第二章 いろは村と鬼ヶ島 3
翌日、みんなで朝食を取っている中で告げる。
「みんな、聞いて欲しいことがあるんだ。私は評議委員に立候補する」
動かしていた手が一同止まった。驚きをみんな顔に出して表す。初めに口を開いたのは猿彦であった。
「評議委員に立候補って? 桃太郎さん、どうしたんだい?」
犬助に話していた昨日の出来事を猿彦、キジ尾にも同じように話して伝えた。
「私は思ったんだ。人や鬼たちの暮らしを守るために、労働者の権利を守らなくては、と。この村と鬼ヶ島では資本家というお金を持っていて、生産技術を牛耳っている人や鬼たちが労働者を圧迫しているんだ。苦しめてると言ってもいい。労働者は搾取され、働けなくなったり賃金の向上を求めたりすれば別の労働者を雇い利用する。そんな体制が出来上がってしまっているんだ」
「確かに。俺が働いている建設現場でもみんな給料が全然上がらないし、使い捨て前提で雇われてるって愚痴はあるな」
「そうだろう。利益だけを追求して、広がる格差に資本家はみんな目をつむっているんだ。キジ尾も今まで働いてきてそう思うことがあるだろ?」
「僕もそう思うことは確かにあるよ。知恵と才能、それに運と努力があれば成功して出世が出来て、お金持ちになれるって言う。でもみんながそうではないし、出来ない者もいることをよく分かってないと思うんだ」
猿彦とキジ尾の話を聞き境遇に共感する。
「そうさ。私はみんなが平等に扱われていないって思うんだ。お互いを競争させるってのは、周りを敵とみなして、互いの交流が策略にまみれるものなんだよ」
話を聞きながら頷いていた犬助が口を開く。
「桃太郎さんの言いたいこと、不満は分かるよ。貧しい方たちを救わないとって、僕も思うよ。だから、桃太郎さんを応援するし出来ることがあったら協力したい」
「ありがとう」
感謝の言葉を伝え、一呼吸置いて続ける。
「そして、みんなに改めてお願いがあるんだ。実は私と一緒に評議会の一員に立候補して欲しいんだ」
また一同が驚き、固まった。
「え! 桃太郎さんだけじゃなく、僕も猿彦もキジ尾も立候補するのかい?」
「私一人だけでは駄目だと思うんだ。一人が評議委員になっても数で押されてしまうかもしれない。だから、ともに立候補して評議委員となって欲しいんだ」
「そりゃ、俺も犬助と同様に協力したいとは思うけど、政治や経済なんて難しいことはからっきし分かんないんだが……」
「僕も猿彦と同じだよ。服飾関係の知識しかないのにみんなの支持を集められるとは思えない。評議委員になっても何が出来るというのか……」
みんな、不安の表情を出したままうつむき沈黙した。
「分からなくて当然さ。まだこの村に来てそんなに経ってないんだし。働き始めて分かったことがあるみんなだから、言えることもあると思うんだ。分からないことは私が教えるよ。一緒にこの村と鬼ヶ島を変えていこうよ。抑圧された人たちと鬼たちを、私たちが解放するんだ!」
思いがけず、気付くと座っていた椅子から立ち上がっていた。
犬助が少しの沈黙の後、力強く頷いた。
「分かった、桃太郎さん! 僕も立候補して評議委員になるよ。本当に評議委員になれるか分からないけど、頑張れるだけ頑張るよ」
猿彦とキジ尾の目を真摯に見つめる。
キジ尾はゆっくりとながらも頷いた。
「僕も犬助と同じように分からないことが多いけれど、立候補するよ。桃太郎さんに協力するさ。旅は道連れって言うし」
猿彦は返答に困っていたようだが、戸惑いながらも静かに頷いた。
「分かったよ、俺も立候補するよ。勉強するのは億劫に感じるけど、俺も頑張れるだけ頑張ってみるさ。落ちても怒らないでくれよ」
「ありがとう。犬助、猿彦、キジ尾。私たちがともに団結すれば、どんな困難でも打ち勝てる気がするんだ。ともにこの信念を貫こう」
私は犬助、猿彦、キジ尾とともに手を重ね、意志を合わせた。そして、私たちは互いに一致団結し揺るぎない信念を固めあった。
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