私
私は元々食べることが好きだった。それはもう、一日六食なんてこともあるくらいに。
好きなものを小分けにして食べていた。ながら食べとも言えるだろう。
お米にお肉、お菓子やジャンクフードまで。
カップラーメンの〆にご飯なんて当たり前だったのだ。
なんとなく、その時はなんとなくだった。
少しダイエットをしてみようと思い間食を辞めてみた。
最初は間食でさえ我慢するのが苦痛になるほどだった。何度もチョコレートに手が伸びては1個、1個と口に入れていた。
しかし1週間もすれば慣れてきた。お昼すぎにラムネ菓子を1粒食べれば満足するようになっていた。
そうか、慣れるのか。と思うと今度は夕飯のおかずを減らしてみた。
一人暮らしだった私には夕飯が足りないんじゃないかと咎める人もいない。
今までは好んで作っては食べていたほうれん草のおひたしも我慢した。
日が経つ事にかき玉汁のスープが消え、生姜焼きが消え。しまいには夕飯はお米すら食べなくなってしまった。
間食やジャンクフードも全く食べなくなっていた私の体重は当たり前だがするすると減っていく。
ああ、なんだ。簡単な事じゃないか。
ぷちん、とどこかでなにかの糸が切れたような気がした。
夕飯を食べなくなってからは昼食を減らし始めた。手軽だ、とよく食べていたラーメンから低カロリーなサラダと少しのお米。
茶碗には半分も入っていなかった。
空腹は感じながらも達成感の方が強かったため我慢はできたのだ。
職場の同期の遥ちゃんに痩せた?と言われる度に誇れるような気分だった。
「あはは、そんな事ないよ〜!服装でそう見えるのかも。」
なんて言いながら頭の中ではもっと痩せよう、もっと認めて貰いたい。という気持ちでいっぱいで。
その日帰ってきてから私は明日の朝ごはんのことを考えていた。
気づけば最近毎日ご飯のことばかり考えている。
食べる量を減らしてから、ぽん、ぽんと弾けるように食べたいものが浮かんでは消える。
その繰り返し。
「食べたいなぁ。」
そう呟くことも少なくはなかった。
「咲七ちゃん、ダイエットしてるよね?」
昼食の時間。遥ちゃんが私の弁当箱をちらちらと見ながら尋ねてきた。
「うーん、そうだけど…。少しだけだよ。」
嘘。
ここ1ヶ月で体重は4kg減っていた。
最初はビックリもしたが3kg減った頃にはなんとも思わなくなった。
「少し食べる量…少ないんじゃないのかなって私は思うんだけど…。」
「え?そんなことないよ〜!夜は沢山食べてるし。」
そう言うと遥ちゃんの目がキッ、と私を睨んだように思えた。いつも先輩にもヘラヘラと笑う遥ちゃんが珍しく真面目な顔して椅子を私の方へと近づけてきた。
「痩せてる。ちょっとじゃないよ、腕すごく細くなった。」
「え、え、何、そんな触って…気のせいだよ。」
「そんなことない…。咲七ちゃん倒れそうで私、怖いよ…。」
涙目で訴えてくる彼女を見て私は混乱した。
なんでこんなに不安そうな顔するのか。
私は平気なはずなのに。体調管理だって自分なりにではあるが出来ているつもりなのだ。
倒れるってそんなこと私にあるわけない。
「大丈夫だって!倒れたりなんかしないよ!遥ちゃんは心配性なんだから〜!」
あまり手をつけていない弁当の蓋をしめて立ち上がった。
動揺してしまってこのままでは何も言えそうになかった。早く仕事に集中したい。
「私、先に戻るね。」
弁当箱を乱雑にランチバックに入れて遥ちゃんに背を向けて扉に向かった。
くらりとやってくる立ちくらみをと遥ちゃんの眼差しを無視して。
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