第3話 教え子のステータス
ステータスには平均値というのがある。
D級の冒険者を目指す場合は100が目安となる。
その数値で進路が決まるんだ。
俺は鑑定スキルを使って2人のステータスを見た。
まずはフォナから。
名前:フォナ・デインブルグ・ラッケンジー
職業:無職
LV:1
体力:13
腕力:1260
防御:2
知力:20
速さ:5
ゼイ:♡♡♡♡
ふむ。
レベル1なのに腕力だけはずば抜けて高いな。
剣士の適正は抜群だ。
それに、最後の項目はなんだ?
ゼイって、俺のことか?
♡マークが付いてるが、どういう意味だろう?
初めて見るステータスだが、戦闘には関係なさそうだ。
まぁいい。
腕力が平均値の10倍はある。彼女は剣士向きだな。
マーマンが天才と言っていた意味がわかったよ。
その他の数値が壊滅的に低いが、剣士になるならなんとかなりそうだぞ。
などと考えていると、フォナはとんでもないことを言い出した。
「あのねゼイ君。
!?
「なぜだ?」
「……
いやいや。
「職業には適正があるんだ」
「……ダ、ダメなのか?」
「はっきり言うが、腕力以外の数値が低すぎる。最低級のD級冒険者になる場合、最低でも必要なのは100なんだ。魔法使いになりたいのなら知力が100は必要だ」
「うう……」
そんな悲しい顔をするなよ。
そもそも、初期数値で50を下回る場合、冒険者を諦めるのが当たり前なんだ。
モンスターと戦ってわざわざ負けに行くようなものだからな。
とりあえず、彼女は置いといて、サラノアを見てみよう。
鑑定。
名前:サラノア・アージュ
職業:無職
LV:1
体力:10
腕力:5
防御:5
知力:2550
速さ:2
ゼイ:♡♡♡
彼女は知力がずば抜けて高いな。
間違いなく天才タイプだ。
魔法使いならS級になれるだろう。
しかし、フォナ同様、他が壊滅的に低い。
……なんだか嫌な予感がするな。
「念のために聞くが、サラノアはどの職業になりたいんだ?」
「剣士です!」
やはり。
「あのなぁ……」
「私は小さい頃から体力がなくて、みんなによく虐められていました。ですから、憧れるのは剣士。……で、できれば魔法も使える魔法剣士になりたいのですが……」
そう言って俺の方をチラチラと見る。
「そ、それはおこがましいですよね! ゼイ様と一緒だなんて……。だ、大丈夫です! 剣士で! 剣士でお願いします!」
「全然、大丈夫じゃない」
2人とも、自分のことがまったくわかってないな。
マーマンは俺の方を見てニヤニヤと笑っていた。
さては知っていたな。
「わかっていると思うが、彼女たちは特別だ。両名の父方がこのギルドの功労者。無碍に扱うことは許されん。希望の職種に就かせるのは当然として、冒険で深手を負わせるなんてもっての他だ」
「俺だって、仲間に傷を負わしたくないよ。だがな、これはどう考えたって無茶なんだ。適正職とは違う職種を目指すのだからな」
「できないのか?」
「…………」
俺が黙っていると、フォナとサラノアは涙目でにじり寄って来た。
「
「私は剣士になれないでしょうか?」
……できれば彼女たちの期待には応えてあげたい。
だが、危険を背負わすわけにはいかん。
この仕事は断った方が無難だな。
そう思った矢先。マーマンは先手を打つ様に言った。
「漆黒の魔法剣士も、大した者じゃないな」
何!?
「できないのなら、帰ってくれ。うちは腰抜けを雇うほど余裕のあるギルドではないんだ」
「……この仕事を断った場合。俺を冒険者として雇わないつもりか?」
「当然だろう。腰抜けは足手纏いだからな」
ほぉ。
随分と焚き付けてくるじゃないか。
さては、俺が断るのを察したな。
俺に躍起にさせて仕事を引き受けさせるつもりだ。
断れば腰抜け呼ばわりか。
その手には乗るつもりはないが、態度が気に食わんな。
だったら、
「400万コズンだ」
「……なんだそれは?」
「昇級報酬さ。彼女たちが希望の職種で冒険者になった場合。昇級する度に200万が出るんだろ? それを倍の400万にして欲しい。それなら受けてやってもいい」
「ふ、ふざけるな! そんな要求が罷り通るか!」
「通るな」
「何ぃい!?」
「お前は嘘をついた」
「な、な、なんのことだ!?」
「この仕事は適任者がいなかった」
「……ふん! 根拠のないでたらめを言うな」
「彼女たちのステータスは明らかに平均値以下だ。お前はそれを知っていた。つまり、これは無茶な依頼だったんだ」
「だ、だからって400万などあり得んだろうが!」
「あり得るな。この仕事。ギルド内には適任者がいないのだろう?」
「ぐぬぅ……」
「だから、俺を選んだ」
「………」
「断るのか? 俺は別に構わんぞ。報酬に見合う仕事をしたいだけだからな。安請け合いはしないさ」
「え、S級クエストの報酬でもせいぜい100万レベルだぞ。その4倍の400万とは高すぎるだろう?」
「それでも安いくらいさ。成功しなければ0なんだからな」
「……うぐ」
「さて、腰抜けはどちらかな?」
「……に、220万コズン」
「ん? 聞こえなかったが?」
「220万コズンだ! これで手を打て!」
「手を打てとは随分と強気だな。400万コズンと言ったはずだが?」
「に、230万コズン! これなら文句はないだろう!」
「400万だ」
「240!」
「400」
「に、245!」
「400」
マーマンはバン! と両手を机について頭を下げた。
「250万!! もうこれが限界なんだ! 本当にこれが限界。頼む! もうこれ以上は無理なんだ!!」
ふむ。
金額はこの際どうでもいい。
問題は態度だからな。
「頼む! 250万で引き受けてくれぇッ!!」
と、深々と頭を下げる。
やれやれ。
初めから駆け引きなぞしなければいいのに。
仕方ない。頭を下げるなら良しとしようか。
「わかった。やってやるよ」
2人は肩を上げて喜んだ。
「あは! ゼイ君。よろしくね!」
「ゼイ様、よろしくお願いします!!」
マーマンは安堵のため息をついていた。
切羽詰まっていたのは彼女なのだろう。
なにせ、この無茶な依頼を頼める人材がいなかったんだからな。
俺が辞めたら後がなかったはずだ。
それなのに、強気に振る舞うなんて、本当にやり手だよな。
断るつもりだったが結局引き受けてしまったよ。まったく。
俺たちは今後の進め方を話し合うために昼食を食べることにした。
問題はどこで修行をするかだな。
年頃の女子2人だからな。野原で野宿じゃ体が保たないだろう。
「私の父に頼めば別荘を貸してもらえると思います。そこを拠点にするのはどうでしょうか?」
流石は金持ちだな。
「そこなら生活が安心してできますので修行に打ち込めると思います」
昼食後。
俺たちはサラノアの父が所有する別荘に行くことになった。
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