昼はそこそこ食べていないと遥ちゃんや周りに怪しまれてしまう。

そう思った私は朝ごはんを抜くことにした。

昼ごはんは申し訳程度ではあるが一品のおかずと大好きな玉子焼き。そしてお米。

お弁当箱も少し小さなタッパーに変更した。

朝の分を昼に回してる分、前より多く感じる。

それでも朝と合わせば少ない方だ。

少し弁当の量を増やした私を見て遥ちゃんはすこしほっとしてるようだった。

なぜ彼女がそんなに私のことを気にするのかあまり分かっていなかった。

同い年で、同期という理由でなんとなく話すようになった相手。

仕事以外で会うことは無い。外食に行くこともなかった。

だが最近よく私に話しかけてきてる気がするのだ。


「咲七ちゃん、その玉子焼き美味しそうだね。」

「ん、食べる?」

「ううん、大丈夫。咲七ちゃんが食べて。焼くの上手いなあって思ったの。」

何ともないような会話を毎日数回。

正直食べる姿を監視されているようで嫌だった。

でも遥ちゃんのことは憎めなくて。ふわふわと髪を揺らしながら話しかけてくれる姿は可愛かった。

私も遥ちゃんみたいにスタイル良くなりたいな。可愛くなりたいな。

にこにこと玉子焼きを見つめる遥ちゃんの足元を私は眺めた。

綺麗な細い足。羨ましいな。

タッパーに残っていた玉子焼きをひょいと箸でつまんで口に運ぶ。

少しの量でお腹がいっぱいになるように、噛む回数はとても長かった。

一番少ない量のはずなのに私が最後になるくらい食べるのが遅かった。

最後の一口をごくりと飲み込んだ後、私はまたいそいそとタッパーの蓋をしめ、ランチバックにしまった。

「遥ちゃん、そろそろ休憩終わるから戻ろうか。」

少しぎこちない笑みで呼ぶと彼女は満面の笑みで頷いた。


帰路につきながら私は昼ごはんをどうやって減らすか考えていた。

露骨に減らすと遥ちゃんにまた問われるかもしれない。

体重は以前から2kg減っていたが私はまだ痩せなくてはと焦っていた。

ほんの少し、少しずつ昼ごはんを減らしていこう。ちょっとくらいならバレない。大丈夫。


次の日からご飯を数g減らした。この頃にはお米をg単位で計るようになった。

数値として目視できるのが何故か安心できたのだ。

1週間経つともう数g、と減らす。その繰り返し。


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