第16話 アレックス公爵とミレーネアのざまぁ

〜〜ゼイ視点〜〜


 試験会場がアレックス公爵の手によって強制閉鎖を強いられていた。

 

 職員を買収したことになるのだが、この件を王城に行って直接聞いてみるのが得策だろうな。

 公爵の手がどこまで影響があるのかも知りたいし。


 などと、思っているとサラノアが戻ってきた。


「ゼイ様。会場が再開する模様です!」


 なぜだろう?

 目の前にはアレックス公爵がいるのに?


 会場に行って見ると、彼女の言うとおり、会場の扉が開かれていた。

 職員が2人に詰め寄られる。


「おい! 僕はアレックスだぞ! それを知って開けているのか!?」

「そうですわ! こんなことをしてただで済むと思ったら大間違いですわ!」


 これは心配だな。

 賄賂を貰った職員がアレックス公爵に反したとなると、どんな報復を受けるかわからない。


 そこに、衛兵を連れた背の高い女が現れる。

 スーツを着てメガネを掛けていた。


「私は王室から派遣された監査員だ。本日は試験会場の監査をする日だったのさ」


 なるほど。

 偶然とはいえ、これはついてる。わざわざ、俺が出向く必要もなくなったということか。


「アレックス公爵。試験会場を強制閉鎖に追い込むとは、これはどういうことでしょうか?」


「ぬぐぅ……。ぼ、僕は何も知らんぞ! 一切、関与はしていない」


「ほぉ。監査員を舐めないことですね。そもそもは受験者の不正を調べるのが私たちの仕事。でも会場自体を閉鎖してしまうような不正を働く者がいるとなると、これはもう厳重調査の一環ですよ?」


「ぐぬぬぬぅ! ぼ、僕を舐めないことだな。僕は王室関連に顔が利く。僕を問い詰めても何もでないさ」


「それでは、後日しっかりと調べさせていただきます」


「ぬぐぅう……」


「勿論、本日の試験会場は平穏無事に営業です」


「か、帰るぞ!」

「え? ア、アレックス様? どういうことですの!?」

「うるさい! 帰るんだ!」

「ちょ、え? 意味がわかりませんことよ!?」


 ふふふ。

 王室直属の監査員となれば、公爵の力でもねじ伏せるのは不可能だからな。


「メス狐さーーん。帰る時はコンコンですよーー!」

「コンコンって鳴くのよーー!!」


 サラノアとフォナは嬉しそうに呼びかける。


「キィイイイ! お、覚えてないさいぃいい!!」


 そう言って去っていった。


 サラノアは監査員に向けて親指を立てる。

 そして、小さな声で、


「グッジョブです。スミレ


 と言う。

 

 ん?


「監査員はお前の知り合いか?」


「ほえ!? あ、いえ。ぜ、全然知りません!」


「?」


 聞き間違いかな。

 まぁいい。とにかく試験会場は無事に営業することになったからな。


「よし。それじゃあ試験だぞ! 2人とも頑張ってな!」


「は、はい! 私、緊張してきました!」

「うん。がんばるよ!」


 試験会場は関係者以外立ち入り禁止だからな。

 教育係とはいえ、俺は外で待たなければならない。


 2人とも、なんだかんだで一生懸命がんばったからな。

 なんだか俺まで緊張してきたや。


 3時間後。

 

「ゼイ様ぁ!」

「ゼイ君!」


 さぁ、合格か?

 それとも……。


ドキドキ。


「どうだった?」


「どうだったと思いますか?」


「え?」


 疑問文を疑問文で返された。

 こうなると表情を読むしかないが……。


 ふ、2人とも微妙な顔つきだな……。


「お前たち……もしかして」


 落ちたのか?


「「 ………… 」」


 2人は顔を見合わせて言いにくそうに黙り込んだ。


 これは……落ちたっぽいな。


 やれやれ。

 まぁ、いいさ。


「そう落ち込むなよ。次があるんだからさ」


「あ、いえ……。その……。試験には合格したんです。2人とも」


「え? じゃあどうしてそんなに暗いんだ?」


 フォナは恥ずかしげに言う。


「あ、あのね……。合格者は10人以上いたんだけどね。それで、取得点数が順位付けされるのよ。それであたしたち……。その……ごめんね」


「なんのことだ? 合格したからいいじゃないか?」


「だってぇ……。その……。ゼイ君が一生懸命に教えてくれたのにさ……。さ、最下位だったんだもん……」

「わ、私も……その……。もうしわけありません。最下位なんです。うう……」


 やれやれだ。


「ははは! そんなこと気にしないよ! お前たちが合格すればそれでいいんだって!」


「で、でも……。なんかごめんね」

「うう。申し訳ありません」


「いーーや。十分だって! おめでとう! これで冒険者に登録できるぞ!」


 2人はようやく笑顔になった。


「あは! 喜んでくれて嬉しいです! ありがとうございます!」

「ありがとうゼイ君!」


「よし! 早速、ギルドに行こう!」




ーーギルド【新緑の咆哮】ーー


 受付嬢が2人にバッジを渡す。

 そこにはDと刻印されていた。


 2人はそれを身につけた。


「あは! どうですか、ゼイ様?」

「ど、どうかなゼイ君?」


「うん! 2人とも似合ってるよ」


「ありがとうございます」

「やったね! サラノアちゃん!」


 よし。

 じゃあ、俺はハーマンの所へ行こう。




ーー2階、事務所ーー


「2人とも希望職に就けたぞ。フォナは魔法使い。サラノアは剣士だ」


 ハーマンは満足気に笑った。


「うむ。よくやってくれた。報酬の250マンコズンだ」


 よし。

 これで800万の借金が減るぞ。

 200万を返済に充てて、残り50万は自由に使うとしようか。

 これで残り600万コズンだ。


 さて、それじゃあ、頑張ってくれた2人には俺からお礼しないとな。


「これから昼食に行こう。お祝いを兼ねて、俺からの奢りだ」


「ふはああああ! 宜しいのですかぁあ!?」

「なんだか悪いよ」


「気にするな。この調子でS級まで昇級してくれれば、俺には纏まった報酬が入るんだからな」


 こうして、俺たち3人は豪華な昼食を取るのだった。


 昼食後。


「今日はもうオフにしよう。それぞれが王都で好きなことがしたらいいからさ」


「あ! ではでは! 私は買い物がしたいのですが、よろしいでしょうか!?」


「ああ。気をつけてな」


 さて、それじゃあ俺はどうしようかな?


プニィ……。


 と、腕に柔らかい感触が伝わる。

 それはサラノアが俺の腕を抱きしめているからだった。


「なんだ?」


「えへへ……。そ、それじゃあ行きましょう♡」


 俺も行くのか?




こうして、ゼイの教育は順調に進みました。

色々トラブルもあったらしいですが、借金は無事に返済されたそうですよ。


この3人の恋の行方はまた次の機会に語りましょうか。



おしまい。




────


応援ありがとうございました。


また次の作品でお会いしましょう。

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伯爵令嬢に婚約破棄された最強の魔法剣士は見習い冒険者の教育係になる〜「あなたとよりを戻しても良くってよ」と言われても、優しい教え子がいるので、こちらから願い下げだ〜 神伊 咲児 @hukudahappy

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