伯爵令嬢に婚約破棄された最強の魔法剣士は見習い冒険者の教育係になる〜「あなたとよりを戻しても良くってよ」と言われても、優しい教え子がいるので、こちらから願い下げだ〜
第11話 落ちる令嬢【ミレネーネアside】
第11話 落ちる令嬢【ミレネーネアside】
「どうなっていますの?」
執事の予定が狂っていた。
外に出向く護衛の人数が足らなかったのだ。
執事のベバスチャンは、白髪の頭をゆっくりと下げた。
「申し訳ありません。そのルートならば護衛はあと2人は必要になるかと思います」
「急いで用意して頂戴」
「それが、雇用中の護衛が休暇に入っておりまして、人手が足らないのでございます」
「んもう。どうなっているのよ!?」
「申し訳ございません。急いで冒険者ギルドに依頼を出します故、少々お待ちくださいませ」
「はぁ〜〜。愚図なんだから。まったく!」
思えば、ゼイがいる時はこんな不便はなかったわ。なにせ、護衛の仕事は彼がやってくれていたのだから。
それになんだか、最近の出来事は全て上手くいっていないような気がする。なんだかついてないわね。
「そういえばお嬢様。アレックス様から社交界のお誘いの手紙が届いておりましたが、読まれましたでしょうか?」
「ああ。あれね。無視することにしたわ」
「なぜです? 公爵様でございますよ?」
「ふん! あんな頼りにならない男はこちらから願い下げですわ」
彼は大トカゲに襲われた時、私を置いて自分だけで逃げた。
「あんな薄情な男と結婚なんてごめんだわ。ふん!」
「では、縁談は破談ということでしょうか?」
「そうね。正式な婚約を結んだ訳じゃないからね。お父様にも迷惑はかからないでしょう」
「しかし困りましたな。アレックス様は、お嬢様にご執心なされておりますよ。簡単に別れてくれるかどうか……」
「ふん! だから無視していればいいのよ。あんなヘタレ。どうせ何も言ってきやしないわよ」
ところが数日後。
アレックス公爵は私の屋敷にやって来た。
「おお。愛しのミレーネア! 手紙を何通も送ったというのに音沙汰無しとは、随分とつれないではないか!」
「まぁ、よくも
「おいおい。それはガドルリザードのことかい?」
「それ以外に何かありまして?
「それは僕も同じこと。あの時は泥だらけだったな。ハハハ!」
「何を呑気に! 信じられませんわ!」
「そう怒るなよ。手紙で散々謝ったではないか!」
「謝って済む問題ではありませんわ! フン!」
「だから怒るなというのに。あの大トカゲはギルドに依頼を出して倒してもらったんだ。もう安心さ」
「そんな話じゃありませんわ! あなたが逃げたのが問題ですのよ!」
「僕が逃げた。……だと? 随分と人聞きの悪い言い方だな」
彼は私をギロリと睨んだ。
「でも、事実ですわ!」
「おかしな言いがかりはよせ。私は避難しただけに過ぎん」
「避難と逃亡は何が違いますの? 酷い目に遭ったのは
「僕は公爵だぞ。いざとなれば君が盾になるのは当然だろう?」
え?
何コイツ!?
とんでもない価値観だわ!
やっぱり振るのが正解ね!
「僕はシュナイダー家の領土を守る義務がある。僕がいなくなれば200万人を超える領民が路頭に迷うんだ。よって、僕は死ぬことはできない。これはあくまでも領民の為なのだ」
まるで正論ね。
でもだからって、なんで私が身代わりにならないといけないのよ!
しかも、彼は嘘をついている。
あの時の慌てふためいた顔といったら、領民のことを考えていた者の顔ではなかったわ。
自分のことしか頭にない、臆病な小心者の顔よ。
「おいミレーネア。なんだその反抗的な視線は? それが将来の伴侶になる者に向ける顔か?」
「将来の伴侶? 何をご冗談を!
「言うじゃないか」
ふん!
ヘタレの癖に。
「もう、
「そうはいかん。お前は僕の物なんだからな!」
も、物!?
もう絶対に復縁はないわね。
「しつこいのは嫌われますのよ。アレックス様」
「フン! 僕は欲しい物はなんでも手に入れてきたんだ。妻にするのは美しい女と決まっている。ミレーネア。君は美しい女だ。だから、僕の妻にならなければいかんのだよ!」
「な、なんですの。その理屈は!?」
「僕の物は僕の物。君の物も僕の物なのさ!」
「ヒィッ!」
彼は私を押し倒す。
「体に教えこんでやろうか?」
「だ、誰かぁ!」
私の悲鳴を聞きつけて、執事をはじめとする従者が部屋に入ってきた。
「アレックス様! お嬢様をどうさなるおつもりですか!?」
「チッ! 邪魔が入ったな。まぁいい。今日はこのまま帰ってやる。だが、覚えておくといい。今後、僕の誘いを断ろうものなら絶対に後悔することになるからな。はーーはっはっはっ!」
それから数日後。
宣言通り、公爵は私に誘いの文を出してきた。しかし、もちろん無視である。
フン! たとえ公爵であろうと、こんなどうしようもない性格の男と付き合えるはずがない。
私は既に有能な殿方は目星を付けているのよ。この機会に鞍替えしてやるわ。
別に公爵じゃなくても、侯爵か伯爵でもいいのよ。
金持ちで、それなりに裕福なら何も問題はないんだから。
などと、考えているのは甘かった。
社交界に参加しても、殿方は私に対してよそよそしい態度を見せる。
そればかりか、距離をとって話そうともしないのだ。
アレックスが手を回しているんだわ。
これで私は彼氏を作れなくなってしまった。
その上、執事からはとんでもないことが聞かされる。
「お嬢様。ご主人様の仕事に支障が出ております」
「お父様の仕事が上手くいってないの?」
「はい。どうやら周囲から妨害を受けているようです。ファインブルゼ伯爵領の危機でございます」
「……アレックスの仕業ね」
「おそらくは」
「お父様は彼と私の関係に気がついているの?」
「いえ。まだでございます。しかし、いずれは発覚するでしょう」
そうなれば、お父様からよりを戻すように言われるわ。
私は強引にアレックスの妻になる……。
「そんなの人生の終わりじゃない! あんな男、一体、誰が選んだのよ!!」
「お嬢様ではありませんか」
「うるさい!! 黙りなさい!!」
ああ、どうしてこうなったの?
あんなくだらない男、選ばなければ良かった。
「もう、どうすればいいのよ!」
「こんな時……。ゼイ様がいれば良かったのですが……」
「……ゼイが?」
「そうでございます。ゼイ様ならお嬢様の問題を全て解決してくれたでしょう」
「ふん。あんな男に何ができるというのよ!」
「まだお気づきになられていないのですか?」
「なんのことよ?」
「お嬢様の災難は全てゼイ様とお別れになってから起こっているのでございますよ」
「なんですって!?」
……そういえば、大トカゲのモンスターに襲われた時もそうだったわね。
あれがアレックスじゃなくてゼイと一緒なら、
彼ならあんなモンスターの1匹や2匹、簡単に倒すことができただろう。
護衛のこともそうだ。
ゼイと付き合っている時は護衛の心配なんてしたことがなかったわ。
私の身の安全は、全て彼に任していれば何も問題はなかった。
そうよ! そうだわ!
「これはゼイが原因よ!」
「え?」
「ゼイが私の面倒を見ないから悪いんだわ!」
「そうなるのでございますか?」
「騎士団長を辞めたと言っていたわね。今はどこにいるのかしら?」
「たしか、ギルドで冒険者見習いの教育係をしているという話でございます」
「会いに行くわよ!」
「ええ!? し、しかし、お嬢様はゼイ様とお別れになったのでは? きっと会ってくれませんよ」
「ふふん! 馬車を出しなさい!」
ゼイは私のことを愛しているのよ。
彼とよりを戻せば全て解決じゃない!
私って頭いいわ!!
美人で聡明で、パーフェクト美少女よ!
そんな私が会いに行けば、彼は泣いて喜ぶに決まっている。
どうせ、私に振られて傷心しているに決まっているのだから。
フフフ。
待っていなさいゼイ!
あなたの心の傷を私が癒してあげるわ!
「おーーほっほっほっ!!」
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