第13話 ミレーネアのざまぁ

「ど、どういうつもりですの? わ、わたくしがあなたを求めているんですのよ! このミレーネアがよ!」


「そんなこと知るか」


「そ、そんな……。あ、あなたはわたくしのことを愛していたんじゃありませんの?」


「ああ、愛していたさ。真剣に結婚することを考えていた。だが、気付かさせたよ。あの日、お前が俺との婚約破棄を宣言したあの社交界の日にな。ミレーネア。お前の小根は腐っている」


「そ、そんなぁ……。あ、あんなに優しくしてくれていたのに」


「それはお前を信じていたからだ。しかし、裏切られた。元々、お前は浮気性で、色々な貴族の男と噂があっただろう?」


「そ、それは……」


「それがあの社交界の日に真実となった。お前は俺と婚約している間に、あの男と仲良くしていたということだ」


 ミレーネアは奥歯を噛んで震えるだけ。


 やれやれだ。

 今、彼女が感じているのは謝罪の気持ちではない。自分が正しいと思う信念だ。よって、身体中に怒りを漲らせている。

 自分の罪を反省することもできず、ただ怒りを堪えるだけとは、なんとも愚かだな。


「話しは終わりだ。こっちは忙しいからな。お前の相手をしている時間はないんだ。帰ってくれ」


「な、なんですってぇ? そんな無礼な態度が許されると思ってますの!?」


「無礼はどっちなんだ? 浮気をしたあげく、俺との婚約を破棄、そして復縁したいとは、どの口が言っているんだ? 常軌を逸しているとは思わないのか?」


「うぐぐぐ……。で、でも、わたくしは傷心しているあなたを癒しに来たんですのよ!?」


 やれやれ。

 自分で人の心を傷つけることをしておいて、それを癒すとは開いた口が塞がらん。

 それに、


「俺が落ち込んでいたのは自分に腹が立ったからだ。お前みたいな女を信じてしまった自分の愚かさを嘆いたんだよ」


「わ、わたくしが信用のない女だと言いたいの?」


「当然だろ? どこに信じれる要素があるんだよ?」


「ムキィイイイイ!」


 サラノアは目を細めてほくそ笑む。


「おや? メス猿みたいですね」


「キィイイイイイ! 小娘がぁああ! お黙りなさい!!」


「はいはい。それでは玄関はあちらになりますので、お帰りくださいね。修行の邪魔ですので」


「キィイイイイイイイッ!!」


 ミレーネアは全身を真っ赤にしながら屋敷の外に出た。

 そして、起死回生とばかりに嫌な笑みを浮かべる。


「あ、あなたたち、よく聞きなさい。小娘が、伯爵令嬢に楯突くとどうなるかわかっていますの?」


 フォナは小首を傾げる。


「どうなるの?」


「ふふふ。貴族に楯突いた庶民には天罰が降るんですのよ。おーーほっほっほっ!」


「天罰……」


わたくしのお父様は無礼な庶民に容赦しないんですのよ。ほほほ。ある農民は農地を取り上げられて餓死にしたと聞くわ。あははは」


「へぇ……そうなんだ」


「あなたのお名前をもう一度、確認しておこうかしらぁ?」


「フォナ・デインブルグ・ラッケンジーよ」


「ふふふ。その名前を調べあげて、あなたにはお父様からキツイ制裁を……。ラ、ラッケンジーですってぇえ!?」


「ええ」


「も、もしかして……。いや、もしかしなくても……。あ、あなたはラッケンジー侯爵の娘?」


「ええ。パパの爵位は侯爵ね」


「えええええ!? ど、どうして侯爵の娘がこんなところで修行してるのよぉお!?」


「強くなりたいだけよ。もともと体を動かすのが好きだからね。将来は冒険者として活躍したいと思っているの」


「な、な、な……」


「それで、あたしに天罰が降るのかしら?」


「あは……あははは。そ、そんなこと起こるわけありませんわぁああ。あははは……」


 まぁ、こういう反応になるだろうな。

 伯爵より侯爵の方が爵位は上だからな。

 いざこざに発展すればミレーネアが父親に怒られるだろう。


「でも、フォナさん。このことはお父様にご報告された方がいいのではありませんか? 伯爵令嬢と揉めてしまったんですから」


「そうね。一応、パパには報告しておいた方がいいかも」


「あははははーーーー!! 何をご冗談をーーーー! 冗談ですのよーーーー! ジョーークです、ジョーークゥウウ!! あははは!!」


 おいおい。

 あれだけかましといて流石にジョークはないだろう。


 俺たちは目を細めた。


「きょ、今日は、大人しく帰りますわ」


 と、そそくさと馬車に乗る。


「あ、じゃあ、メス猿とメス猫がお送りしますね。ウキキ」

「そうね。送って差し上げなきゃね。ニャーー」


「ジョ……。ジョークですわ。ははは……」


「あ! ではフォナさん。私たちもミレーネア様にニックネームをつけてあげた方がいいのではないでしょうか?」

「そうだね。じゃあ……。メス狐、なんてどうかな?」

「あはは! 最高です! それにしましょう!!」

「では、メス狐さん、さようなら。あ、勿論、ジョークだからね」


「ぐぬうううう……。ほ、ほほほ……。心得ておりますわ」


「違うわよ。メス狐はコンコンって鳴くものよ」


「はぁ!? わたくしがそんなこと言うわけ──」


「パパに相談かな」


「コンコン」


「うん。そうこなくちゃ♡」


 車窓から見える彼女は下唇を噛んで、プルプルと震えていた。その目にはジワリと涙を滲ませる。

 そのまま馬車は動き始めた。

 遠ざかる荷台を見ながら、俺たちは笑った。


「「「 はははははははーーーーッ!! 」」」


「フォナさん、最高です! 最高ぉおお!」

「ははは! コンコンだって!」

「今晩はメシうまだな」


「私、3杯はおかわりできそうです」

あたしも食が進みそう」

「酒で乾杯でもするか」

「「 賛成! 」」


 俺たちは大笑いするのだった。


────


面白いと思っていただけましたら☆の評価をお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る