第5話 現実その3
「翔次、この話を聞いて正直どう思った?」
「……重い話だった」
あ、感想はこれだけじゃないよ。僕も遠い昔に山介と似ている人物に頭を抱えていた気がするんだ。だからどこか懐かしい気持ちになれたよ。と翔次は付け加えた。既に朝日は上り、今日の天気が快晴であることを証明していた。
それを聞いた炭丸は人造湖を見つめ、考える素振りを見せてから翔次に問いかける。「そうか。翔次も遠い昔に俺と似た経験をしていたんだな。その経験談を是非とも俺に聞かせてくれないか?」
「ごめん。昔の記憶は本当に覚えていなくて……」
翔次は申し訳なさそうに言った。
彼の落ち込んだ様子に危機感を感じ取った炭丸は慎重に言葉を選びながら切り出した。「お前はそれを思い出したいのか?」
「うん。思い出したい」
「そうか……では一体どうすれば翔次はそれを思い出すことができるのだろうか?」
「多分、炭丸のお話を聞き続ければ思い出せる……。そんな気がする」
「なるほど。もしそうなのなら、お前が十二分にいい方向へ向かっている証拠じゃないか。おそらく昔の俺と昔のお前は共通点が多いのだろう。昔の俺に昔のお前を重ねたいように重ねればいいさ。過去に執着しやすいお前にとって俺はいい薬なのかもな」
「……うん、そうかもね。ありがとう。炭丸って僕への理解が早いんだね。こんなに僕を早く理解できたのは君が初めてだよ」
翔次はそう言うと水面に映る自分の顔と炭丸の顔の二つを見つめた。「まるで昔から僕のことを知っているみたいだ」
「ふうん、お前はそう思うのか?」
と、水面に映る炭丸は何か隠し事をしているかのように動揺した素振りを見せると、話の続きを再開した。「よし、次に行くとするか。—————まあ、そう慌てるなよ。全ては聞いてからのお楽しみだ」
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