ガリアーノ

 年末が押し迫る日曜の早朝だ。

 彼は素足にサンダル履きで、いそいそと近所のコンビニまで競馬新聞を買いに行く。

 息子とその嫁にいくら窘められようとも、これだけは辞められない。辞められるわけがないし辞める気もない。彼の唯一の趣味。年末恒例のお楽しみ、有馬記念だ。二藍と鳥の子色を一滴ずつ垂らしたグラデーション。それを透明度の高いガラスに閉じ込めたような空の下、吐く息すらも白く凍り付きそうだ。競馬新聞が気になる彼は、そんな寒さなどに構っていられない。齢八十。社長業を退きはしても、まだまだ若いもんには負けない。自然と足取りが軽くなる。

 競馬新聞を入手して意気揚揚と帰宅すると息子と玄関で鉢合わせた。

「どこ行ってたんだよ親父」息子と愛犬に同時に見咎められた彼は、うっと息を飲む。有馬記念で頭がいっぱいだった彼はあまりに浮かれて、すっかり愛犬の散歩を忘れていたのだ。息子の視線が彼の手元に注がれる。

「また、競馬かよ」嫌悪する歪みを顔に浮かべる。

「年末くらい、いいじゃないか。年寄りの娯楽だ。多めに見ろ」

「いいわけないだろう。それが原因で一家離散の目に合ったんだ。忘れたのか?」息子の視線が上がってくる。

「母さんだけじゃなく俺にまでかけた苦労を思い出せるマトモな頭がまだあるなら、そんなくだらないギャンブルからはとっくに足を洗っているはずだろ」

「ふむ。確かに一理あるな。だが息子よ。おまえの言うくだらないギャンブルに手を出したからこそ破産して今の会社を起業できたとも考えられる。つまり、競馬がなければ今の俺たちの生活はないということになるな。皮肉なものだな」憮然と言い返してくる彼に、息子の口調が強まっていく。

「それは結果論だろ!競馬を続ける理由とは関係ないじゃないか!俺は、良心が咎めないのかって聞いてんだ!」

「良心とは、これまた大義な言葉を持ち出したもんだな。いやはや。たかだかギャンブルごとき大した騒ぎだな」のらりくらり躱そうとする父親を、今日という今日は逃がさない構えらしい息子は追及を緩めない。

「なにが、たかだかだ? ギャンブルごとき、だと? ふざけるなよ親父!俺たちがギャンブルアレルギーだと知ってて、わざとそんなことをしてるのだとしたら縁を切る日も近いな!」息子に同調した犬も吠え出す始末。ちょっとした騒音騒動だ。いったいなにごとですか? と、騒ぎを聞きつけた息子の嫁がパタパタ現れた。

「こんな時間から、二人揃ってなにしてるんですか? 喧嘩している暇があるなら手伝ってください。年末は忙しいんですから」犬を黙らしながら男二人をやんわり窘める息子の嫁は、所謂できた嫁だった。息子は、そんな嫁の手から犬を引き剥がすと散歩に行こうと背を向けた。

「親父、会社の金はびた一文たりとも賭けさせないからな」捨て台詞を吐いて、足早に遠ざかる。

 やれやれと僅かな髪が残る頭を撫でた彼は溜め息をついた。会社の金だと? バカなことをいうものだ。心配そうに見守る嫁を先に立たせて家に入った。キッチンに入っていく嫁を横目に、ペタペタと廊下を歩いて奥に位置する座敷に向かう。その間、待ち切れない彼は歩きながら新聞を広げ始めた。息子になんと言われようと、有馬記念だけは見逃せない。馬の名前を吟味しようとしたところで座敷の襖に行き当たる。襖を開けると、朝日が満ち溢れた十畳の座敷が広がった。南東の縁側に囲まれた二面採光。この家で一番明るい部屋だ。その部屋の真ん中に敷かれた厚みのある羽根布団。そこに横たわっている老年の女性。彼の妻だった。

 一昨年の夏。家族旅行で行った海で、少し目を離した隙に流された小学生の孫を助けようとして飛び込んだカナヅチの妻。

 なんとか孫を捕まえて持ってきた浮き輪にしがみつかせると、力尽きて沈んでしまった。すぐに助け出されたが、意識不明の重体だった。

 搬送先の病院で大脳損傷だと判定されて以来、植物状態にある。

 治療を初めて三ヶ月、半年が過ぎたが、妻の意識が回復しそうな兆しは見られず、高齢であるということも踏まえ、このままの状態を維持するかどうか否かの二択を迫られた。自発呼吸をし、排尿排便、消化吸収まで問題なく機能し続けている妻。半開きになってしまう彼女の瞼を優しく閉じた彼は迷うことなく延命を選択。それも自宅での延命措置を希望したのだ。

