第九話 東京大門事件

ドグワーン


 任務終了時間となり、私が第二階層への階段口の早苗さんと所に向かう途中にそれはおこった。私が轟音を聞いて、走りながら第二階層への階段口に向かうと、2人の少年少女が倒れており、傷だらけの青年剣士と、坊主の坊主が二人を守っているのが見えた。立花さんは腰を抜かして座り込んでおり、私は階段口前の広場にすぐには出ず物陰で観察すると、4人の黒装束の覆面と、4頭の魔獣が階段口から出てきた。


「殿下、恵子様お逃げください。何とかここで押さえます。」

「甲斐、宗道・・・・。」

「早」


 坊主は、2人の少年少女に声をかけた瞬間、巨大な銀色の狼型魔獣に襲われた。坊主は、黒い四角の箱を持った腕を噛みつかれ、振り回され、腕を千切られながら、天井にたたきつけられた落ちた。その光景を見て少年少女は、青ざめた顔をしていたが、何とか立ち上がろうとしていた。黒装束の内1人は、逃げ道となる、奥の側を塞ぐ位置に移動し、その流れで、ナイフを投げつけ、立花さんの胸を一突きにした。もう一人は殺気を殺している私の方に来て背中を向けた。その時、黒装束達は油断したんだろう、私の行動というより存在に気付いていなかった。私は、剥き身にしていた刀を持ち、ゆっくりゆっくりと黒装束に近づいて行った。黒装束は既に勝利したのか、持っていた剣を鞘に納め、魔獣達がゆっくり少年少女と青年との間を縮めていった。腕をモグモグと味わいながら噛んでいる狼が少しずつ青年に近寄っていくと、口の中から煙が出てきて、その状況に一瞬全員が止まった瞬間。


ドーン


 と、爆発により、狼の首が吹き飛んだ。その光景に黒装束が一瞬ひるんだのを私は好機と思い、黒装束の一人の胸に刀を突き刺し、首筋に向けて切り裂いた。私の神の手による整備により、魔力を帯びたのと同様の状況になった刀により、あっさりと切り裂くことができた。


「なっ・・・。」


 一人の黒装束がこの事態にびっくりし、思わず声を出した。私は手を止めず、玲子先輩から預かった弓を取り出し、魔獣や、黒装束に向かって矢を打ちまくった。魔獣や黒装束達は、矢を受けつつも、何とか体制を立て直そうとしてこちらに向かってくるが、それより早く、少年少女と、青年は私の方に駆け込んできた。


「助力感謝する。」

「それより、うまく逃げないと・・・。」


 青年の顔を見ると、伊達先輩に似た顔だが、少し白髪交じりだった。青年は、少年少女を先に走らせ、私と一緒に殿役の様に逃げていく。黒装束達は、魔獣を前にだし壁役にして、魔法を放ってきた。私は、矢を打ち尽くし、弓をしまって、刀に持ち替えていた。


「火魔法、ファイヤーランス。」

「風魔法、ウインドランス。」

「水魔法、ウォーターランス。」


 三種類の魔法の槍が次々と飛んでくる中、私たちが刀で切り落としたり避けながらなんとか凌いで走っていたが、前を走っていた少女が避けきれず、足にウインドランスを掠め転んでしまった。


