大阪

3年生も真ん中を過ぎた秋頃になって、マーリアちゃんは小学校で

「あやめっち、大阪に行っちゃう...」

って、よく言うようになった。

「えーっ!そんなこと聞いてないよーっ」

って、ボクはマーリアちゃんに答えている。


「大阪に行くって、もしかして家族で大阪旅行に行くってことなんちゃうの?」

「いや、旅行ではなくて、大阪に引っ越しちゃうみたい...大阪で暮らしていくみたいだよ...」

「なんで、わかるのー?」

「4年生のあやめっちは大阪に住んで、そして大阪の小学校に通って、大阪の小学校のお友達と遊んでいる映像とか、めっちゃ浮かんで来るの~っ!」

「えーっ!ほんとー?」

「大阪の小学校で、みんなといっしょに、めっちゃ楽しそうにしてるんだよーっ!」


家に帰って、ママに

「マーリアちゃんなっ!ボク、4年生から大阪の小学校に転校するって、そればっかり言ってるんやでー!ほんま?」

って聞いてみた。


「まだ、そんな話はないよ~。聞いてへんでーっ」

ってママに言われた。


だから、しばらくずっと、マーリアちゃんには

「大阪に行くとかいう話は、ママとかも、まだ聞いてないって言ってるよ~」

って、ずっと言ってた。


でもマーリアちゃんは毎日学校でも

「今のうちに、あやめっちといっしょに、いっぱい遊んで想い出をつくっとくんだーっ!」

って、いつも言っている。

教室でも、マーリアちゃんは、いつもボクにぴったりくっついている。いっしょに勉強もするし、日曜日には遊びに行ったりもしてる。

「あやめっち、パリをいっぱいいっぱいマーリアといっしょに今のうちに見ておこうーっ」

って言って、マーリアちゃんとパリの街も2人でいろいろと散策している。

オルセー美術館にも、またいっしょに行って、「ヴィーナス誕生」の絵を2人で見てた。

でもマーリアちゃんは、大好きなヴィーナスさんのことよりも、チラッとヴィーナスさんを見ては、あとは、ずーっとボクのことを見つめている。

「マーリアちゃん!もっとヴィーナスさんのこと見てあげなよーっ!」

って言っても

「いいのーっ!ヴィーナスさんの絵は!ヴィーナスさんのことは、いつでも見に来れるんだからーっ!それよりも、あやめっちのことをずーっと、ずーっと、見てるんだもんっ!」