 彼の決断に、息子夫婦は異論を唱えることもなく同居を提案してきた。なんせ家事の類いは全て妻任せだった彼。慣れない一人暮らしに加え初めての介護となれば、しっちゃかめっちゃか大騒ぎになるのは誰の目にも明らかだった。そんな周囲の危惧とは裏腹に、妻が目覚めた暁には家族の顔が揃っていたほうがいいだろうからなと彼は神妙に頷くと、息子達の提案を受け入れたのだ。

 妻は依然として深い眠りの底にいて、浮上してくる気配はない。二度目になる年越し。

「いったいいつになったら起きてくれるんですかねぇー」

 妻の枕元にあぐらをかいた彼は、脇の畳の上に新聞を大きく広げる。妻の側に置いてある老眼鏡を引き寄せてかけると、息子が嫌悪するように妻も嫌いな競馬新聞をわざと枕元で読み耽リ始めた。

 ベッドサイドモニターには彼女が生きている証でもある心拍数を表す三種類の波形が流れている。波というよりは大小の山の連なりに似ているなと思う。妻とよく登った槍ヶ岳や南アルプス。遠くから眺める山脈の形を追っているようだ。それも同じ山ばかりを繰り返して。その繰り返しが重要で、変わらないことが肝心。同じ山をぐるぐるぐるぐる。そうやって現状を維持していく。そうやって妻が今日もここにある。彼は新聞を睨む。

「それにしても、わからない名前が増えたな。それに品のない名前もだ。つけられた馬が可哀想じゃないか。もっと縁を担ぐような名前にしてやったら、ちったぁ気合いも入るんじゃないかね」

 ぶつぶつと独りごちながら、赤ペンを引き寄せると、これはと思う馬の名前に丸をつけていく。

 有馬記念は今年で二回目だ。妻がこうなってから始めた。だから余計に息子は目くじらを立てる。親父はなにを考えているんだ。不謹慎だと怒鳴る。まぁそんなことは百も承知だ。

 競馬に充てる出資金は、時々参加する日払いの草刈りバイトでもらう給金を貯めたもの。無論、息子夫婦は知らない事実だ。知らせる気もないがな。

 新聞との睨めっこに疲れた彼は目を瞬かせながら庭を眺める。

 緑が失せ、すっかり殺風景になった庭に山茶花だけが鮮やかだ。冬の庭を寂しく思った妻が植えたものだった。

『明るい色がいいわ。濃いピンクなんてどうかしら?』

 控え目な色合いばかりを身につけていた妻が、派手な色を好むようになったのはいつからだろう。

 歳をとるにつれ白髪が増えていくように、自分の体の色素が抜けて白っぽくなっていくみたいだと言っていた妻。だから、鮮やかな色を纏って元気を取り戻すのだと混じりけのない原色に惹かれていた。老いとは、漂白されてシワシワのミイラのようになることなのかしらと散々恐怖していた妻は、今、その時を止めている。

「今年も山茶花が見頃になりましたよー君好みの派手な色が咲いてますよー」

 彼は、徐に妻の隣に寝っ転がった。見ると妻の両目が開いている。あらぬ方向を向く黒目に少しでも山茶花が映るように布団をずらす。喜ぶように彼女の手がゆっくりと上下する。握り易く工夫したタオルを握らせてやる。慣れない頃には、一喜一憂したこれらの体の反応は、彼女の意思とは関係ない、本能的な生体反応だった。彼女は、目の開閉もすれば、噛んだり咳こんだり、声も発する。顔の筋肉を動かしてしかめっ面になれば笑顔の表情を作ることだってあった。それも話の合いの手のようなタイミングで。その度に、じつは目が覚めているのではないのかと期待しては裏切られを繰り返し、それでも諦め切れない気持ちと向き合わされる。

「こうやって、君は生きているのになぁ」

 もうすぐ嫁が換えの尿パック、オムツを手に、朝ご飯だと呼びにくるだろう。そうしたら妻の朝の体操とストレッチをしなければ。

「私は今年も有馬を買いますよー君の大嫌いな競馬だよーさっさと起きて、怒ってくれなくちゃあ」

 ふと、座敷を照らす日の光が陰って、明度が下がる。妻の顔が青ざめたように見えた。

「早く起きてくれなくちゃあ、ぼくが困りますよーなんせぼくは君なしだとパンツ一つ探せないんだ」

 彼は、血色のいい妻の頬にそっと手をあてる。温かい。妻の瞳に彼は映っていなかった。けれど、確かに生きているのを確認できた彼は、ゆっくりと目を閉じる。サイドモニターから発せられる命の音が一定の間隔で確実に時を刻んでいく。

