第4話 美味しい匂いに誘われて……。

 家を出ること、十分。


 やってきたのは、近くにあるスーパーマーケット。


「人間界には、こんな素晴らしい場所があるんですねっ♪」


 目をキラキラと輝かせながら、店内を見渡している。


 部屋のときもそうだが、天使さんにとってはどれもこれも初めて見るのだろう。


 なんというか、微笑ましい光景だな。


「……ふっ」

「ん? どうしたの?」

「いえ、なんでもないですっ」

「?」


 入り口にあったカートにカゴを乗せて、買い物開始だ。


 と思った矢先、


「おぉ……っ!」


 目を輝かせている彼女の視線の先にあったのは、


「から揚げ……アジフライ……フランクフルト……。どれも美味しそう~っ♪」


 これ以上の説明は不要だろう。


 ぐぅううう~。


 ……って、天使の胃袋は、一体どうなっているんだ?


「あっ、ダメです……っ。体が勝手に……っ」


 と呟きながら、揚げ物コーナーに吸い寄せられる天使さん。


 薄々、こうなるんじゃないかと思っていたけど……。


(予算以内に収まるかな……)


 もし、このまま天使さんがウチで暮らすことになったりしたら、出費がとんでもないことになりそうだ。


 まあ、そのほとんどが食費というね。


「はぁ……。三つまでにしてくださ――」


 そのとき、天使さんに向けた足が止めた。


 ……どうして今、俺はそんなことを……




 その後。


 買い物を終えて、俺と天使さんはスーパーを出た。


「いやぁ~、いっぱい買っちゃいましたねっ!」


 そう言って、パンパンのエコバッグを両肩にかけている天使さんはというと、


「うぅ〜んっ!! このフランクフルト美味しいぃぃぃ〜♪」


 両手に持ったフランクフルトを美味しそうに頬張っていた。


「そ、そうですね……。あははは……」


 おかげで、財布の中はスッカラカン……。


 はぁ……。せっかく、節約して新しいゲームを買おうとしていたのに……。


 また今度だな。


 お金は、天使に捧げたと思えばいい。


「……あ、あの」

「ん? なぁ~に?」

「……天使さんは、どうして一流の天使になりたいんですか?」

「え? う~ん、そうだなー……」


 天使さんはフランクフルトを持ったまま腕を組んで考え込むと、


「単純になりたいと思ったから、かな」


 と言って、ニコッと笑みを浮かべた。


「理由になってないんですけど……」

「理由なんてないよっ。物心ついたときから、私は一流の天使になるんだっ! って、ずっと言い続けてきたからっ」

「!! そう、なんですね……」

「えへへっ♪ でも、急にどうしてそんなこと――」

「ちょ、ちょっと気になっただけですっ! ほ、ほらっ、早く食べないと冷めちゃいますよ?」

「あっ!!」


 ……。


 …………。


 ………………。


 それからものの数分で、天使さんはフランクフルト二本をペロリと平らげた。


 さっきの、口いっぱいに頬張っている姿を思い出すと……


「…………っ」


 無自覚って、恐ろしいな。


「ねぇ、梨久くん」

「……ッ!! な、なんですか!? から揚げは家に帰ってからですよ!?」

「えっ、ダメなの……!?」

「当たり前ですよ。晩ご飯のおかずが減っちゃうじゃないですか」

「うぅ……っ。じゃ、じょあ我慢するっ!」


 ………………。


「……やっぱりダ――」

「ダメです」

「むぅ〜…………ぷふっ、あはははっ♪」

「……ふふっ」




 ――誰かと笑ったの、最後はいつだっけ……。

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