第2話 天使のお腹が鳴った。

「…………」

「ご、ごめんね……。つい反射的に手が出ちゃって……っ」


 ローテーブルを挟んで、謎の美女は反省の顔で正座をしていた。


 さっきベットの上で目を覚ましてからというもの、彼女は何度も謝ってきた。


 正直、もう怒る気にもならない。


 それにしても、まさか五時間近く眠っていたなんて……。


 まぁ、学校を休む理由ができたし、これはこれでいいや。


 …………あ。


 ここで俺は、ふと頭に浮かんだ疑問について尋ねた。


「……どうして、俺の家がここだってわかったんですか?」

「えっ。そ、それは……はっ……はっくしゅん!」


「……⁉︎ つ、翼……⁉︎」


 くしゃみをした瞬間、美女の後ろから白い翼がバサァッ! と飛び出てきたのだ。


「……飛び出てきた⁉︎」

「あっ! こ、これは……そう! 人間界で言うマジックです……!」

「人間界?」

「あ。……ごっほん」


 ワザとらしい咳払いをすると、羽が粒子になって消えた。


 マジックにしては、ツッコミたくなる部分が多いすぎる。


 ………………。


 彼女に聞きたいことは、三つ。


 なぜ、空から落ちてきたのか。


 なぜ、俺の家がここだとわかったのか。


 なぜ、背中から翼が『生えた』のか。


 ……一つずつ、確かめていくしかないな。


 じゃあ、まずは…――


「わ、私……実は天使なんですっ!」

「…………はい?」

「実は、私……天使なんですっ!」

「はぁ……」

「あ、あれ? びっくりしないんですか?」

「…….少しは空気を読んで欲しかったんですけど」

「え、ええぇ……?」


 推理タイム、一瞬で終了〜。


 はぁ……。もうなんでもよくなってきた。


「ところで、名前はなんて言うんですか?」

「名前? 私の?」

「他に誰がいるですか?」


 なんだか、反応が悪いぞ? ……もしかして、


「実は……名前がないんです……っ。私……」


 ……やっぱり。


「見習い、ですから……」

「え、見習い?」


 話を聞くと、どうやら、彼女は天使になりたての見習いの天使で、人間たちのことを勉強するために、天界? から下りてきたらしい。


「つまり、空から落っこちてきたのは、力がまだまだ未熟だったから。ということでいいんですね?」

「それもあるんだけど……」


 ぐぅううう~。


 そのとき、彼女のお腹から可愛らしい音が鳴った。


「…………」

「…………」

「えっと……実は、こっちに来てからずっとなにも食べてなくて……っ」

「そうなんですか?」


 ぐぅううう〜。


「うぅぅ……っ」

「……はぁ、しょうがない。簡単なものでいいなら、なにか作ってきますよ」

「えっ。そんな、お構いなく……」

「困ったときはお互い様って言葉があるんです。人間界には」

「そうなの……!? じゃ、じゃあ、お言葉に甘えようかなー……っ」




 ――五分後。


「さっ、できましたよ」


 ふたを取ると、美味しそうな湯気がほわ〜んっと天井に向かって伸びていく。


「おぉ……っ!」


 そう。今回作ったのは、誰でもお手軽にできるカップラーメン!


 一人暮らしをする上で、まさに最強のアイテムだっ。


 ちなみに、今回のカップラーメンは醤油味である。


「へぇー。沸かしたお湯を入れて三分待つだけでできるんだーっ。すごーいっ♪」


 カップラーメンを作っただけで、こんなに喜んでくれるのか。


「あ、でも、本当によかったの?」

「いいんですよ。気にしないでくださいっ」


 ほんとは、今日の晩ご飯のために昨日買っておいたものだが、まあいいだろう。


 本物の天使がカップラーメンを食べるところを見られるのだから。


 一日くらい我慢したって、なんとかなるだろ。


「じゃあ……いただきますっ!」


 箸は使ったことがないらしく、代わりにフォークを持って食べることに。


 そのフォークで、スープが絡んだ麺をゆっくり持ち上げると、


「あぁぁあーんっ」


 ――ぱくっ。




「んん!? お……美味しいぃぃぃぃぃいいいいいーーーーーっっっ!!!!!」




 天界に届きそうなほどの、大きな声を上げた。


 ご近所のみなさん、ごめんなさいっ。

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