『なぁ、母さん、起きると思うか?』

 数日前に、偶然、息子夫婦の会話を立ち聞きしてしまった。バツが悪くなって立ち去ろうとした瞬間に、震える声で息子が口にした言葉に動けなくなったのだ。それは、この家の誰もが疑問に思っていても誰一人口に出すのを恐れていた言葉だった。それを言ってしまったら、この出口の見えない現状維持の理由が根本から崩れてしまう。

 医師は、奇跡的に意識が戻るとしたら、長くて一年以内でしょうと断言した。ただ、それはあくまでも若い患者の例であって、妻は歳も歳なので症例が皆無のため希望は無いに等しいとも。それでもいいと彼は言い張った。現に妻は自発呼吸をして生きているのだ。眠っているだけの状態の者をなぜ殺す必要があるのだ。妻は必ず帰ってくる。彼は信じて疑わなかった。そう。最初の一年までは。

 一年を過ぎたあたりから、不安が彼の胸に巣食い始めた。

 もしかしたら、このまま目を覚まさずに黙って逝ってしまうのではないか。

 疑問を養分に育った不安は絶望という名に変わり頻繁に彼を翻弄する。何度も悪夢にうなされて夜中に目が覚めるようになった。彼はその度に、足音を忍ばせて妻の様子を見に行く。そして、サイドモニターの波形を見て落ち着きを取り戻す。そんな彼を見兼ねた嫁が、妻と一緒の部屋に寝起きをしたらどうかと提案してきた。確かにそれなら、いつでも隣に妻がいる。ということで、二人はこの家で一番広い座敷に寝所を移したのだ。

 すると、それまで苛まされてきた絶望がひゅっと成りを潜めた。不安になった時には、妻に触れることで気持ちを落ち着かせる。自分と妻に大丈夫だ大丈夫だと言い聞かせながら。

 彼が目を開けると、座敷は再び光で溢れていた。風が強いのか山茶花の花びらが踊っている。

 床暖房が完備された我が家は真冬でも冷えとは無縁だ。息子夫婦と同居するにあたり、思い切ってリフォームしてよかった。新し物好きの彼の趣味で、床暖房のみならずソーラーパネルにオール電化といった最先端技術を惜しみなく投入している。特に床暖房は、凍えるような早朝に素足で歩き回るたび、座敷に直接胡座をかいて座り雪化粧の庭を眺めたりするたびに、しみじみと有難さを実感する。可愛い孫に風邪をひかせることもない自慢の住まい。以前の小さな町工場だった頃には想像できないほどの贅沢な住まいだ。

 工場の二階が住居だったあの頃。再び日が陰り、視界を沈ませた。

 真っ先に、若い妻とまだ小学生だった息子が浮かんだ。親から受け注いだ工場。医療用機器、主にアナログ脳波計測機を製造する小さな町工場だ。特殊な機器なだけに業績は横這いで、取り立てて良くもならないが悪くもならない。不景気の煽りを受けて、知り合いの工場が一つまた一つと倒産して消えていくのを横目にどこか他人事な自分がいたのは否めない。

 けれど、一般消費者相手の製品じゃないからという思い込みが仇となる。医療業界にも不景気の波は容赦なく襲いかかってきた。従来の紙で記録をしていたアナログ計測器よりデジタルで記録が可能な外国製のデジタル計測器に乗り換えていく医療機関が続出。従業員の数は減っていき、関係ないと思っていた倒産の危機が間近に迫りつつあった。にも関わらず、彼は連日競馬場に通い詰めていた。滞っている借金返済のために元手を増やすという言い訳をしながら、その実、九割型は現実逃避であったのだ。借金取りに怯えながら何とか生計を立てていた家族に愛想をつかされても文句は言えない典型的なダメ親父だった。

 そんなある日。

 出かけに珍しく妻が見送ってくれた。

「今日も金策なんでしょう? いつもありがとう。気をつけてね」

 優しげな笑みを浮かべて、内職で荒れた手を振る妻。まさか競馬場に行くとは言えず、俯いて家を後にした。自分が競馬場に通っていることを、妻は知っているはずだ。不甲斐ない夫に対して、恨み言の一つでも言ってもいいものを。妻の我慢強さが情けない我が身にこたえた。

 彼は大きな溜め息を何度もつきながら、それでも競馬場へと向かう。馬券を買って場所を確保すると、周囲に視線を泳がせた。どうしたって裕福には見えない恰好をした人々でごった返した競馬場。それぞれの手に握りしめるのは夢なんて甘っちょろいものではない。希望どころか人生そのものを握りしめているようだ。

 妻や息子が怒るのも無理はない。こんなところで賭け事をしている場合ではないことは重々承知している。では、ぼくはなんのためにここに通い詰めているのだろう・・・?