って言って、ボクのことを見つめている。

学芸員のお姉さんも、そんな2人の様子を、ちょっと離れたところから、静かに見守ってくれていた。


でも、ママやパパからも

「やっぱり今のところ、大阪に引っ越しする話はないよっ!」

って言われているから、4年生でも、パリにいることになるのかな~って思った。

でもマーリアちゃんの言うことやから、ほんまに大阪の小学校に転校することになるんちゃうのかなあ~っとも思っている。


マーリアちゃんは、学校でも毎日めっちゃさびしがってて、いつもボクのそばにピッタリと、くっついてて離れようとしない。

あと、家に来ると、空里のことをギュッと抱きしめて離さない。

「空里ちゃん~!今のうちに空里ちゃんのこと抱きしめておくの!」

って言っている。

そして空里のほっぺにチュッチュッチュッチュッて、いっぱいキスしている。

空里も

「マーリアちゃん!どうしたの~?」

って聞いているけど

「いいの、いいの!空里ちゃんのこと、めっちゃ好きだから...」

って答えている。


運動会でボクはリレーの選手に選ばれた。

クラス対抗リレーと、町別リレーの、両方のリレーに選ばれて走った。

マーリアちゃんは、ボクの走ってるのを見ながら、めっちゃ大きな声で応援してくれてる。

メガホンを手に持って

「いけーっ!あやめっちーっ!いけーっ!」

って叫んでくれている。

クラス全体でダンスをする時にも、マーリアちゃんは、ボクのことばっかり見てるから

「マーリアちゃん!もっとちゃんとダンス踊りなよーっ!みんな見てるよーっ!」

って言っても

「いいのっ!そんなことっ!...そんなことより、あやめっちをずっと見てるのっ!」

って言いながら、ずーっとボクのことを見つめて踊ってる。


少年少女合唱団の定期公演で、公民館とかで歌っている時も、マーリアちゃんは、いつもボクのとなりで、ボクにピッタリくっついて、ボクの顔を見ながら歌っている。

「マーリアちゃん、もっと前を向いて歌いなよーっ!みんな見てるよーっ!」

って言っても

「やだ!そんなのより、あやめっちのことを見て歌うのっ!」

って言って、ボクの顔ばっかり見ている。


小学校でも授業中、いつもボクの顔ばっかり見てるから

「マーリアちゃん、前を向いて授業ちゃんと受けなよーっ!」

って言うんだけど、マーリアちゃんは、いつも、ずーっとボクのことを見ている。


学校の帰り道も、マーリアちゃんは、ずーっとボクの腕にしがみついて、2人はぜったい離れない...みたいに、しっかりとピッタリ腕組みしながら帰っている。


そうして、3年生も終わりに近づいた頃のある日に、家で、ママとパパから

「やっぱり、お仕事で大阪で暮らすことになったわー!」

っていう話を聞いた。

「急に大阪のお仕事でな、ママとパパ、必要になったみたいやねん」


「えーっ!やっぱり、ほんまやったんやなあ~!マーリアちゃんの言ってたこと...」


4年生になる前に、家族みんなで大阪に引っ越すから、ボクは大阪の小学校に転校することになるんやでって言われた。

ママとパパは、またまた2人で大好きな大阪で暮らせるから、めっちゃ喜んでいる。


空里は、まだあまり、引っ越しのことをよくわかっていないみたいで、パリから大阪へ引っ越すことについて、どっちでも良いような感じだ。

でも、なんとなく、マーリアちゃんとわかれることをさびしいって思うようになってきたみたいだった。

マーリアちゃんと空里は、それから毎日いつも会っていて、いっしょに過ごしている。

いつも2人で、ギュッて抱き合っている。

マーリアちゃんは

「空里ちゃ~ん!うわーっ!大阪に行っても、マーリアのこと覚えててねーっ!パリのこともねーっ!」

って空里に言っている。

空里も

「マーリアちゃんのことは大阪に行っても、ずっと覚えてるよーっ!パリのこともーっ!」

って答えてる。


パリの空港に、マーリアちゃんもお見送りに来てくれた。

空里をギュッと抱きしめてチュッてキスしてる。


「マーリアも、いつかそのうち大阪に行くから待っててねーっ」

「うんっ!待ってるよーっ」


「マーリアお姉ちゃんバイバイ~!またね~!」

って空里もめっちゃ手をふっている。


ボクもマーリアちゃんに、いっぱい手をふった。

「マーリアちゃ~ん好きだよ~」

ってマーリアちゃんに向かってボクは大声を出してしまった。

「あやめっち好きだよ~」

ってマーリアちゃんも、ボクと同じくらいの大声で返してくれた。


「あーっ!あやめっちーっ!ねえ!ねえ!」

ってマーリアちゃん、急にめっちゃ嬉しそうに飛び上がってボクに叫んでいる!

「えーっ?なにーっ?マーリアちゃん、どしたのーっ?」

ボクもマーリアちゃんに叫び返してみた。


「えっとねーっ!...1年後にパリにまた帰って来るみたいだよーっ!あやめっちーっ」

ってマーリアちゃんは嬉しそうに飛び跳ねながら叫んでいる。

「えーっ?...今、なんて言ったーっ?」

「だから~、あやめっち、またパリに帰って来るよーっ!1年後にーっ!」

「えーっ!ほんまにーっ?」

「ほんま!ほんま!」

ってマーリアちゃんは、めっちゃ嬉しそうに笑っている!


飛行機はパリの空港を飛び立って、関西国際空港へと向かって行った。

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