第14話 フォナの作戦

 夕食後。


 あたしは気になることがあったので、サラノアちゃんの部屋を訪ねた。


 あたしの推測は間違っているだろうか? どうしても確認せずには居られない。彼女は──。

 

「ゼイ君のこと好き?」


 私の問いかけに、彼女は真っ赤になって混乱した。


「え? え? えええ!? い、一体、な、なんのことですか?」


「…………」


 こ、この反応!


 全身から汗を飛散させて、視点は一点に定まらない。

 

「はわわわわわわわわ……」


 ゼイ君のことを言っただけでこの反応!


 うん!


 全くわからない!


 完璧なポーカーフェイスだわ!

 流石は恋愛マスターね。

 

 でも、もしかしたら本心を隠しているのかもしれない。

 あたしに悟られないようにカモフラージュしているのかも。

 よし、カマをかけてみよう。


「隠さなくてもいいよ。もうバレてるしね」


「ええええ!? そうだったんですかーー!? 恥ずかしいです!」


「観念しなさい。ゼイ君のこと……。好きなんでしょ?」


 彼女は全身を更に赤らめた。

 そして、ゆっくりと、コクンと頷く。


「やっぱり!」


 そうだと思った!


「は、恥ずかしいですぅ……。うう」


「隠さなくても良かったのに」


「だってぇ……」


 と、言いにくそうにこちらの様子をチラチラと伺いながら、


「……でも、どうしてわかったんですか?」


「う!」


 根拠はないのよね……。

 ただなんとなく、そう思っただけ。

 それに、


「サラノアちゃんとは気が合うみたいだしさ。わかるようになっちゃった……かもね」


「うう。……な、なんかごめんなさい」


「どうして謝るの?」


「だってぇ……」


「?」


「フォナさんもゼイ様のことが好きなんですよね?」


 はい?

 何それ?


「はははは!」


「な、なんで笑うんですか?」


「だってぇ。ゼイ君とは友達だもん。そんな訳ないでしょ」


「そ、そうだったんですか?」


「勿論よ」


「……じゃ、じゃあ。私がゼイ様を好きでもいいんですか?」


「当然よ」


「あは! 良かったです!!」


「うふふ。あたしも嬉しいよ」


「え? どうして嬉しいんですか?」


「当たり前じゃない。サラノアちゃんは良い子なんだから。そんな子がゼイ君のことを好きなのよ。これは友達としては応援せずにはいられないでしょ!」


「あは! そう言っていただけると気持ちが楽になります! フォナさんとゼイ様って幼馴染じゃないですか。だから、私なんかが入り込む隙がないって思っていたんです! それに、もしかしたら相思相愛なのかもって思っていました」


 う!

 相思相愛で思い出すな……。

 この修行屋敷に来て初めての夜。

 あたしは彼の上に覆い被さってしまった。


 あの時……。

 な、なぜか心臓がドキドキして……。

 うう……。


 あ、あろうことか、ゼイ君と……。キ、キスしようとしちゃったのよ……。

 あーー、もう、本当にあたしはバカだ。

 小さい頃の思い出がまだ残ってる。

 ゼイ君は大好きなお兄ちゃん的存在だったから、その思い出の延長線であんなことをしちゃったんだよね。

 まだまだ大人になり切れてない証拠だ。しっかりしなきゃ。


「フォナさんとゼイ様ってすごく良い雰囲気なんですよね。私は焼いちゃうんです」


「ははは。そんなこと思ってたんだ。恋愛マスターでも悩むのね」


「ほえ? 恋愛マスターって誰のことです?」


「あなたしかいないでしょ?」


「わ、私は恋愛なんてマスターしてませんよ! そもそも、ゼイ様以外に恋なんてしたこともないのですから!」


 え!?

 意外!!


「サラノアちゃん……モテそうなのにね。あたしが男だったら絶対に告白してると思うな」


「あはは。そんなこと言い出したらフォナさんだってそうですよ。こんなに可愛い子は見たことがないんですから」


あたしは可愛くなんかないよ……」


「ははは。んもう。自己評価が低いんですから」


「ふふふ。やっぱりサラノアちゃんは優しいな」


「フォナさんこそ。私はフォナさんと一緒に修行ができて幸せですよ! どこぞの伯爵令嬢みたいな人だったら絶望していました」


「あはは! あたしもそうだな。メス狐が生徒仲間だったら嫌だった」


「「 アハハハハ! 」」


 ふふふ。

 彼女こそ、ゼイ君に相応しい女の子だよね。


「明日はいよいよ職業試験ですね。私、緊張しちゃいます」


あたしも」


「ここまで頑張ってきましたからね。結果を出したいです」


「うん。だね」


 そうだ。


「明日は3人で王都に行くじゃない。試験結果は午前中に出て終わるんだからさ。午後からは3人で王都を楽しもうよ」


「わはぁ♡ それは良い案ですね! 買い物に食事、どこに行こうか悩みます!」


「それでね……。考えたんだけどさ────」


 と、彼女の耳元で囁く。


「ええーーーー! 私とゼイ様を2人きりにしてくれるんですかぁあああ!?」


「しぃい! 声が大きいって。ゼイ君に気づかれちゃうわよ」


「す、すいません。で、でもでもぉ。ゼイ様と2人で王都を歩くだなんて……。デ、デートじゃないですかぁ!」


「ふふふ。そうよ」


「うはぁあああ♡ ゼ、ゼイ様とデートぉおお。考えただけで涎がぁあああ。ジュルルルル」


「……ははは。はいハンカチ」


「ああ、ありがとうございます」


「でもでも、本当にいいのですか? 私たち2人で楽しんでしまって……」


「いいのいいの。大好きな2人が幸せになってくれたらあたしだって嬉しいんだから」


「あはーー! フォナさん、良い人すぎですぅう! 大好きぃいい!」


「ちょっ!」


 彼女の頬擦りが止まらない。


「フォナさーーん♡」


 あたしは優しく頭を撫でた。


「明日が楽しみね」


「はい。もう楽しみ過ぎて寝れないかもしれません。スリスリ」


「いや、それは困るわよ。まずは試験に合格することを考えなきゃ。落ちたら先生が悲しむもの」


「そ、そうですよね! そんなことでゼイ様を悲しませてはいけませんよね!」


「そういうこと♡ まずは試験に合格! それから楽しいデートよ!」


「あは! 明日はがんばります!」


「うん!」


 よぉし、いい流れになったぞ。

 ミレーネアみたいな性悪女にゼイ君を取られるのは絶対に嫌だからな。

 サラノアちゃんとくっついてくれればいうことなしだわ。うんうん。


 試験合格に友達の恋人作り。

 明日はがんばるぞ!

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