 時代の波に乗ったもん勝ち。そんなことはわかっている。わかっていて尚、では国産のデジタル計測器をと大手のメーカーと競い合う気になれないのはどうしてだろう。わかっている。自分は頭が堅い。職人気質の親父ゆずりのアナログ人間なのだ。だから、この状況。家族に苦労をかけているのがわかっているのに、打開策を出せないでいる。だが、きっと自分のように頑固者はたくさんいるだろう。それこそ、年配の医者なんかお手本になるくらい昔気質のアナログ人間が多いはずだ。少なくとも、今まで自分が関わってきた医療関係者の約半数がその類いだった。長年の経験と勘がものをいう診察。ミミズがのたくったような手書きのカルテ。棚に詰まった個人情報。医療業界のデジタル化がいくら進んでいようとも、そうそう簡単に今までのやり方を変えられない。そんな病院が大小問わず無数にあるはずなんだ。そこまで考えたところで、ふと思いついた。そうか。それならば、

 彼は大急ぎで工場に取って返した。そして、あちこちに電話をかけまくる。専門用語を連発しながら、あれやこれやと段取りを付けたかと思うと、飛び出していく。わけのわからない家族は、そんな彼の様子を溜め息をつきながら眺めているばかり。

 彼は、これまでの記録媒体が紙のアナログ脳波計測機器にデジタルの機能を追加できないかと思いついたのだ。そうすれば、従来の記録方法と新しい記録方法の両方が可能となる。そうすれば、なれない機器に手間取ることなく今まで通りの診察ができるのではないか。

 けれどそのためには、デジタルのノウハウと技術が必要となり、今まで培った経験とは別に一から始めなければいけない。ところが、そんな無謀な計画に賛成する者はおらず、とうとう頭がおかしくなったのではないかと部品の取引先にまで笑っていなされる始末。加えて莫大な費用と専門の技術者が必要だったが宛てはない。

 ただでさえ借金を抱えている。問題は山積みだった。

 けれど、こうと決めたらやり遂げる強い信念だけが取り柄だった彼は決して挫けなかった。

 彼は昼夜問わずかけずり回り、とうとう協力者・スポンサーを見つけ出す。そこからは速かった。破竹の勢いで下準備を経て設備が整い、それまでの工場を改造し、更にもう一棟別に建設し製造が展開されていった。デジタルと紙の両方の機能を併せ持つハイブリッド型として試作品ができ上がるやいなや、彼は自ら猛烈な勢いで各大手企業や小中規模の病院、総合病院などを回りプレゼンと営業をかけ続けた。試しに使って改善点を聞かせてくださいと、無料での貸し出しも実施。その甲斐があって、取引先が徐々に増えて行き、それに伴って工場は株式会社を名乗るまでに成長していった。

 彼は社長になっても相変わらず全国を飛び回って忙しく、たまに帰宅した時に、妻から息子が受験する有名大学の名前を聞かされ驚いたりしていた。いつのまにやら息子は逞しく成長していたのだ。

 現在、彼の会社の製品としては特にパソコン内蔵デジタル脳波計測機器がダントツの売り上げを誇る。高額なだけに一台あたりの収益は大きいが、5種類の脳波計測が可能な上、パソコンを使い即座に結果を表示できる。それまでのアナログ医療機器に革命を起こしたとして、彼は英雄と呼ばれることになった。ノウハウを生かし、今後は家庭用として気軽に生活に取り入れられるようなコンパクト機器の開発に力を入れている。

 そんな一世一代で不況を乗り切り大手企業にまで伸し上がった確固たる自負が彼にはあった。

 自分に不可能なことはない。不可能を可能にしてきた自分には。そう思ってきた。自社製品が、妻の脳波の反応がないという結果を表示するまでは。

 自社製の計測器が正確だということは嫌でも知り尽くしている。その正確な判定が、患者の家族をこんなにも絶望の淵に突き落としていたのかという事実を始めて知った。間違いなく、妻の大脳は機能していない。

「だけど、人間の脳は半分も解明されていない。だから、ぼくは・・・」そこから先は口に出せなかった。奇跡なんて、医療機器メーカーに携わってきた自分が口にする言葉じゃない。

 会社が脳波計測機器メーカーとして不動の位置を築けた時、彼は七十を越えていた。

 結婚した息子もいい歳になり、念願の孫も生まれた。そろそろ自分の役目は終わりかなと考えた彼は、側で支えてきた息子に社長の座を譲って隠居。会長の肩書きではあるが、苦労をかけ通しだった妻と気ままな老後を過ごそうと決めたのだ。それなのに、

