第4話 進路希望調査

 耀と知り合って2ヶ月が過ぎた。最初はクールなタイプかなぁと思ってたけど、普通に笑うし以外と表情豊かで、話していてとても楽しい。けっこう聞き役になってくれることが多くて、ありがたいやらなんやら。耀は背が高くて、僕なんかやすやすと見下ろせてしまうのだけれど、不思議と威圧感を感じたことはない。それも彼の人徳なのだろうなぁなんて思う。指もすらりと長くて、ピアノとかが似合いそうな形だなぁなんてことを思ったりもする。同じようなことを聡太も言っていた。

「楽器用の指って感じだよな」

って。

 聡太とは高校からの付き合いだ。席が隣同士になってなんとなく話すうちに、二人とも読書が好きなことが分かって、色々と話すようになった。彼は推理ものが好きらしく、おすすめされる題名は網羅的だった。一方の僕はファンタジーが好きで、そこは対照的だった。聡太は基本的に低温度に周りと関わり合っているけれど、その根底には穏やかさと優しさがあって、そういうところがいいところだなと思っている。そういえば、聡太は基本的に学校生活を疎んじているけれど、その割には友達もいるし授業もちゃんと受けているし、何が不満なんだろう。僕の知らない聡太の気持ちの根っこ。いつか話してくれるだろうか? 僕からも何か水を向けてみようかな。近いうちに。

 進路希望調査の紙が配られる。教室のあちこちで悲鳴が上がる。僕の手元にもプリントが来た。書くことは決まっていた。国語の教師になりたいのだ。高校入学あたりで決めた夢だった。聡太は何と書くのだろう。耀は?

「理学療法士かな」

と聡太は言った。休み時間に突撃して訊いたら教えてくれた。そうなんだ。なんだか意外だ。

「聡太は探偵とかになるものだとばかり思ってた」

「なんでだよ」

「安楽椅子探偵とか似合いそうじゃん」

「奉仕がしたいんだよ」

「意外だな〜どうして?」

「祖父が足を悪くしてて、毎週理学療法士に世話になってるんだ。それ見てて自然となろうかなと思った」

「そうなんだ」

 興味深そうに聞いている耀にも訊いてみる。

「耀は? なんて書いたか訊いてもいい?」

「俺は……音楽療法士」

 え、そうなんだ? 耀は音楽選択じゃないけど、どうしてだろう……?

「意外だな」

 聡太がそう言うのも無理からぬ。

「どうして?」

 僕が聞くと、耀は困ったように眉を下げて、

「今は言えない」

とだけ言った。僕と聡太は顔を見合わせて、頷いた。

「耀が話したくなったらでいいよ、もちろん」

「別に詮索したいわけじゃないしな。いつでも」 

 すると耀はほっとしたように笑った。

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