第一章 桃太郎の誕生 2
一言で言えば、圧巻だった。
村に入って驚いたのはその村の発展度合いであった。自分の暮らしていた村よりも遥かに多くの人たちが行き交っており、建物も住む家だけではない様々な建物があった。
建物も住居も遥かに見上げるほど高く、自分が暮らしていた村の中で一番高い建物よりも三倍以上高い建物が平然と並んでいた。わら作りではなく、どの建物も石を積み上げて作られた頑丈な建物であった。
道も均一的な石が並べられ舗装されており、綺麗に街並みが整えられていた。道の中心では、馬に籠のような荷車を付けた乗り物も通っている。十人は乗れるだろう大きな籠を付け、馬に牽かせている乗り物もあった。
牛に人や物を牽かせる牛車を見たことはあったが、あのように馬に牽かせているものは初めて見た。
歩いている者を見れば、人も鬼も平然と歩いていた。互いに人と鬼が談笑しながら笑って歩いている者たちもいる。
「桃太郎さん、話に聞いていたのと違うようですね。鬼が人を苦しめている様子ではないです。それにこんな大きな建物が沢山あるのは初めて見ました」
犬助は目と鼻をキョロキョロさせながら話した。
「俺もこんな大きな建物は今までに見たことも聞いたこともないよ。どうやって作ったのだろう?」
目をパチクリしながら猿彦が同じようなことを言う。
「私もこんな大きな村は初めて見たよ。今まで見てきた村とはとても違う。鬼と人も普通に話しているし、とても悪さをしているようには見えないなあ」
私は素直な感想を口から出し、その疑問を歩いている一人の初老の男性に尋ねた。
「おや、遠方の方かい。みんな初めてここ、いろは村を見た人たちは同じように驚くのさ。凄いだろう。このいろは村はこの国一番と言ってもいいほど、栄えているんだよ」
「私たちは人が鬼に苦しめられていると聞いて鬼退治にやってきたのですけど、鬼は悪さをしていないのですか?」
「はっはっは。鬼が人に悪さしていたのは百何十年も昔の話だよ」
おじいさんは大きく笑った。
「今は鬼も人も仲良く暮らしているさ。そりゃ昔は鬼が人を襲い、人が鬼を襲いってむごい戦いがずっと続いていたらしいさ。けれど、鬼も人もどちらも変わらないといつからかみんな気付いてね。昔は鬼の体も大きく、人の倍以上あって力も強く怖かったらしいが、今じゃみんな人と同じ大きさになってるよ」
おじいさんの言うことに驚きながら疑問をぶつける。
「鬼が人を食べるって言うのは?」
「それは嘘さ。鬼は人を食べることもないし食べ物は人と同じさ。鬼は特別な力を何も持っているわけでもなく、人と同じなんだよ。今の鬼と人に違いがあるとすれば、肌の色が違うのと、小さな角が頭から生えているくらいさ。それ以外はみんな全く人と同じなんだよ。それがお互いに分かってからは、ともに一緒に仲良く生活していきましょうってなってるわけさ」
「そうなんですか。私たちは凄い勘違いをしていたようだ……」
「おじいさん、海に見える大きな鬼ヶ島はどうなっているんですか?」
キジ尾が孤島の鬼ヶ島のことを尋ねた。
「鬼ヶ島もここのいろは村と同じような感じさ。鬼も人も一緒に生活してて、大きさもこのいろは村と同じくらいの大きさだから同じように栄えているよ。泳いで渡っては行けない距離だから、一時間に一回は船が出て島と村を行き来しているよ」
私と犬助、猿彦、キジ尾たちは、いろは村のことや
おじさんと話している途中、真ん中の道路をカタカタと小さな音を小刻みに出しながら、大きな乗り物が通った。四つの車輪を付けた緑色の乗り物で、中には人が座っていた。馬に牽かせておらず乗り物単体で動いていた。白い煙を少量モクモクと横から吐き出しながら、馬ほどの速度を出して通り過ぎて行った。
犬助も猿彦もキジ尾もみんな度肝を抜かれたように驚いていた。私も今見た光景には目を疑った。
「あれは何ですか! 馬もいないのに勝手に走っていましたよね?」
初めて見た今の乗り物について驚いて尋ねる。そして先ほど見た馬が牽く乗り物についても合わせて聞いてみた。
「さっき見た馬が牽く乗り物っていうのは馬車というやつさ。それで今通ったのは蒸気自動車というやつさ。最近馬車に代わって作られた物でね、値段は高いが使い勝手は優れていると聞いたよ」
蒸気自動車や馬車という今までに見たことがなかった物を知り、驚いた。他にもどんなものがこの村と鬼ヶ島にあるのか、みんなで更に質問をし続けた。
おじいさんは丁寧にひとつひとつその質問に答えてくれた。
私は勉強したい人が自由に学べて、無料で本を読み借りることが出来る図書館というものに大変興味と関心を持った。
犬助は趣向を凝らした美味しい料理が種々様々にあることを聞いて、よだれがこぼれ落ちそうになりながら是非食べたいと言っていた。
猿彦は色々な娯楽所や遊ぶ所が多くあることを知り、大変興味を持っていた。
キジ尾は様々な服がここにあり、身に付ける服飾品が沢山あることを知って目を輝かせていた。
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