第1話「この世界はどこ⁉」

 「ここが君の部屋だよ。好き勝手に使って良いよ」

 彼――カエサルがそう言い、扉を閉めて去る。

 内装は荘厳で、一人で住むには広すぎるな、と思う。

 そして、何と言っても。

 私の、この服装。

 私は鏡を見て、煌びやかなドレス姿を見る。

 どことなく中世ヨーロッパを想像出来そうで、まるでどこかの王国の女王になったみたい。

 その状態で、私はベッドに寝転ぶ。

 ――ふかふか。

 いっそ、私はこの世界の住人でいたいな。

 私は数時間前の出来事を思い返していた。

 

 ◇

 

 「やっと起きたかい?」

 彼がそう言うと、私に手を差し伸べる。

 「あ、ご、ごめんなさい! ――でも、ここは一体?」

 私は周囲をキョロキョロしながら言うと、彼は首を傾げる。

 「ここの住人じゃないのかい? もしかして、他の国から来た民とか」

 「ええ、まあ、そんな感じです」

 「今日、寝泊まりするところはあるのかい?」

 そう言われ、私は首を横に振る。

 「じゃあ、私(わたくし)の家を案内しよう」

 そう言い、彼は私の手を握り、どこかへ導かせる。

 ――なんだか、夢みたい・・・・・・。

 着いた先は、私の身長より遙かに高い城壁が聳え立っていた。彼はその中へ歩き出すと、私はその後をついていく。

 城門を潜ると、そこに広がったのはーー、賑やかな城下都市だった。

 「ここは?」

 私は隣の彼に訊く。

 「ああ、ここの国は私が統治する国――ローマ。なかなか賑やかで、楽しそうだろ?」

 ローマ・・・・・・。

 あれ? 私、どこかで聞いたことがあるような・・・・・・?

 ってか、さっき、〝統治〟って言わなかった⁉

 「じゃあ・・・・・・、あなたって」

 「そう。私はこの国を治める王である。名を〝ガイウス=ユリウス=カエサル〟と言ってね」

 「ガイウスゆりう・・・・・・、なんて?」

 「長いからガイウスで良いよ」

 「あ、はい。ガイウスさん」

 ガイウスと名乗った彼が照れながらそう言う。

 「あ、あと、そのさん付けもやめて。俺はそこまで偉くないし」

 「そ、そうなんですね」

 私はガイウスと名乗った王を見て言う。

 ――カエサル・・・・・・。

 どこかで聞いたことがあるような。

 そもそも、この世界はどこなの?

 どこの時代なの?

 服装から見るに、どう見ても現代の時代じゃなさそうだし。

 「それじゃ、君が今晩寝泊まりをするところに案内させるよ」

 そう言って、彼が歩き出す。

 

 ◇

 

 ――どこなんだろ。ほんとにここは。

 そう思っていると、突然鏡が光り出す。

 え?

 ファンタジーみたいな感じになっているんですけど。

 私は鏡に触れる。

 ぴちょん。

 中に入れる。

 私は勇気を出し、鏡の中へ入る。

 ――あれ? ここはどこ?

 私は起き上がると、「来たか」とどこからか声がした。

 「えっ、どこ?」

 「ここだ」

 私は周囲を見渡す。だが、そのような姿はどこにも見当たらなかった。

 「いませんが」

 「・・・・・・ったく、しょうがない」

 声の主がそう言うと、私の目の前に現れる。

 ――鉄格子? え? は?

 「ああ、まだ説明がまだだったね。僕の名はアイウス。時の管理者だ」

 髭面のおじさんが鉄格子に閉じ込められた状態で、そう言う。

 「時の管理者?」

 「そうだ。僕は長年時の管理者を務めている、いわばベテランだ」

 「じゃあ、昭和生まれ?」

 「いや! それは違う! 私は永遠の十七歳だ!」

 (えぇ・・・・・・、いい大人が言うことなの・・・・・・)

 内心困惑をしていると、「ああ、そうだ」と彼は言う。

 「君、もうこの世界のことは理解したかね」

 「いや、まだ」

 「なるほど。では、この私が説明してあげよう」そう言い、彼はコホン、とせき払いをする。

 「この世界は若かれしカエサルが生きる、つまり古代ローマが時代の世界なのです」そう言うと、彼は歩き出す。

 「だがな・・・・・・、君も感じたとは思うが、この世界の時空が歪んでしまっているんだ」

 「時空が、歪んだ?」

 私は疑問に付す。

 「ああ。長年この仕事を務めているのだが、こんなことは初めてなんだよ。そういうわけで、お願いがある」

 「何でしょう」

 「時空が歪んでしまった理由を、探し出して欲しい」

 「え」

 「勿論、強制はしない。もし無理だと言うならば、君を元の時代に帰すよ。どうだ、やってみるか?」

 そう言われ、私は暫し考える。

 急にこんなことを言われたって、訳が分からないよ。

 時の管理者?

 時空が歪んだ?

 だから、なに?

 私に何が出来るの?

 マイナスな考えばかりが浮かび、「帰ります」という言葉が口に出そうになった瞬間、あるプラスな考えが浮かぶ。

 ――じゃあ、なんで私がこの世界に飛ばされたの?

 平凡な生活を送っていたはずなのに。

 どうして?

 その理由を、調べる価値はある。

 「やります」

 「よく言ってくれた。それじゃあ、これを渡そう」

 そう言って、彼はとある物を私に手渡す。

 それは、明らかにこの時代ではなさそうな物。

 かと言って、私のいる時代の物ではなさそう。

 「それは小型の時空転移システム。通称〝キャッチ〟だ。一回きりだから、注意して使っておくれ」

 「ふーん」

 「では、またお会いしましょう」

 「うわっ眩しっ‼」

 

 ――あ、あれ? 元の場所に戻ってる。

 キョロキョロとしていると、扉が開く。

 「そう言えば、君の名前を聞いていなかったね。名前は?」

 「えーっと、小川楓って言います」

 「お、おがわかえで? なにそれ、何語?」

 「・・・・・・日本語、ですけど」

 「日本? どこなの? その国」

 「え? 知りません?」

 そう言った時、私はふと思い出す。

 ーーそっか。古代ローマだから知らないのか。

 「アジア地域にある島国なんですけど、知りません?」

 「ううん。知らないな。――じゃあ、そういうわけで、よろしくね。楓さん」

 そう言って、カエサルは扉を閉める。

 ――こうして、異世界ファンタジー生活が始まったとさ。

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