 たったの一年だった。

「やっと、ゆっくり君と過ごせる時間ができたのになぁ・・・」彼は、妻を見つめる目元を歪める。

 襖が音もなく開いた。失礼しますと言って嫁が入ってくる。手には大きなクッションと尿パック、それにオムツだ。元看護師の嫁は手際よくオムツを確認し、尿が溜まったパックを換え、クッションを妻の背にあてがって固定する。彼は起き上がると、妻の布団を剥がして彼女の足や体を抱えて体操とストレッチを始める。時間をかけて彼女の体を動かすと、妻を横向きに寝かせた。嫁は換えた尿パックを手に、一度退出し、チューブと妻の朝食でもある経腸栄養剤エンシュアリキッドというマズい飲み物を持ってきた。どんなものなのか試しに飲んで怒られたが、ココア味が特にマズい。

「お父さん、飲んじゃダメですよ」と彼に注意しながら、嫁は妻の口にチューブを差込む。

「二度とごめんだね。こんなマズいもんばっかり飲まされたんじゃあ、起きる気も失せちゃうよ」

「仕方ないですよ。固形物はダメなんですから。万一肺炎にでもなったんじゃあ」

「わかってるよ。でも、それにしたってさ」もっとなにかと両手で八の字を描く。眉を八の字にして思案していた嫁は、そんなことおっしゃるんでしたらと切り出した。

「お母さんがお好きだった飲み物をご用意してらしてください。ものによっては飲ませられるかもしれません」

「そうだな。では早速買いに行ってこよう」気の早い彼が立ち上がると、嫁がその前にと制した。

「朝食を召し上がってください。冷めてしまいます」

 ダイニングに行くと、小学生の孫が先にテーブルについて食事していた。おはようと言うと、小さな眼鏡を押上げて遅いよと返ってくる。先手先手で打ってくるあたりはさすがだ。まだ小学生なのにも関わらず、我が孫は将棋がめっぽう強い。何度か大会でも優勝しているほどの腕を持つ。息子としては男の子らしくサッカーや野球などをやって欲しいようだが、将来有望な才能は伸ばしてやらなければいけないと、何かにつけて彼が説得している。

「おじぃちゃん出掛けるの? どこ行くの?」孫がホットミルクの輪を口につけながら聞いてきた。

「おばぁちゃんの好きな飲み物を買いに行くつもりだよ」ほうれん草のみそ汁を啜りながら答える。

「おばぁちゃんの好きな飲み物ってなに?」

「それがなぁー・・・」彼は目玉焼きを白米の上に慎重に移動させながら言葉を詰まらせた。

「もしかして、わからないの?」

 鋭い孫の突っ込みに、噛んでいた白米が喉に詰まりそうになった彼は慌ててお茶が入った湯飲みに手を伸ばす。

「実は・・・そうなんだ。恥ずかしいことだけど」彼は項垂れた。息子や嫁の前では虚勢を張っているが、孫の前では不思議と素直な気持ちが言えるのだ。仕事に熱中するあまり、家庭を顧みなかった。妻と過ごす時間どころか息子の行事にすら欠席するダメな父親。取り返しがつかないこんな歳になってから悔やんだところで仕方ないが。こうして家族との交流が生活のメインになると、自分は家族の犠牲の上に成り立った名誉を与えられたのだとつくづく感じる。妻に一番輝いていた年齢の時間ごと犠牲を強いてしまったのだと。なので、妻の若い頃の好みならまだしも、変化し増えただろう現在の妻の好みすら正確には把握できていない。なんとも情けない有様だった。

「じゃあ、僕も一緒に行っていい? 二人で、おばぁちゃんが好きな飲み物、考えようよ」

 頼もしい言葉だ。思わず涙ぐんだ彼は大袈裟なくらいに何度か頷くと、朝ご飯をやっつけにかかった。

 二人がまず向かったのは、あらゆる店が入っている大型のショッピングモール。

「なにか思い出したら、すぐ教えてね」と、手を繋ぎながらしっかり者の孫が言う。

 食料品店を見て回り、輸入食品店を散策し、お昼にジューシーなハンバーグを食べてもちっとも思いつかない。代わりに珍しいものや食べたことがない食品を入れたレジ袋が増えていく。

「もう飲み物を扱ってる店ないよーおじぃちゃん、ほんとになにも思い出せないの?」バナナジュースを片手に孫が聞いてくるが、彼はうーんと唸って頭を抱えるばかり。お手上げだ。とうとうショッピングモールを出てしまった。

「すまんな・・・」気落ちする祖父の丸い背中をポンポンと叩きながら仕方ないよと励ます孫。肩を落とした二人は無言のまましばらく歩き、大通りの立体交差店に出た。

「おじぃちゃん!あの人危ないよ!」

 叫んだ孫の指した先には点滅し始めた信号の下、横断歩道の中程で車イスに乗った老人がこちら側に渡ろうとも悪戦苦闘しているのが見えた。彼が走り出したのと、孫が手を振り上げておじいちゃん!と叫んだのが一緒だった。祖父は学生時代には陸上部に所属し、県大会に何度も出るほどの俊足の持ち主だ。ところが、車イスなのか老人なのか不明だが予想に反して重かった。うんうん言いながら、赤信号になる前になんとか横断し切った彼に、駆け寄った孫が真っ青な顔で抱きついた。

