第2話 アミューズメント

 学校というところは、僕にとったらテーマパークみたいなものだ。たくさんの人がいて、人の数だけ思惑があって、毎日面白いことが起きる。喧嘩でさえエンタメの一つ。ましてや転校生だなんて、超弩級アミューズメントじゃあないか!!

 友達の聡太はその点、楽しいことへのアンテナが弱々だから、数限りない人生の喜びを取り落としているように思うのだけれど、しかしなぜだかそういう機会に遭遇するチャンスが多いように思う。僕から見ると、かなり運のいい方だ。おお神よ。なぜそんな不合理なことをなさるのですか!? 僕にも! 僕にもチャンスをちょうだい! ま、自分から取りに行くからいいんだけどね。今回の広瀬君の件も、聡太の幸運体質が発動したんだろうなぁ。これで聡太を口実に転校生にもちょっかいを出せるのでWin-Winではある。待ってろ転校生!

 と脳内で興奮しながら聡太の席へ。なにやら話をしている。

「なんの話してんのー?」

 と聞けば、二人は顔を見合わせて、聡太が「数学で聞き逃したところがあるっていうから教えてた」

と答えた。真面目か!!

「そうなんだ〜、広瀬君前の学校でもちゃんと授業聞いてたの?」

「それはまぁ……ついていけなくなったらやだし」

「そっか〜、僕なんか数学の時間寝ちゃうけどなぁ」

「苦手なの?」

 瞳がこちらをのぞいてくる。凪いだ海みたいな色をしているな、とふと思った。詩情なんて僕の分野じゃないけど、それほど印象的な瞳だ。なんとなくどきどきしながら

「国語の方が好きだね〜」

 と答える。なんでも見透かされそうな透明度だ。聡太の半目ばかり見ているから新鮮。

「あーあ、早く3年生になって理系科目とおさらばしたい〜」

「じゃあ俺ともおさらばだな」

 あ、そうだ、聡太は理系の方が得意なんだった。ヤベ。

「それはやだよぉ〜〜」

「じゃあ今を噛み締めて生きろよ」

「マジそうする〜〜」

「しなだれかかんな」

「冷たいなぁ」

 僕らのやりとりを眺めていた広瀬君が机に頬杖をつきながらふふっと笑った。

「仲いいね」

 一瞬、暗い羨望のようなものが瞳をよぎった。あれ、と思う。でもそれはつかの間のことで、すぐにおかしがるような色に取って代わった。聡太を見ると、気がついていないような感じだ。そのあと会話をしながらも、何度かその時の彼の表情を思い出すことになる。この転校生には、まだまだ知らない表情がある、と漠然と感じた。窓の外では、物言わぬ木が揺れていた。

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