第7話「地上について」
「ねーねーお兄さん! 第四都市の冒険者ギルドってどんな所なの?」
「そりゃもう、いつだって活気に溢れていて楽しいところだとも! 消灯時間になってもあそこだけは特別に魔術灯を点けることを許可されているし、酒場も兼ねているからね」
ルーンと青髪の魚人は冒険者トークに花を咲かせている。一方の自分はというと。
「ねぇアンカー、アンカーはどんな武器が似合うかな? 王道の片手剣かな。でも両手剣も荒々しくてかっこいいね。あーでもやっぱり個人的には傷ついてほしくないから弓矢とか後方だと嬉しいな。ボクもどっちかというと後方の立ち位置だと思うからお揃い、いいでしょ?」
一方的にレイに話しかけられている。どんな武器が得意か、ではなく似合うかで話されているのもまた奇妙だ。これじゃまるで彼が自分のことを好きみたいじゃないか。まぁ、態度的に好かれていることは間違いないのだが好かれる理由がわからない。だから聞いてみる。
何故自分に対して、そこまで好意的なのか?
「ん? なんでって、なんでだろうね。キミのことがわからないから好きだよ。ずっとわからないキミのままでいてね」
そうにっこりと笑いかけられる。わからないが更に増した。わからないから好きとはどういうことなのだろうか。それじゃまるで、彼が全てを識っている、みたいな……。
というか、レイはいつまで自分の腕を掴んでいるつもりなのだろうか。そんなに掴まなくても迷子になったり、海流に流されたりなんかしないのに。
「そういえば、お兄さんってお名前なんていうの?」
「アイオライト。名字は親と同じ、トパーズさ」
「アイオライトさんですね! わかりました!」
青髪の魚人の名前はアイオライトというらしい。アイオライトもトパーズも、宝石の名前だということをふと思い出す。海中でも宝石は採れるのだろうか。それとも別の由来が? 気になってきた。しかし、誰に聞けばいいのかわからない。
「どうしたんだ、アンカー」
もやもやしていたらキーが話しかけてくれた。そうだ、どうせなら彼に聞いてみよう。レイはずっと一人で話しているし。
「あー、宝石か。宝石の多くは海中では採れない。採れて珊瑚だな、だから彼のような地上の物を名前に持つ者の多くは親の地上への憧れが強かったりするんだ」
そして本人も多くはそうだ、と付け加える。確かに、自分の名前になった物を見たい気持ちは理解できる。
「グリーンヒル。俺の名字だ。緑の丘、なんてのは深海には無いから俺も地上が気になるんだよな」
キーはそう言って笑う。そういえばルーンも地上が気になっていた。ルーン、月を意味する言葉。彼女は月が見たいのだろうか。彼女の性格的に月よりも太陽が似合うと思うが。
「……ちょっと、聞いてる?」
ようやく、自分の話を聞かれていないことに気づいたレイが不満げに自分の顔を覗き込む。いい機会だ、彼にも聞いてみよう。
地上に興味ある?
「え、地上に? そんなに……。でも、キミとなら新鮮な景色になるかもしれないね」
笑ってくれた。しかし、彼にとって自分が占める比重が重すぎやしないだろうか。まだ会って一日も経っていないのに。不思議だ。
「なになに!? 地上の話してるの!?」
「地上、ね。僕も行ってみたい気持ちは結構強いな」
冒険者トークをしていた二人も、地上トークに入ってくる。生憎、自分は記憶がほとんど無い。だから地上について、知ってることもほとんどない。だけど、彼らから聞く地上とはこういう場所だったらしいという話を聞くのは楽しかった。自分の生まれは、育った場所は。きっと青い空の下で、緑の草が風に揺れる場所だったのだろうと。そうであったら嬉しいなと夢を見る。
しかしそんな楽しい時間も、悲しいかな終わりが訪れる。宿に着いた。気持ち的には着いてしまったが正しい気もする。こうして魚人から知らない知識を得るのはなんだか楽しかったから。
「さて、此処が宿だよ。第四都市を楽しんでね」
「あっ! 待ってアイオライトさん! また会えるかな?」
「僕は此処の住人だし、冒険者ギルドに登録もしてるからね。ギルドに来ればきっと明日も会えるさ」
そう言って、彼は軽く手を振り去って行く。自分達も手を振り、見送った後宿に入っていく。幸いにも大部屋が空いており、皆で一緒に寝れることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます