第9話 ゼイは一般人

 修行が始まって2週間が経つ。俺は2人のステータスを見た。


 まずはフォナから。



名前:フォナ・デインブルグ・ラッケンジー


職業:無職


LV:1


体力:43←注目


腕力:1260


防御:2


知力:50←注目


速さ:5


ゼイ:♡♡♡♡♡♡



 座学の努力によって知力の基礎数値が上がっている。

 前回の数値と比べると知力が20→50に増えて、体力が13→43に増えた。

 他の数値が変わっていないのは仕方がない。

 目標は100を超えることだからな。

 まだまだ時間はかかりそうだ。


 次はサラノアを見よう。



名前:サラノア・アージュ


職業:無職


LV:1


体力:40←注目


腕力:50←注目


防御:5


知力:2550


速さ:2


ゼイ:♡♡♡♡♡



 彼女は腕力を重点的に上げたからな。

 その効果が出ている。

 以前から比べて、体力10→40。腕力5→50に増えた。

 腕力が順調に上がっているのは嬉しいな。

 他のステータスが上がっていないのは、フォナ同様仕方ない。


 モンスターでも倒せば、レベルが上がって全体のステータスが上昇するのだがな。

 基礎数値の低い彼女たちにとって、モンスターとの戦闘は危険が大きすぎる。


 地道にやっていくしかないか。


 そんなある日。

 いつものように教育をしていると、5人組の冒険者が修行屋敷にやって来た。


「フォナ! お久ぁ!」


「メグメリア」


 オレンジ色の髪をした女は、どうやらフォナの友達らしい。

 大人しい彼女とは真逆の性格のようだ。

 

「ギルドで噂は聞いてたんだけどさ」


あたしが噂になっているのか?」


「随分な美少女が冒険者になろうっとしてるってね。ニシシ。男どもが騒いでんのよ」


「あ、あたしは可愛くなんかない」


「ははは。自己評価が低いんだからぁ。まぁ、それがあなたのいいところかもしんないわね。その美貌を自覚してたら鼻につくもの」


 メグメリアは周囲を見渡して、


「それにしても……。こんな辺鄙な所で修行してるなんて意外ねぇ。あなたならキツイ訓練なんてしなくてもS級剣士になれちゃうんじゃない?」


あたしは魔法使いになりたいんだ」


「えーー! 勿体なぁい。ステータスの持ち腐れじゃん」


「そんなことより。どうしてここに来たのよ?」


「ふふふ。この辺りにトカゲのモンスターが出るって噂なのよ」


「じゃあ討伐クエスト?」


「そういうことね。大きなトカゲなんだけどさ。フォナは知らない?」


「見てないわね」


「そっかぁ。んじゃあ、他を当たるしかなさそうね」


 彼女を俺をマジマジと見た。


「ふーーん。あんたが教育係?」


「ああ」


「噂では騎士団長だったんでしょ?」


「まぁな」


「クビになっちゃったの?」


「ちょっとメグ。そういうことを言うのはやめて!」


「いいじゃない。みんなは知ってるんだし。ミレーネア伯爵令嬢に婚約を破棄されちゃったんでしょ? それで騎士団長もクビになっちゃったんだよね。大変よねぇ」


 やれやれ。

 随分とデリカシーに欠ける女だな。


「ってことはさ。今フリーってことじゃない。お兄さん、結構イケメンだから、私なんてどう?」


「ちょっと、メグゥ!」


 俺が呆れていると、金髪の男が出て来た。


「おいおいメグ。一般人を揶揄うものじゃないぞ」


 一般人?

 俺のことか?


「僕はこのパーティーのリーダーをしている。ケビン・ジレ・ゴースターだ」


 その胸にはCランクのバッジが輝く。

 

 ふむ。

 どれくらいの強さだろう。

 

 鑑定を使うと、全員が500前後のステータスだった。


 ギルド内の平均ステータスは1000程度だ。

 つまり、登録して日の浅い駆け出しの冒険者だな。

 その中でも、ケビンは600は超えているのでまぁまぁの強さなのかもしれない。

 

 彼はフォナに向かって跪いた。


「フォナさん。今日もお美しいです」


 フォナは目を細めるだけ。

 

「この前送った恋文は読んでいただけましたか?」


「ごめんなさい。もう、手紙は送ってこないでと念を押したはずですけど?」


「おお。そんなつれないことを言わないでください。こんなにもあなたのことを想っているのに」


「ごめんなさい。あたしはあなたが想っているような女じゃありません。他を当たってください」


 なるほど。

 フォナの魅力なら、こんな男の1人や2人、いてもおかしくはないな。

 友達の身としては、彼女に彼氏ができるのは喜ばしいことだがな。

 いかんせん、このケビンという男は脈なしといったところか。


 ケビンは俺を見ながら目を細める。


「あんたはフォナさんの教育係だ。くれぐれも間違いのないように頼むぞ」


「なんのことだ?」


「この屋敷で寝泊まりしているのだろう? 何かあっては大変だ」


「心配するな。そんなことは起こらんさ」


「……し、しかし、フォナさんの湯上がり姿とか、寝巻き姿とか見れるのだろう!? け、けしからん!」


 やれやれ。

 湯上がりのフォナはすごくいい匂いがするのだが、そういうことをこの男に言ったら卒倒しそうだな。


 ケビンは俺を睨みつけた。


「くれぐれも気の迷いなどないようにな。ゼイグランド。僕を本気で怒らせると後悔することになるぞ」


 やれやれ。

 怒らせる気は毛頭ないがな。


 俺が黙っていると、ケビンのパーティーメンバーはクスクスと笑う。

 どうやら、俺がケビンに怖気付いていると思ったらしい。


「あらあら。ケビンを怒らせちゃあ怖いわよ」

「アイツ、完璧に終わったな」

「ケビンに目をつけられたら従うしかないさ」


 まぁ、俺は別になんとも思わんが、


「あ、あなた達はゼイ様の強さを知らないのですか?」


「おお。あなたも美しい女性だ。勿論、知っていますよ。伯爵令嬢から婚約を破棄されて、その権威を失った影響で騎士団長を解雇になってしまったんですよね。それから、お情けでギルドから教育係の仕事を貰ったんだ。冒険者にもなれないただの一般人でしょう。くくく」


 やれやれ。

 妙な解釈になっているな。

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