第4話「外へ」

「取り敢えず、この路地裏から出てこの都市からも出て行こう」

「えっ」

「嫌なら来なくてもいいけど」

「……いや、行く」


 レイの提案に、キーは微妙そうな反応をする。どうやら彼はこの都市のお偉いさんの子供らしいし、その反応をするのも当然だろう。それでもついてきてくれるのは、人が良いからかそれとも家に帰った後に怯えているのか。自分には両方に見えた。

 一方のルーンはというと。


「都市の外に行くの!? てことは別の都市に行くってことだよね、えへへー楽しみだなぁ。別の都市に行ったことないから……」


 見るからに期待に胸を膨らませていた。活発そうな彼女が別の都市に行ったことがないというのは少し、いやかなり意外だった。


「だが路地裏から出た後はどうするんだ、見つかれば絶対お前も追いかけ回されるぞ」

「見つからなければいいんでしょ。その程度の魔法は簡単だから、早く行こう」


 レイが短く何か聞き取れない言葉を吐いた後、捕まれたままの腕を引っ張られ路地裏の外に連れ出される。武装した魚人がこの道を見張っているが、路地から出てきた自分達は見えていないようだ。


「えー!? すごーい! ほんとに見えてないんだ」


 ルーンは監視している魚人の周りをぐるぐると回る。


「でもこの魔法そこまで強固にかけてないから触ったら解けるよ」

「そういうことは先に言ってよ!」


 武装魚人をつつこうとするのをやめるルーン。まったく、何をしようとしているんだか。


「さて。ボクは運動が嫌いだ。此処は乗り物の都、適当に魚車でも捕まえよう」

「今は魚車を引く魚も運転手も工場で運搬に従事しているはずだが」

「嘘だろう……あんなくだらないことのために総動員?」


 レイは呆れた、とでも言いたげな声色で工場街の方を見る。キーは驚いた顔でレイを見ている。


「あの乗り物が何の為に造られているのか知っているのか?」

「あぁ、そういえばキミは知らされていないんだっけ。人間好きの物好きさん」


 まぁキミに教える気は無いけど、と付け加えてまた歩き出す。振り向けば微妙そうな顔をしたキーをルーンが元気づけていた。


「べ、別にキーは変じゃないよ」

「そんなわけないだろ。此処じゃ俺もお前も変わり者だ」


 なんだか寂し気な二人が見えたので、手を伸ばし声をかけようとするのをレイに阻まれる。


「あんなつまんない二人よりもさ、ボクの出身の話をしてあげるよ」


 レイは何故だか楽しげに、魔術や魔法について話してくれた。

 魔術は魔力が詰まった道具を使って発動するもののこと。だから魔力が切れれば手間と時間をかけて溜めなければならないし、魔法と比べればその出力はたかが知れているということ。そしてそれを作ったり使ったりする人は魔術師と呼ばれるらしい。


 魔法は自分の中や周りの環境にある魔力を直に使う技術のこと。だから魔法の方が出力は大きいのだが、万人が使えるものじゃないらしい。何なら、魚人の魔法使いは歴史上で数えるほどしか居ないんだとか。


「だからボクは凄いんだよ、アンカー。なんたって魚人の魔法使いだからね」


 そう自慢げに話す彼は、自分に好かれようとしているようにも見えた。


「それで、出身の第二都市だけど」

「ねーレイ、もう出口だけどあのバーどうするの?」

「潜って行こう。どうせバレないから」

「まぁ、バレたら大変なんだけどな」


 キーの言う通り、バーの前で出入りを見張っているのは例の武装魚人だった。しかし、今は触れなければ認識されない状態。皆でそーっとバーを潜り抜けた。

 バーの向こうには通路が続いており、暫く進めば天井が無くなっていた。


「さ、上に泳ぐよ!」


 ルーンが我先にと上に泳いでいくのを見て、自分達も上へと水を蹴った。

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