第15話 ミレーネアの悪巧み

〜〜ミレーネア視点〜〜


 くそくそくそくそくくそぉおおおおおッ!


 悔しいぃいいい!

 悔しいわぁあああああッ!!


 執事のベバスチャンは呆れる。


「お嬢様。そんなに物に当たられますとご主人様に叱られますよ?」


「うるさいわね! 私に注意する暇があったら、あの女どもをギャフンと言わせる作戦を考えなさい!」


「……ふぅむ。人を困らせることは私の性分ではありませんが、お嬢様の怒りを鎮めることはファインブルゼ家の執事としては必須事項でございますからな」


 そう言って部屋を出ていく。


「ああーーもう、イライラするぅううう!! 誰がメス狐よぉおおおおお!!」


「お嬢様。情報を仕入れて参りました」


「言いなさい。聞いてあげますわ」


「明日の午前に、ゼイ様の教え子らが職業試験を受けるそうでございます」


「だったらなんだっていうのよ!」


「私は情報を仕入れるくらいしかできませんよ」


「ったく愚図なんだから! そんなことがわかったところでどうだっていうのよ! それに、あんなガキなんて試験に落ちればいいんだわ! そうなれば少しは気が晴れるわよ!」


「落ちるように祈ることくらいしかできませんな」


 あーーあ。

 そんなくだらないことで時間を使うのは勿体ないわ。


 ……待てよ。

 運に頼るより実力行使ができればいいじゃない。


「試験を中止させちゃえばいいのですわ」


「え? そんなことはできませんよ。職業試験は王室の管轄ですから」


「じゃあ王室に協力を仰げばいいじゃない」


「それも不可能でございます。ファインブルゼ伯爵は王室にそれほどの影響力がありませんからな。ご主人様の力を持ってしてもできないことかと思われます」


「ふふふ。お父様ならね」


「は?」


「馬車を出しなさい」


「こんな夜遅くにでございますか? どこに行くのでございましょうか?」


「アレックス公爵に会いに行くのよ」


 くくく。

 彼なら王室に顔が利く。

 試験会場を1日閉鎖することくらい造作もないこと。


 見てなさいゼイ。

 私を振ったことを激しく後悔してさしあげますわぁああ!

 土下座して、足を舐めるまで許しませんことよ。

 オーーーーッホッホッホッ!!




〜〜サラノア視点〜〜


 ああ、ドキドキします。

 今日は……午後からゼイ様とデート。

 夢にまでみたゼイ様と……。


 くぅう……。

 もう幸せです。

 

 フォナちゃんが小声で話す。


「まずは試験に合格ね」

「わ、わかってます」


 そ、そうです。

 試験に落ちたらゼイ様が失望してしまいます。

 そうなれば楽しいデートも台無し。

 なんとしても試験は合格しなくては!


 しかし、そんな意気込みも虚しく、試験会場は閉鎖していた。

 門前には受験者の人だかりができていた。


「おい。なんで閉鎖なんだよ!?」

「わざわざ来たのになんで閉まってるのよ?」

「理由はなんだ!」


 どうやら、みなさんも理由は知らないようです。

 ゼイ様も小首を傾げます。


「おかしいな。今日は開いてるはずなんだが?」


「ゼイ様。看板は営業日となっていますよ」


「ふぅむ。なんで閉鎖しているのだろう?」


 マント姿の男が私たちの目の前に現れた。


「フハハハ! これはこれはゼイグランド殿ではありませんか」


 だ、誰でしょう?

 

 ゼイ様を見ると、面倒臭そうに頭を掻くだけ。


 男は私たちを見て跪く。


「おお。これは麗しい生徒たちだ。僕はアレックス・ルード・シュナイダー。シュナイダー家、13代目の当主です」


 シュナイダー?

 公爵の名前ね。


 フォナさんもそれに気がついたようだった。


 でも、公爵がゼイ様になんの用事でしょうか?

 知り合いのようだけど。


「僕のミレーネアが随分と世話になったようだね」


 ん?

 あのメス狐のことを知ってる?


「おほほほほ! 昨日は楽しかったですわぁ」


 んゲ! メス狐!


