腹ペコ天使さんとお腹を満たすだけっ。

白野さーど

第1話 天使が空から落ちてきたっ!?

 七月も中旬に差し掛かった頃、三十度後半の気温の下、俺は一人トボトボと帰り道を歩いていた。


アチぃ……」


 コンビニに行くだけなら、日中の昼間から出なくてもよかったかもしれない。……まぁ、夜は夜で蒸し暑いからあまり差はないだろうが……。


 と心の中で思っていると、前の方から来た制服姿の二人組が横を通り過ぎて行った。


「………………」


 咄嗟とっさに袋の中を見るフリをした俺は、無意識に止めていた息を吐く。


「はぁ……」


 ――あの二人は……間違いない。同じクラスの奴らだ。


 実家から離れた高校に通うために一人暮らしを始めてから、約三カ月。


 片や学校帰りの寄り道を楽しみ、片やコンビニ帰りで一人寂しく帰る……。


「……フンっ、ちっとも笑えねぇーな」


 出席日数を満たすためだけに行っていた、あの日々……。


 飯田いいだ梨久りくの高校生活は、ほぼ幕を閉じていると言っていいだろう。


 この状況を見れば、誰でもそう思うはずだ。


「はあぁぁぁ……。なにか面白いこと、ねぇーかなー……」


 長いため息をこぼしながら空を見上げた瞬間、




 ――――…あ、あれ……?




 まばたきをすると、一瞬にして視界一面に真っ暗闇の世界が広がっていた。

「え……」


 まず感じたのは、背中越しに感じる地面の熱さと背中に走る痛み――――そして、


 ――息が……く、苦しい……っ!


 顔全体がなにかに圧迫され、息ができない状況に陥っていた。


「っ……むっ……んんッ!!」


 なにが起きたのか把握できないまま、半ばパニック状態で手や足をバタつかせると、




「――あ、んっ……♡」




 どこからか喘ぎ声のような色っぽい声が聞こえた……気がした。


 ――というか、なんだ……これ……。


 手のひらには決して収まらないその大きくて柔らかい物体は、適度なハリと弾力によって、沈ませた指を優しく押し戻す。


 その初めての感触に魅了された俺は……ゆっくりと目を…――って、今はそんなことを考えている場合じゃないだろ!!!




「――んんッ!! あ、あれ……ここは……」




 また声が聞こえたかと思えば、上から押さえつけていた物体がゆっくりと顔から離れた。


「――ッ!!? ハァッ、ハァッ!! はあぁぁぁー……し、死ぬかと思った…………え」


 ありったけの空気を吸い込み、ホッと息を吐くのも束の間、俺は……覆い被さる体勢でこちらを見下ろす“女性”と目が合った。


 黄金こがね色に輝く金髪ロングの髪と、見る者全てを惹きつけるその美貌……。


「…………っ」


 絶世の美女という言葉は、彼女のためにあるのだと思ってしまうほどに、神秘的な淡い光を纏う彼女に、俺は魅了された。


 そして、これでもかと言わんばかりに強調している二つのスイ…――――あれ、ちょっと待てよ。さっき触っていたのって……もしかして……。


 と心の中で呟きながら手でモミモミする仕草をすると、


「あ、ああ……ああああっ……」


 謎の美女は頬を赤く染めながら上体を起こし、手を振り上げる。


 その光景は、傍から見れば地面に押し倒した男の上に跨り“大きなスイカ”を触らせている女性の図で――




「いっ……いやぁぁああああああああああーーーーッッッ!!!!!」




「えっ――ふげぇ……っ!!」


 目にも止まらぬ速さの平手打ちによって、俺の意識は…………途切れたの……だった――。

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