第2話「冒険前夜」

  「え? 君、ここの時代の人じゃないのか?」

 カエサルはこの時代ではあり得ない飲み物を飲み、言う。

 「ええ。ふと眠っていたら、突然この時代に来ていて・・・・・・」

 私は彼にこれまでの経緯を話す。

 「そうか・・・・・・。てっきり、ここの時代の人かと思ったが。そう言えば、私の国で一つ気になることがあってな」カエサルは腕を組み、背もたれに寄りかかる。

 「それは・・・・・・?」

 「今いる建物もそうだが、ここの時代とは思えない技術だったり、建物が増えて実は困ってるんだ」

 「例えば・・・・・・?」

 私がそう言うと、彼は飲み物の食器を挙げる。

 「例えば、これだ。なんて言うかは分からないが、これのおかげで便利になったものの、どうしていきなり、これが普及し出したかよく分からない」

 (・・・・・・時空が歪んでいる。あの人が言っていたことは本当だったんだ)

 「あと、この飲み物もそうだ。確か」

 「コーヒー」

 「そう。コーヒー。この飲み物を使うとき、あのお店の人が何やら機械を使っていただろ? あれも便利だけど、急に広まりだして何だか」

 彼は困り果てている様子。

 恐らく、時代が追いついていない人、なのか?

 「便利だから、皆が使うのは当たり前だと思うけど」

 「そうだけど、こんな最先端な技術が広まるのって、何だか変じゃないか?」

 「まあ、そうですけど・・・・・・」

 「何か知っていること、あるか?」

 彼は私に顔を近づける。

 「多分、時空が歪んでいる、その影響かな」

 私は小声で話すと、彼は「時空?」と怪訝そうに言う。

 「私がいる時代と、あなたがいる時代をそれぞれ空間と位置づけて、それで時空と呼んでいるんです。それが、あるときを境に歪んでしまっているようで」

 「その原因って、なんだ?」

 そう言うが、私は首を横に振る。

 「そうか・・・・・・。その時空の歪みが進むと、どうなるんだ?」

 「どうでしょう・・・・・・。そこは私にも」

 彼は何も言わず、ただ人並みを見る。

 「ただ、これだけは言えると思います」

 「なんだ?」

 「二千年まで続いた、人類の歴史は消える」

 そう私が言うと、彼は驚くように目を見開く。

 「それじゃあ、この現象を早く解決しないと」

 彼は急かすように言うが、私は早く反応することは出来なかった。

 「・・・・・・ですけど、この現象を解決するには、ある人物を探し出さないといけないんです」

 「ある人物?」

 彼の眉間に皺が寄る。

 「〝歴史上の特異点〟となる人物を、です」

 「特異点、か。その人を見つけ出せば、時空が元に戻ると?」

 「多分、かと」

 私は先程の出来事を思い出して言う。

 

 ◇

 

 「本当なんですか、それ」

 私は牢獄に閉じ込められた男に言う。

 「ああ。恐らく、〝歴史上の特異点〟となる人物を見つけ、私のところに連れて来させれば、必ず時空が元に戻る」

 「なるほど」

 「だが」

 男は顔の横に人差し指を置く。

 「その人物、どうやら旅をしているらしいんだ」

 「え? どこを?」

 「さぁな。そこは君たちに任せるよ」

 そう言って、男は牢獄の中にある椅子に腰掛ける。

 「さぁって。それを見つけるのがあなたの仕事じゃないの?」

 「そうとも言う。しかし、私が見つけ出そうとすると、あいつは必ず俺を襲ってくるんだ」

 「襲う?」

 「さぁ。それは見つけた後のことだから、あまり気にしないでおくれ」

 男は「さぁさぁ行った行った」と言わんばかりに、手を振る。

 (旅人で、見つけたら襲われる・・・・・・。何を言っているんだ?)

 私は内心そう思いながら、鏡の中へ入った。

 (・・・・・・って、君〝たち〟って何⁉)

 

 ◇

 

 「よし。見つけ出そう」

 彼は立ち上がる。

 「え? 良いんですか」

 「ああ。私の国を救う為にも、手伝ってあげても良いさ」

 「あ、ありがとうございます」

 「良いよ。礼なんて。これは国存立の危機なんだからさ」

 そう言うと、彼は「さぁ、行くとするか」と城門を示す

 「はい。行きましょう」

 私たちは城門の外へ、向かって歩んだ。

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