 彼女はアレックス公爵に抱きつく。


「今日は職業試験はやっていないようですわね。うふふふ」


 あれ、なんだかこの感じ……。


「昨日、あんなことがなければ……。わたくしにユニークなあだ名なんて付けなれば、今日の試験は受けれたかもしれませんわねぇ。ふふふ」


「どういうことだ?」


「ふふふ。どういうことかしらねぇ。わたくしにもさっぱりわかりませんわぁ。ねぇアレックス様」

「フハハハ! 僕のミレーネアをメス狐扱いしたらしいな。その報いはシッカリと受けてもうぞ、ゼイグランド」


 なるほど。

 つまり、昨日の腹いせか。彼女が公爵に頼んで試験会場を閉鎖したのね。

 あの様子から、2人は恋仲だろう。


「アハハハ! ゼイ! わたくしに土下座するなら許してあげてもよくってよ!! その時にしっかりと靴の裏まで舐めてもらいますけどねぇえええええ!! あははははーー!!」


 ああ、もう最悪ね。

 私たちじゃなくて、ゼイ様にやらせようとしているのも魂胆が見え見え。

 彼が土下座をすれば、それを見ている私たちは死よりも重い屈辱となる。


「ギャハハハ! ゼイグランド殿、これは土下座しかありませんぞ! 君たちがいつ来てもこの試験会場は閉まっているだろうからなぁああ!! ギャハハハーー!!」


 ううう。

 これは我慢できないわ。


「ゼイ様。ここは空気が悪いですから、少し離れた所で考えましょう」


 私は戸惑うゼイ様の手を取った。

 遠ざかる私たちにメス狐は笑う。


「あはははは! 3人で無い知恵を絞るが良いですわぁ! 土下座の覚悟ができたらいらっしゃい! 楽しみに待っているから、アハハハハハーー!!」


 そんなこと、絶対にさせないわよ!


 私たちはそこから離れた場所へと移動した。

 歩きながら聞いてみる。


「ゼイ様は公爵を知っているようでしたね?」 


「アレックス公爵はミレーネアのフィアンセなのさ。俺が婚約破棄にあった日から、俺は目の敵にされているんだ」


 つまり、あの人はメス狐の浮気相手だったのか。

 うう、だったらメス狐同様、ゼイ様の敵ね!


「ゼイ様。フォナちゃん。ちょっとここで待っていてくださいませんか? 私、少し、お腹の調子が悪くなってしまったんです。トイレに行かせてください」


「ああ。少し策を練ってみるよ」


「私が帰ってくるまでは必ずここに居てくださいね!」


 念を押して、私は2人から離れた。


 トイレは2人から離れる言い訳です。


 ヒューー! と指笛を鳴らす。

 すると黒装束に身を包んだ、グラマラスな女が現れた。


「サラノア様。お呼びでしょうか?」


 彼女の名はスミレ

 私の忠実な従者。第一皇女である私の身の安全を確保するため、お父様が用意してくれた側近だ。


「試験会場が閉鎖しているの。何か知らないかしら?」


「はい。先ほどからこの件について調べておりました」


「仕事が早いわね」


 そういうと、彼女は顔を染めた。


「サ、サラノア様のためならば、命をかける所存でございます」


「そんな無理しなくていいわよ。これはあなたの仕事じゃない。お父様の命令に従っているだけでしょ」


「とんでもございません。私はこの任務に強く志願したのでございます」


 へぇ。そうだったんだ。


「それで、試験会場の状況は?」


「は! 調べたところ、全職員がアレックス公爵に買収されておりました」


 やっぱりね。


「いかがいたしましょう? 全職員を斬首刑に処することも可能ですが?」


「流石にそれは可哀想よ。公爵の圧力には逆らえないだろうしね。王室関係でアレックス公爵と手引きしている者がいるのね?」


「はい。しかし、そこを調べるには少々時間がかかります」


「いいわ。まずは試験会場をなんとかしましょう」


「は!」


「全職員には条件付きで罪を不問にしましょう」


「え? そんな! 公営事業の介入は大罪ですよ!」


「構いません。その代わりに、営業の即時再開。それから、今後一切、アレックス公爵、並びにファインブルゼ伯爵の要求は受けないことを約束させなさい。やぶれば牢屋に閉じ込めると言ってね」


「ふはぁあああ! なんとお優しい!! 感動いたしましたぁ!」


「んもう。大袈裟なんだから」


「サラノア様ぁ♡♡♡」


「じゃあ頼んだわよ」


「……あ、あの」


「どうかしましたか?」


「……サ、サラノア様と話すのは久しぶりでして……。それで……その……」


 ああ、いつものか。


 私は彼女の頭をやさしく撫でた。


「いーー子、いーー子ね♡」


「ふはぁああ! し、幸せでございますぅうううう♡」


「それじゃあ、やってくれますか?」


「はいぃいいい♡」


 よし、ゼイ様の所へ戻ろう。


 ふふふ。

 アレックス公爵、メス狐、覚悟しなさい。

 ゼイ様を困らせる輩は私が許さないんだから。





 

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