第一章 桃太郎の誕生 4

「ご飯ですね、やったー。丁度お腹も空いてきた所ですし、早速食べに行きましょう」


 犬助が喜び、速歩きで前を歩き出した。猿彦もキジ尾も、どれくらい美味しいのかなと話しながら後に続いた。

 食べ物を出す色々なお店が並ぶ一角へと辿り着き、その中から一つのお店を決めて中に入ると、店員が話しかけてきた。


「何名様でしょうか?」


 白と黒を基調とした格好で、細身の若い鬼の男性が尋ねる。


「四名です」

「格好からすると、旅の方でしょうか? 申し訳ありませんが、お金はお持ちですか?」


 お金を持っていないと思われたのだろう。猿がムッと小さく声に出していたが、横から私は冷静に答える。


「ええ、持っていますよ。これぐらいあるのですが、足りますか?」


 お父さんとお母さんに持たせてもらった巾着袋からお金を取り出し、店員へ見せる。手に持った銭を見ると、彼は怪訝な顔をした。


「この村で発行したお金ではないようですね。この村で発行したお金でないと使えないんですよ」

「そうなんですか……。では、きび団子での支払いはどうですか? とても美味しいきび団子なんですよ」


 腰に掛けたきび団子が入った袋に、手を当てて伝えるも更に困った顔をされる。


「申し訳ありません。お支払いはお金のみとなるんです――」

「じゃあ俺たちはここのお金を持ってないから、何も食べられないし何も買えないってわけかい?」


 少し怒り気味に猿彦が言い出す。


「いえ、そういうわけではなくて……。他の村のお金を持っているのでしたら、交換所でこの村のお金と交換する必要があるんです」


 まずは他の村のお金と、この村とで使えるお金を交換する必要があるとのことだった。店員に詳しく話を聞き、近くの交換所を教えてもらった。

 近くの交換所へ行き、持っていたお金を店員に渡して待っている間、犬助が尋ねた。


「他の村のお金は使えないんですね」

「そうみたいだね。この村と鬼ヶ島とで使われている専用のお金があるようだ」

「それなら早くそう言ってくれればいいのに。全く……」


 猿彦がため息をこぼす。


「まぁまぁ、もう少しの辛抱だよ。お金さえ用意出来ればなんてことないさ」


 猿彦をなだめさせ、少し待っていると奥からおばあさんが戻ってきた。


「お待たせしました。随分と遠い所で使われている硬貨のようですね。純度が高い銀が使われているようですので、全部換金するとこれぐらいになりますよ」


 紙に書かれた数字を見るも、どれぐらいの金額になるのかよく分からなかった。


「これぐらいあれば四名分の食事は足りますか? あとお店で何か買う分も足りますかね?」

「ええ、ええ。それぐらいであれば十分足りますよ。高級な物を買うわけでないのであれば、半分でも足りるくらいです」

「そうですか。……では半分だけ、換金をお願いします」


 ひとまず手持ちの半分だけ、この村のお金と交換することにした。犬助も猿彦もキジ尾も幾ばくかのお金を持っていたので、合わせて換金することにした。


「はい、分かりました」


 おばあさんにお金を交換してもらうと、お金が紙幣という紙のお金と硬貨になって戻ってきた。

 先ほどのお店へ戻るとまた同じ店員が迎えてくれた。巾着袋を開け、手にしたばかりの村のお金を見せる。


「これぐらいあれば足りますか?」

「はい、大丈夫です。これぐらいあればこのお店のどんな料理でも選ぶことが出来ますよ」


 店員は満足そうに頷くと席へと案内し、座った私たちに品書き表を渡してくる。


「当店のおすすめ料理は魚料理です。近くの海で取れた新鮮な魚を使用しています」


 四人で話し合い、私とキジ尾は店員おすすめの魚料理。犬助と猿彦は肉料理を注文した。

 少し待ち運ばれてきた料理はとても美味しそうな料理であった。香りが良く、食欲をそそる。何皿かが私の前に置かれ、一番手前には大きな白いお皿が置かれた。

 お皿の中心には焼いた魚の切り身の上に、鮮やかな薄緑の粘度がある液体がかかっていた。

 犬助、猿彦の前に置かれていく料理もとても美味しそうであった。置かれているお肉の料理はとても綺麗な淡い桃色をしており、犬助は見ると感嘆の声を漏らした。


「ではみんな食べよう、いただきます」


 いただきます、と口々に言い料理を口にする。柔らかい舌触りと濃厚な味が口内に広まる。言葉で表しきれない美味しさであった。


「とても美味しい。今まで食べたことのない味と匂いだ」

「本当とっても上手い。初めて食べたぞ、これは」


 猿彦は目を輝かせるようにして、夢中で噛んで味わって食べる。


「これは本当に凄い。感動してますよ、僕は……」


 犬助はうんうんと頷いて言いながら、喜んで料理を口にしていた。

 他のお皿に載せられた野菜、吸い物、麺麭パンもどれも味わったことのない食感で美味しかった。食後の茶菓の冷菓ゼリーという食べ物も、冷たく甘くて心地よい気分となった。

 最後に運ばれてきた飲み物を見て、私を含めみんなが驚いた。

 色は真っ黒な液体で、そこから上る湯気だけが薄白く色を出していた。

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