空腹
宮田水月
天井
天井をぼんやりと眺めていた。
ふかふかのベッド。暖かい布団。全てに包まれながら私は何も無い空を見ていた。
体は重く深くマットレスへと沈んでゆく。
声も出ないくらいに疲れていた。
薄く開いたカーテンからは朝日が零れるように部屋を照らす。眩しさにきゅっと目を細めた。
このまま何もせずじっとしているのも良くないなとゆっくりベッドから足を下ろした。
パジャマの裾からは出張ったくるぶしが見え隠れする。
のろのろとリビングに向かい、冷蔵庫を開けた。
中はほとんど入っておらず、サイドポケットにある水のボトルを手に取った。
ふとボトルを回転させてラベルを眺める。
何かをじっと見つめてから蓋を開け二口ほど飲む。
水を冷蔵庫に戻したあと、ずるずると座り込み冷蔵庫の引き出しを凝視した。
何度かぶんぶんと頭を振っては思考をかき消そうとする。
この瞬間が私にはとても苦しかった。
震える手を抑えつつ手の甲に爪を立てる。
ああ、我慢できない。
抑えていた手をすっとはなすとその手は冷蔵庫へと伸びた。
1番下の野菜室には何が入ってるか分かっていた。
古い冷蔵庫がギ、と音を立てて開いた。
中には野菜ではなくビスケットや昆布のお菓子。
しかし並んでいるのはどれも糖質○%オフと書かれたものばかり。
「はーっ、はーっ、」
本当は食べたくなんかない。食べたら太るのだ、と頭の中で恐怖が巡っていた。
しかし空腹には抗えない。
ビスケットを1袋手に取る。パッケージの裏を見ては何度も冷蔵庫へと戻そうとする。
食べたい、食べたい。食べたい。
意を決して私はビスケットの袋を手で開いた。
イライラを表すように袋はびりびりと不規則な線を作って。
1つずつ何口にも分けて食べる。何度も、何度も噛んで。
香ばしさと甘さが口の中にひろがる。
美味しいはずなのに涙が溢れてぽろぽろと零れていた。
美味しいのに苦しい。
体調が悪いわけではない。心が苦しいのだ。
「うう、嫌だ、やだよぅ…なんで、こんなに辛いの?」
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