第3話 現実その2

 「なるほど。みんな君のことが大好きだったみたいだ。今の僕なんかと違って」

 翔次はそう言うと人造湖の畔に座り込み、湖全体を見渡した。かつて町が広がっていたこの場所でそんな鳥達だけのドラマがあったなんて驚きだ。自然が豊かな町だったと耳にしたことがあるので森の一つや二つがあったとしてもおかしくはないだろう。

 翔次はふと炭丸を見てから言った。

「その物語の中で、やがて炭丸は大きな傷を負うことになるのでしょう?それは物語を楽しんでいる側として正直信じたくないね。君にはずっと幸せでいて欲しいよ」

 「そう思うだろう?でも、現実なんてそんなものさ。楽しい時間を通り越せば選択の試練がやってくる」

 と、炭丸は空笑いをしながら言った。

翔次はその曖昧な表現に首を傾げる。まるで今まですらすらと解けていたテスト問題の中から急に難しい問題に直面してしまったかのように。「……えっと、選択の試練?つまり、地獄が来るってこと?」

 「そうじゃない」

 炭丸は冷静に言った。「何かを決断しなければならない局面のことだ。それが極楽浄土なのか地獄なのかは自分次第。そこに当たりくじも外れくじも無い」

 「ふうん」と翔次は考える素振りを見せてから言った。「なんだか君と話していると話の続きがもっと聞きたくなってきたよ」

 「そうか。では望み通り聞かせてやる。翔次」

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