第5話「いざ第四都市へ」
上へと泳ぐ分には良かった。レイに手を引いてもらっているし、自分自身も体が泳ぎを覚えていた。記憶に無いが、以前も泳ぎが身近な環境に居たのかもしれない。
しかし問題はここからだった。何も見えないのである。第五都市がいわゆる昼、それも地上のと見紛うほどに明るかったのもあるかもしれない。いや、そんなこと関係無いくらいに暗くて何も見えない。つい恐怖心からレイの手をぎゅっと掴んでしまう。
「フフ、どうしたんだいアンカー。あ、そうか。人間は暗いと何もわからないんだっけ。大変だね、大丈夫だよ。ボクが導いてあげるからね」
「えっ! 人間って暗いと何もわからないの!?」
「人間は視覚にかなり認識を頼っているらしい。俺達は水中なら水の流れで周りを把握できるが、人間は無理だな」
「じゃあアンカーは不安だよね……。もう片方の手は私が握っててあげるよ!」
そう言われ、左手が優しく包まれる。なんだか右側から見なくても不満です、と言いたげな雰囲気が流れてくるが無視することにする。
「まともな金も持たずに都市を出てきたけど、これから何処に行くんだ?」
キーが問う。確かに、ルーンもキーも恐らくレイも子供だ。レイは何か用事があって第五都市に、キーは貴族的な存在、と言っても手持ちのお金なんてたかが知れている気がしてならない。
「アンカーのために取り敢えず全ての都市を巡る。キミ達もほとぼりが冷めるまで帰りたくはないだろうし。ただお金が無いのもそうだから、取り敢えず第四都市に行く」
「あそこは宿も安い、合理的だな。資金はどう増やす?」
「わざわざ第四都市に行くんだよ? そんなの決まっているようなものでしょ」
「マジか……」
「冒険! しに行くんだね!?」
ルーンが喜びのあまり自分の手を引っ張り、少しバランスが崩れる。ちょっと、とレイが不満の声を上げるがルーンは気にしていない。
「あ! でもさ、武器とか防具はどうするの? 流石に護身程度はないと安全な遺跡でも危なくない?」
「それくらいの装備や道具を用意するだけのお金はボクが持ってる。仕方ないから使ってあげる」
「いいの? 結構優しいところあるんだね」
「これはキミ達のためじゃなくてアンカーのためだから」
冒険、武器、防具、遺跡。恐らく遺跡に行って何かをして、それでお金を得るのだろう。しかし問題がある。自分はどうすればいいのだろう。本当に何も見えないのに、役立てる気がしない。不安になって、物知りそうで……マトモだと思うキーに聞いてみることにした。
「それについては心配しなくてもいい。周りを水流で把握できるとはいえ、遺跡は視界も無いと厳しいからな」
「そうそう、だから魔術ランタンで辺りを照らすの! あれがあれば手元とちょっと先くらいなら照らせるよ!」
そう聞いてほっとした。武力行使に関しては二人も初心者だろうから一緒に研鑽していこう。
そんな会話をしていれば先に明かりが見えてきて、先導していたキーの姿も見える。
「あれが第四都市だ。第五都市が乗り物の都なら、あそこは」
「冒険者達の都! だよね!」
「人のセリフを取るな。合ってるけど」
えへへー、とルーンは笑う。
第四都市。冒険者ギルドの本部があるらしい、冒険者達の都。冒険者と聞くと、豪快な性格を想像する。此処なら第五都市のような怖い思いは誰もしないかもしれない。
「さ、第四都市も近いし急ごう」
「あ、そうじゃん! 急げー!」
「アンカー、手を離さないでね?」
なんて、一人で考え込んでいたら前に引っ張られる。何故第四都市の近くで急ぐ必要があるのだろうか。もしかしてもう深夜に近いとか? 理由を聞けないまま、第四都市のバーを潜っ……
「子供三人、と……人間? お前も子供換算でいいか。子供四人、お前達通行証は?」
ルーンは目を逸らし、何ならレイは顔ごと背ける。どうやら忘れていたらしい。え、どうするのこれ。
「……はぁ。仕方ないな。あの、私はグリーンヒル家の嫡男です。実は通行証を追いかけられて失くしてしまったんです。この身分証を通行証の代わりにしていただけませんか?」
「おぉ、それはそれは。失礼しました。ようこそ、第四都市へ!」
正確に言えば通行証は追いかけられたせいでそもそも貰えていないのだが。そんなことは黙っておくことにする。本当にキーが居て良かった。
「キー、さっきはお手柄だったね。ボクだけだったら門番を魔法で吹き飛ばしていたところだった」
「私だけだったら帰るしかなかったな~!」
……本当にキーが居て良かった!
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