「おじぃちゃん!おじぃちゃん!よかった、無事でよかった・・・!」

 いつもは冷静沈着な孫の目が潤んでいる。祖母のことがあったからだろう。彼女はこの子を助けるために溺れたのだ。孫は、自責の念に駆られないほど愚鈍な子どもではない。物わかりの良さゆえに人知れず苦しみ、家族にこそ見せないが、祖母が目覚めない日々を遣り切れない辛い気持ちで送っているのだろう。

「心配かけたね。でも、じぃちゃんはこの通り、大丈夫さ」震える孫の頭を祖父は優しく撫でる。

 彼にしてみても、目の前で誰かに無慈悲な運命が襲いかかるのを、二度と手を拱いて見ていたくはなかったのだ。

「おじぃちゃんも気をつけなきゃダメだよ!」心配を怒りに変えた孫が、その矛先を車イスの老人に向ける。

「体力に自信がないなら、一人でこんな大通りまで来ちゃダメだよ!車に轢かれるところだったんだよ!」

 車イスの老人は、体を小さく強ばらせて亀のように首を竦めながら怒る孫のことを見つめている。

「まあまあ、そうカッカしなさんな。すみませんね。うちの孫が。お怪我はありませんか? 危ないところでしたな」

 湯気が出そうな孫を制止ながら、彼が苦笑いを浮かべると、老人は今度は彼に視線を注ぎ始めた。

「お互いにもう無茶はできない歳ですからね。これからどちらに行かれるんですか? ついでにお送りしますよ」

「たすけてくれたんだ!」老人はいやに明瞭な声を発したかと思うと、何度か同じ言葉を繰り返した。

 彼と孫はきょとんとして顔を見合わせた。二人の頭には同時に老人が認知症かもしれないと浮かんだ。

「ありがたい!ありがたいなー!しあわせだ!しあわせー!おれい!おれいだ!おれいをしなければ!」

 言いながら車イスの後ろにかかった大きな袋に手を突っ込む。大きなガラス瓶が触れ合う音がする。この荷物が重かったのだと彼は納得した。そうして老人が取り出したものは、ギリシャ神殿の柱を思わせる形をした細長い瓶だった。

「ガリアーノ!人生に奇跡を起こす一本だ!」そう叫んだ老人は、宝石のような黄色く輝く洋酒の瓶を二人に差し出した。

「いただけませんよ。ただ車イスを押しただけなのに、こんな立派な洋酒・・いただけません」首を振って辞退しながらも、彼はガリアーノと呼ばれるこの酒をどこかで見た覚えがあることに気付いた。しかも特別だと分類される記憶のどこかでだ。一体どこで、なんだったか・・・記憶を手繰リ寄せる彼の手に、老人はガリアーノを押し付けてきた。

「人生に奇跡を起こす一本を!」繰り返しそう叫びながら老人は、にやあと笑った。

 手にしたガリアーノに魅入りながら考え込む彼。そんな祖父の様子に気付いた孫は、同じようにガリアーノを見つめて待っていた。

「・・・わかりました。では、お言葉に甘えて、ありがたくいただきます」

 顔を上げた二人の眼前に広がった景色から、忽然と老人の姿が消えていた。アレ? と声を上げる孫と一緒に見通しのいい大通りを見回すが、どこにも老人の影すら見つけることはできなかった。

「さっきまで、ちゃんといたよね?」確認の同意を求めて見つめてくる孫に強く頷き返す祖父。

「ちゃんといたさ。いたから、ガリアーノがこうして残っているんじゃないか」手にしたガリアーノをトロフィーのように掲げる祖父。だよねと孫は口では納得しているが、腑に落ちない顔をしている。それは彼も同じだった。

 不思議なこともあるものだ。横断歩道を渡るのも難渋していた老人が一瞬で掻き消えるなんて。まるで狐にでも摘まれたような心地で、とにかく二人は帰路についた。

「ねぇおじぃちゃん、なにか思い出したんでしょ?」鋭い孫が訊ねた。

「さすがはわしの孫。観察眼が優れているな」満足そうな笑顔を孫に向ける祖父。

「そりゃあね。ね、おばぁちゃんとのことでしょ? ガリアーノが関係してたんだね?」

「そうなんだよ。でも詳しいことは、まだ秘密にしとく」

「えーいつ教えてくれるのー?」

「家に帰ってからかな」

 じゃあ早く帰ろうよと手を引っ張る孫に急かされながら、彼はもう一度周囲を見渡したが、やはり不思議な老人の姿は見つけられなかった。あの人は一体、誰だったんだ?

