第一章 桃太郎の誕生 3

 色々とおじいさんから話を聞き、感謝の言葉を伝え別れた後、互いに向き合う。


「どうやら悪い鬼はこの村にいないようだ。鬼退治の必要もなくなったみたいだし……。どうだろうみんな、この村をまずは歩いて見て回らないかい?」


 みんなはすぐにうんうんと頷き、承知してくれた。


「まずみんなはどこに行ってみたい? 私は図書館という所を見てみたいんだ」


 先ほどのおじいさんから聞いた、図書館という所は是非行ってみたいと思っていた。何万冊もの本が置かれていて、無料で読むことが出来るという所は大変に興味深かったのだ。


「僕はお店で何か食べてみたいな。美味しい料理が沢山あるみたいだし」


 犬助はそう答えた。


「俺は大衆遊技場って所に行ってみたいな」


 続いて猿彦はそう答える。


「僕は服を売っているお店を見てみたいな」


 同じく続けてキジ尾はそう答えた。みんな行ってみたい所は別々であった。


「じゃあ、一つ一つ見て回ろうよ。図書館に行って、ご飯を食べて、大衆遊技場に行って、お店を見て回る。どうだい?」


 うんそれで良いよ、とみんな自分の案に賛成してくれた。

 早速そう決めると、私たちはまずは図書館に向けて移動した。図書館の場所を通行人に尋ねると、村と鬼ヶ島に二つあるとのことで距離的に近い、いろは村の図書館へ行くことにした。

 歩きながら人や鬼を見ると、服が着物であれば着物ではない服を着ている者もいた。


「着ている服が着物でない方もいるね、あれはなんて服なんだろう?」


 服が上下に別れており動きやすそうな格好であった。


「本当ですね、桃太郎さん。見たことない格好です。上下ともに違った色をしていて袖周りや足回りが細いですね」


 犬助と同じように猿彦もキジ尾も見たことない服だと言う。


「この村、独自の服だろうか? 他の方と比べると私の格好は少し目立ってしまうね」


 苦笑しながら漏らす。鎧と陣羽織を着て刀二本を横に下げた自分の姿は、この村から浮いてしまっているようだった。

 犬助、猿彦、キジ尾たちは着流しの着物であったので、目立ってはいないようであった。


「では後で桃太郎さんもあの服を買って着てみましょうよ。きっと似合うと思いますよ」


 キジ尾が明るい声で言ってくれた。


「私に似合うと良いのだけれどもね」


 目に入ってくる建物や風景、人、鬼などのことを喋りながら歩いていると、大きな建物が見えてきた。近くの看板にこの先、村立図書館と書かれているのが目に入った。


「あれが図書館かな? 信じられない大きさだ」


 目に入ってくる建物の大きさに驚く。横も縦の大きさも他の建物よりも、数十倍遥かに大きい建物だった。


「本当に大きいですね。よくこんな大きな物を作れたもんだなぁ」


 猿彦が図書館を見上げながら、感嘆の声を出す。


「それにどこも石で出来ていて、木が使われていないね。まるで城のような頑丈さだ」


 大きさもさることながら、何よりもそれが全て堅牢な石造りで出来上がっているのに驚く。


「早速中に入ってみよう。どれだけの書物があるんだろう」


 図書館の中に入ると職員の方がいた。初めてこの村に来たこと、中を見て回りたいことを言うと、快く図書館の紹介をしてくれた。本を貸し出すのはこの村か鬼ヶ島に住んでいる者に限られているが、中で読むことだけは自由であると説明された。

 そして自分が持っている刀は物騒なので、受付で預かるので帰り際に受け取りを、と言われた。刀を受付に預けた後、みんなで中に入る。

 図書館は四階建てになっており、一階から見て回った。中はしんと静まり返っており、石造りだからか、どこもひんやりとしていて涼しかった。

 図書館にいる人や鬼たちはみんな黙々と読書をしたり、調べ物をしたり、書き物をしたりしていた。


「凄い量の本だね。今までこんな量の本を見たこともなかったよ」


 声を潜めて、隣にいた犬助に言う。犬助も静かな声で返してくる。


「本当ですね。僕も全然見たことない量です。一生かかっても読みきれない量の本ですね」


 一冊を手に取って開けばまた驚いた。手書きで書かれているのかと思ったら違う。どの文字も均一に綺麗に乱れなく並んでいた。同じ文字が全く同じ形で書かれていた。墨を使って書いたのではない、何か別な方法で書かれているらしかった。

 本に使われていた文字は私が教わった文字や漢字が使われていたので、一安心する。読めない漢字や意味が分からない言葉はいくつかあったが、大体の文章の意味は理解出来た。


「他の階も見て回ろうか」


 本を手に取り、各々難しい顔で項をめくっていたみんなに、小さな声で言う。

 上の階へと行き、同じように中を見て回った。

 どの階でも本の内容の種類ごとに分けられており、読みたい本が探しやすいよう工夫がされていた。

 全階を見終え受付に戻り、預けていた刀を受け取り図書館を後にした。


「いやあ、凄かったね。とても沢山の本があって驚いたよ。読んでみたい本がいっぱいあって、選ぶだけでも時間がなくなりそうだ」

「凄い量でしたね。それにとても静かで俺は眠くなってしまいましたよ」


 猿彦が大きくあくびをして口を閉じた。


「絵や図などが書かれた事典もありましたし、凄い建物でしたね」


 キジ尾の言う言葉に納得して頷く。


「そうだね。あんなに沢山の本をみんなが無料で読めて、貸し出し出来るようにしているなんて凄いよ、この村は」

「他にもきっと驚くことがいっぱいありそうですね」

「うん、そうに違いない。では次は料理を食べに行こう」


 次は犬助が言っていた料理を食べるだ。昼食時には良い頃合いだった。

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