第2話「人間嫌い」
「まずこの辺りは見ての通り住宅街。奥にある大きいお屋敷はキーの家!」
ふと後ろを振り返り、自分が出てきた家を見る。なんだか丸みを帯びた珍しい形をした家だった。これがルーンの家らしい。
「へへ、うち結構変な形だよね。両親が目立ちたがり屋でさー、埋もれそうなのはイヤ! って」
なるほど、ルーンの両親らしい。その親にしてこの子あり、ということなのだろう。と一人で納得する。きっと両親も明るい人なのだろう。
「次はご飯屋さん、此処! 海藻サラダ美味しいよ。次は冒険者ギルドだよ。本部は第四都市にあるんだって。行ったことないけど」
いっそ地に足着く間もなく、腕を捕まれたままあれよあれよと紹介されていく。そういえばキーが自分達、というかルーンを止めていた。あれはなんだったのだろう、とぼーっと考える。
「そうそう、今大人達も私達くらいの子も乗り物作る工場に行っちゃってるんだよね。なんかめっちゃ凄いプロジェクト? があるんだってさ」
となるととても大きな乗り物が見れるのだろうか、部外者が見れるかわからないが楽しみだ。そうワクワクしていると、大きな建物が見えてきた。
暫く歩けば、扉が開放された工場達のど真ん中まで来ていた。皆、仕事に集中していて自分達には気づいていない。邪魔しないように外から見て回る。ルーンも皆に配慮してか小声で話す。
「ほらアレ、あのおっきいやつ。アレが今皆で作ってるやつだよ」
中身が空洞であれば何人も乗り込み、生活できそうなほど大きな金属の塊。少なくとも、これを見ても記憶は刺激されない。となると、特に関わりがないか見たことはないのだろう。
「向かいのアレ……は、関係ないやつかな。魚車だよ。魚に引かせて動かすの」
なんだか記憶の奥が刺激されて、脳の奥がむずむずする。しかしそれ以上は思い出せない。やけに揺れる乗り物を知っている、ような気がする。
そういえば、彼女は都市のほぼ皆が此処に居ると言っていた。ならルーンとキーは? 不思議に思い、聞いてみることにした。
「あぁ、私の両親は冒険家なの。だから此処で働いてるわけじゃなくてさ。だから私が手伝う必要無いんだ」
じゃあ、キーは?
「キーは、その……」
「やーーっと見つけた……」
ルーンと自分の間を裂くようにして、キーが割って入る。息を切らしてる辺り急いで探していたのだろう。しかし何故? その疑問に答えるようにキーが口を開く。
「まったく、この都市の貴族がっていうか全員。人間を好意的に思っていないことは知っているだろ」
「えー、でも皆ああは言ってるけどいざ来たら優しくしてくれると思うんだけどな」
「……皆はそうでも。一部はそうじゃない」
暗い声色でそう言い、自分の腕を掴んできた。
「ともかく、バレる前に帰るぞ」
「そんなー、皆に紹介したかったのに」
「それが一番マズイんだよ、お前話聞いてたか?」
そのまま引っ張られ、工場街の外に向かって歩みを進める。入る時と違うのは、バレないように物陰に隠れながらなところだ。
「あっ」
ガタン!
油断したのか、ルーンの尾が積んでいた物を崩してしまう。一斉に、全ての視線がこちらを向く。
「ご……ごめーん」
てへ、と引き攣りながらもルーンは笑う。キーは溜息をついている。
「おいおいルーン、また見に来たのかぁ?」
「まったく気をつけてくれよ~」
「キーさんもルーンの世話よろしく頼むっすよほんとに」
たまたま、物陰に隠れていた自分はバレなかったようだ。こちらを向いていた目線は、一つ二つと作業に戻っていく。
しかし、作業に戻らずこちらへ近づいてくる影が一つ。
「キー、此処に何をしに来た。危ないから来るなと言っただろう」
「あ、と、父さん」
キーの目が泳ぐ。あまり父親のことが得意ではないのだろうか。
「いや、ルーンがさ」
「違うだろう」
「ほんとだって」
「ルーンちゃんとお前は確かに仲が良いな、しかしルーンが此処に来たときお前はいつも言いつけを守って此処に来なかった。何故今日は来た?」
ルーンの視点も自然と下がる。自分も、理由が自分だとはとてもじゃないが言い出せなかった。威圧感が異常なのだ。少なくとも、息子に見せる態度ではない。
「何故だと聞いているんだ!」
彼の父が手を上げ、キーが頭を庇うような動作をする。それを見て、キーを庇うように自分の体が前に出る。ばっと両腕を広げ、キーの父親らしい人物を睨みつける。ルーンも勢いのまま彼の腕を掴んで止めている。
「ちょ、ちょっとモナクさん!叩いたり殴ったりするのは良くないですっ!」
そう制止する彼女を振り解き、憎しみの目で自分をしっかりと見つめる。
「やはり人間だったか……捕らえろ!」
「ッマズイ! 逃げるぞルーン、アンカーを頼んだ!」
物陰からぞろぞろと出てくるのは、武装した魚人達。明らかに、こちらに敵意を向けている。自分達は一目散に工場街を出るが、武装した奴らの方がずっと速く追いつかれそうになる。
ある路地裏の前を通った時。
「こっちだよ」
そんな声が聞こえて、一か八か自分達はその路地に飛び込んでみることにした。
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