第11話 作戦開始
「この業界はみんな自分が一番ってタイプが多いからな。大丈夫だ。例の禰宜は俺の
「確証があるの?」
「ああ。昨日ぶるんぐ様に追っかけられた時に、仇だと強い念をぶつけられたよ。なんのこっちゃとその時は思っていたが、子孫の俺を当人と勘違いしたんだろうな。なにせ、怪異連中は俺らと時間軸が違う」
「怪異が人を識別できるかしらね。私たちだってシロアリやスズメバチの個体を見分けるわけじゃないでしょ」
「それもそうだな。まあ、そうだとしても、当時外国人の美人を連れて歩く禰宜なんざ、俺のご先祖様ぐらいだろうよ。それに賭けるのは俺の命だ」
「ふーん。随分とやる気じゃない」
中矢は探るように平二を観察する。
「まあ、たまにはな」
平二はチラリと美加に視線を走らせると頬を人差し指でかいた。
「で、最悪、何トンもの土砂の中から石を探し出さなくてはならない。その間ぶるんぐ様をできるだけ遠い地点に引きつけて欲しいんだ」
「そんなことを言われても、急に囮なんか用意できないわ」
「ダークスーツ着た部下がいるだろ」
「ここにいるのは後方支援要員なのよ。囮役を命じることはできないわ」
「さすがに俺でも正面から突入するのは無理だぜ。なんとか動けるやつ引っ張ってこれないのか?」
「なんか東北で大きな事件があってそっちに人員投入しちゃってるの。いつ回してもらえるか分からないわ」
そこへ一人の部下がやってくる。
「お話し中、失礼します。課長からです」
携帯電話を渡された中矢は隅で話し始めた。
電話を切ると悪い笑みを浮かべる。
「エサが用意できたわ。残土置き場の社長が中に入れろとねじ込んできたらしいの。大物政治家を通してごり押ししてきたそうよ。せいぜい役に立ってもらおうじゃない」
「おいおい、大丈夫なのか?」
「命の保証はできないって先方にも伝えるから」
黙って唇をぎゅっと引き結んでいた美加が口を開いた。
「その囮、私もやります。人数が多い方がいいんでしょ? あんな男でしたけど、カレ氏はカレ氏なので、仇討ちの手伝いをさせてください」
「あなた、どれくらい危ないのかわかっているの?」
中矢が厳しい顔をする。
「だってこのままだと紺野美加はこの世から消えちゃうんでしょ?」
「それはそうだけど……」
「よく言った。気に入ったぜ。よし、作戦決行だ」
平二は両手を擦り合わせた。
「なにを勝手に決めてるの」
「煩い社長の足止めにも限界があるだろ。じゃあ、相棒の持ち場はここだ」
地図の一点を指し示す。
「相棒?」
美加が胡散臭いものをみるような目つきになった。
「ああ。俺の命を預けるんだ。相棒だろ?」
平二はそんな目つきを気にしないように朗らかに言う。
「持ち場まではヘリで送ってもらえ。中矢さん、同行して装備品の説明を頼む。それと使い捨てのトランスポンダーばらまいておいてくれ」
中矢は大きく息を吸い吐き出した。
「仕方ないわね」
「よし決まりだ」
そんなことを言いながら、平二は指揮室の端に近づいていく。
テーブルに置いてあるパーコレーターの操作を始めた。
後ろから中矢の声がかかる。
「何をしているの?」
「いやあ。うちのご先祖様は珈琲が好きだったって話でさ。現場持っていったら喜ぶだろうなって。あ、そちらは先にどうぞ。俺の方が近いからな。タイムラグつけるために用意できたら連絡してくれ」
平二はミネラルウォーターを容器に注ぎ、挽いたコーヒー豆をセットした。
中矢はやれやれと首を振って美加を見る。
「それじゃあ、私たちは先に出るとしようか。赤松さんのペースに飲まれると命がけの任務に取り組んでいるのを忘れそうになる」
「分かりました」
机の上の地図を手にした中矢は美加をつれて指揮車を出ると、近くに駐機しているアエロスパシアル社製のヘリコプターに向かった。
中矢は後部ドアを開けるとさっさと乗り込む。
美加もその後に続いた。
中矢はシートの後ろからヘッドセットを取り上げ頭に装着する。
まごまごしている美加のシートベルトを締めてやり、ヘッドセットを被せた。
パイロットに地図を渡して指示を出す。
「この辺のどこかに降ろしてくれ。ここからここまでの間でいつものトランスポンダーの投下も頼む」
「了解」
パイロットは短く答えると次々とスイッチを入れてローターを始動した。
ローターが騒々しい音を立て始める。
中矢は着座し自らもシートベルトを着用するとインカムを通して美加に呼びかけた。
「これから各種の装備品の話をする。いずれも、紺野さんの命を守るためにたいせつなものだ。時間が無いから一度しか説明しないぞ。良く聞いて」
その間にもローターはスピードを増し、ふわりとヘリコプターは空中に浮かび上がる。
生まれて初めてヘリコプターに乗った美加は、その経験を楽しむ余裕はない。
中矢が次々と取り出す装備品の効果や使用法について真剣に耳を傾ける。
「この腕時計のようなものは近くにある特殊な周波数帯の電波を受信しているの。この光っている点がそう。それが消えたら振動して知らせてくれるわ」
「ええと、それって?」
「ぶるんぐ様は近くにある電子機器の動作を止める。電波の発信源もね。消えたらつまり、ぶるんぐ様がそこにいるってこと」
「そっか。直接観測できなくても、機器が止まったことで分かるわけですね」
「そういうこと。注意して急いで逃げて。このモニターも消えたら……」
美加はゴクリと唾を飲み込んだ。
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