
「どうも」
姉が家を出た時は急だったので別れも告げられなかった。
勝手に慎は姉のことを嫌いになっていたが、会ってみるとそうでもなかったことに気付いた。
「よし。行くか」
「よろしく、姉貴」
「え?こっからはあんたの番よ」
「は?」
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