 帰宅した二人は、心持ち緊張しながらキッチンへと向かった。

 ママは今日、習い事の忘年会の準備を手伝うと言っていたよとの孫からの報告通り、嫁の姿は見当たらない。買ってきたワクワクグッズは後で二人だけで楽しむとして、問題はガリアーノと描かれた黄金色に輝くリキュールだ。

 優秀な孫が、さっそくパソコンを駆使して調べてくれたところによると、カクテルに使うのが一般的らしい。

「ホワイトカカオとクリームを一緒に入れてシェイクするゴールデン・キャデラックってのが人気みたい」

「あぁそうそう。確かそんな名前だったぞ」思い出してきた気がすると適当なことを言う祖父。

「材料にホワイトカカオって書いてある。ホワイトカカオってなに? ホワイトチョコレートのこと?」

 手早く検索をかけ、チョコレートリキュールのホワイト版らしいことを判明させる。

「この間、パパがもらってきたお酒、確かチョコレートのやつじゃなかったっけー?」と言って、息子の酒棚を漁り始める孫。この子にはかなわんなぁと見守る祖父。すぐに、あったあったーと歓声があがる。

「それから、クリーム? 生クリームってこと?」

 昨日のビーフシチューにかかってたのまだあるかなーと言いながら、二人で冷蔵庫を開けっ放しにして探索すること約三分。残り僅かな生クリームを発見した。

「あとは、シェーカー? バーテンダーさんがシャカシャカしてる銀のヤツでしょ。さすがに」

 任せなさいと胸を張る祖父。新しいもの好きの収集癖がこんなところで役に立つとは。部屋の押し入れを掻き回すこと十五分。とうとう材料が整った。二人は、ワクワクしながらカクテル作りを始めた。

 数分後、完成した卵色の液体を手に妻の元へと向かう。もちろんガリアーノのボトルも一緒だ。何度か作り直したために中身は半分になってしまったが。

 妻が眠る座敷には、今日を締めくくる日差しが影を引き始めていた。

 枕元に立てたガリアーノは残光を反射して輝いているようだ。キレイだねと孫が称賛したように美しい酒だった。

 妻に飲ませるのは何度かしてきたが、酒は初めてだ。やはり、よしといたほうがいいだろうかと躊躇の念が掠める。カクテルの試作品を何杯か飲んだが、甘くて飲みやすく到底酒とは思えない代物だ。量は、おちょこ一杯にも満たないくらいで、度数も決して高くはないはずだ。が、紛い成りにもアルコール。妻がただ眠っている状態だとしても、血液中の血糖に異常値などが出ないとも限らない。アルコールもだが、このカクテルは、かなり甘いのだ。賭けに近い。嫁が帰ってくるのを待ったほうがいいだろうが、元看護師だった嫁は十中八九反対するのが目に見えている。前例のない、どうなるかわからない危険な行為だからと。だが、そもそも妻の今のこの状態自体が既に前例のないことだ。目覚めるでもなく死ぬでもなく眠り続ける妻。医療的に成す術は皆無なのだ。危険であろうがなかろうが、どのみち、手を拱いたまま妻の死を見守るなんてごめんだ。ならば、思いつく限りの試せることはなんでもやってやりたい。人は自己満足というだろう。だが、それの、なにが悪い? 誰かになにかをするなんて八割型が自己満足だ。ただ、どうにかしたいのだ。この状況をなんとかできるのかは、わからない。けれど、方法がないのだ。長年、主に脳に使う医療機器の開発に携わっていながら、身内一人助けることはできない無力さ。論理やノウハウでは、どうしようもないことを思い知らされた。目の前に横たわる妻は、彼の傲慢さを具現化したような存在なのだ。

 嫁が知ったら怒るだろうか。あまり怒っているところを見たことがないが。孫からは、すぐに怒ると聞いている。

「ねぇおじぃちゃん、どうしてガリアーノだったの?」

 まずは舌に乗せようとして、ビニール手袋を装着してゴールデンキャデラックを指につけた時、孫が思い切ったように訊ねてきた。

「おじぃちゃんが、おばぁちゃんに結婚を申し込んだ時に二人で飲んだんだよ」

「ゴールデン・キャデラックにして?」小首を傾げる小さな眼鏡に西日が反射している。

「たぶんね」彼の答えに、えー大丈夫なのー?と心配そうだ。大丈夫大丈夫、と呟きながら彼は妻の舌の上にゴールデンキャデラックを塗るように乗せた。すると、妻が舌を動かし始める。味を感知してくれればいいのだが。

「実は、二年前の結婚記念日にプロポーズしたバーに連れていったことがあるんだ」僅かなゴールデンキャデラックを含ませ終わり、ビニール手袋を外しながら、サイドモニターを確認する。大丈夫。異常値は出ていない。妻はそもそも案外酒は飲めるほうだったはずだ。

「おばぁちゃん、喜んだんじゃない?」

「それが、実は、あのプロポーズの日以来、おばぁちゃんは一人でその店に通っていたことが判明したんだ」通うって行っても自分の誕生日とか結婚記念日なんかにね、と彼は付け足す。

「なんで、自分の誕生日とか結婚記念日に一人でお酒なんか飲みに行くのさ?」さっぱりわからんという顔で首を捻る孫に、彼は苦笑いをしながらおじぃちゃんがいなくて独りぼっちだったからだよと言った。

「え、じゃあ、おばぁちゃんはずっと独りぼっちでガリアーノを飲んでたってことなの? それってマズいよ。それじゃあ、ガリアーノを飲んでも寂しかった記憶しか思い出さないんじゃ」彼は振り返ると、不安がる孫の頭を大丈夫大丈夫と言いながら優しく撫でた。その顔には微笑みが浮かんでいる。

「おばぁちゃんが、その店でガリアーノを飲んだのは、後にも先にもおじぃちゃんと一緒の時だけだったそうだよ」本人が白状してたから間違いないよと孫に向かって片目を瞑って見せると、窓の外に広がる庭に視線を滑らせた。

「それにしても、こんな偶然があるもんなんだなぁ・・・」

 一日の終わりを惜しむかのような力強い西日に染められた庭は、影とのコントラストが際立ち影絵のようだ。その様子を一緒に眺めていた孫が、偶然じゃないのかもとポツリと呟いた。

「だって、あの人言ってたじゃない? 人生に奇跡を起こす一本をって。奇跡って、たくさんの偶然が重なって生まれるんじゃないかと僕が思うよ」起きたことないからわからないけどさと、純粋な瞳で祖父を見つめる。その視線を受け取った彼は、ゆっくりと頷き返した。妻が命がけで助けた孫がしっかりと成長していることが嬉しかった。

「だといいなぁ。まぁ、とにかくおばぁちゃんは言ってたんだ。やっぱりあなたと飲むガリアーノが一番、」

「・・・お い しい」

 彼の背後から微かな声が聞こえた。

 見開かれた孫の目が瞬く間に潤んでいく。

 その孫の目元にかかった眼鏡のレンズに映ったこちらを見ている懐かしい顔。優しげな皺を寄せた微笑み。

 孫が奇声を上げて彼の横を走り抜けても、視界が霞んでしまった彼はなかなか振り向けずにいた。





 ※ガリアーノ

 酒名の由来は1895年に遡る。イタリアとエチオピアの戦争において、エチオピア軍約8万人を相手に、わずか4千7百人のイタリア軍が44日間にも渡る激しい戦いの末、重要拠点の要塞を見事守り抜いた。その時イタリア軍を指揮していたのが陸軍少佐ジョゼッペ・ガリアーノである。勲章を打ち立てた彼に感動したアルトゥール・ヴァッカリが銘々した。ガリアーノの開発にあたり、アルプス地方から地中海までの様々なハーブと、様々なブレンドが試された。そうして厳選された香味成分は、バニラを中心にアニス、ジュニパーベリー、ヤローといった花やベリーなどの栽培植物から成り立つ。バニラの甘やかな芳香に満ち、ミントやチョコレート、アニス、キュラソー、キャンメルなどのリキュールと共通する香りが奥行きを深くしている。音楽家達からは「絶妙な香りのシンフォニー」「プッチーニのオペラを聴いているようだ」などと称賛された。健康酒、強壮酒としてイタリア国王やローマ法王に献上されたことでも知られる。「太陽の光線の溶液」と讃えられた輝くような美しい黄金色と、独特のボトルデザインが特徴的。イタリアローマ建築で作られた寺院に見られるコリント式の円柱にヒントを得て作られた細長いボトルは、「味わい」を長く支えるという意味が込められている。

 そんなガリアーノは、カクテルとして味わうのが一般的だ。ホワイトカカオとクリームを一緒にシェイクする「ゴールデン・キャデラック」や、ウォッカとオレンジジュースを合わせる「ハーヴェイ・ウォールバンガー」オレンジジュースをパイナップルジュースに変えた「ゴールド・フィンガー」などが有名である。中でも「ゴールデン・キャデラック」は、カリフォルニア州エルドラド、ゴールドラッシュの中心地で考案された「最上級」の意味を込められたカクテルだ。誰もが夢を追い求めていた黄金卿に思いを馳せながら味わってみてはいかがだろう。

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