「きゃっ」


 転げる少女に私はイラッとしてしまった。私と一つしか違わないのに、何故彼女は守られて、私は守ってるの?やらなきゃいけない仕事でもないのに。そう思った瞬間、私はこのイラつきの吐口を探したくなってきた。私は、衝動的に目の前にいる魔物達を睨みつけた。本来、魔物達、特に使役されている魔物達は使役者以外の指示を聞かず、睨まれて動揺することはない。上級職なら一体、最上級職なら二体、自分より弱い魔物を使役できる関係上、使役した瞬間に絶対的な関係が構築できる為だ。だから、あの三人は、上級職や最上級職と推定される。まともな戦闘で私には手も足も出ない存在だ。なんとかなっているのは、隣の伊達先輩っぽい青年のおかげだ。そんなことはともかく、私が睨むと、魔物達は、動揺した。動きを止めたと言う方が正しいが動揺している様に見えたのだ。黒装束達もその想定外の魔物達の行動に一瞬動きを止めた。私はその隙をついて槍を取り出し、魔物に投げつけた。槍は魔物の額の真ん中に突き刺さり、魔物はそのまま横に倒れた。その状況に、黒装束だけでなく、青年も私を見て目を見開いた。弓矢等飛び道具以外の武器は、手から離れた瞬間に魔力が途絶え単なる武器に変わる。目の前にいるレベルの魔物は、魔力の無い武器では肌を突き通すことが出来ない。なのに、投げた槍が刺さり、一撃で倒していた。少年少女と対して変わらない歳の少女、美少女なら初級職以外あり得ない。それなのに知らない攻撃を見せて、びっくりしてしまっていた。私は、刀を構えて直していると、


「な、なんだ。」


 少年が私を見ながら呟いた。私が生き残った二頭の魔物は腹を出して逆さになっていた。あり得ない状況続きで戦闘が止まり、少女も足を抑えながら何とかたちあがった。


「やむを得ん。本来は、魔物に殺された形をとりたかったが、魔物が機能しないなら、殺すだけだ。殺れ。」


 そう真ん中の黒装束が呟くと、左右の黒装束達が私と青年にむかってそれぞれ襲ってきた。青年は、五分五分の戦いが出来たが、私は、初撃を受け止めるものの、勢いで少年少女の先の曲がり角まで突き飛ばされた。刀は飛ばされた時の衝撃で手を離れ天井に突き刺さり、壁にぶつかった衝撃で、腰に掛けていた袋から大量の魔石が転げ落ちた。少年少女は、その光景に足がすくんでしまい、ゆっくりと、私に近づいてくる黒装束を見つめるだけだった。私が何とか壁にぶつかった衝撃に耐え、何とかふらつく意識を保ちながら、武器を取り出すと、それは銃だった。銃はそのままでは使えないので、弾の代わりとなるものを探っていると、目の前まで来ていた黒装束が、刀を構え


「死ねや。」


 と、呟き振り下ろした。死んだと思った瞬間。


ドーン


 と、魔獣が黒装束に突っ込んできた。もう一体は、残っていた黒装束に突っ込んでいたが、一閃で切り倒された。突っ込んできた魔獣を、私に下ろしていた刀を斬り返し魔獣に向けて切り掛かった。魔獣は、その刀を何とか噛みつき、何とか抑えた。私は、その間に、転がっていた魔石の一つを掴み、銃の上にかざすと、魔石は銃に飲み込まれた。実験では石が拳銃の弾丸の様に飛んでいったので、背中を向けている今なら、致命傷とまでいかなくても、大きなダメージを与えられないかと思い、必死で引き金を引くと、魔石が銃口から飛び出した。その魔石はそのまま黒装束の背中の真ん中に当たると、


 ゴーン


 と轟音を上げて、黒装束の胴体が吹き飛んだ。血肉が魔物の方に飛び散り、斬り合っていた黒装束と青年が一瞬止まった。血肉を浴びて冷静さを失った魔物は、振り返り、残っていた黒装束に突っ込んでいった。私は、必死で近くに散らばっていた魔石を拾い上げ、銃に近づけると次々と魔石を取り込んでいった。顔を上げた時、黒装束と青年の斬り合いを再開し、魔物は残りの黒装束に焼き殺されていた。私は、必死で残りの黒装束に銃を撃ち続けると、黒装束は、魔法を放ち応戦してきた。黒装束は、弾丸の魔石を確実に魔法で撃ち落としていく。圧倒的な実力差の中でも、私は次々と、打っていった。私が銃を撃つスピードと、黒装束の魔法を放つ速度は拮抗していた。私は、撃ちながら、袋に残った魔石も補充し撃ち続けてるいると、少年が落ちていた魔石をポーンと黒装束に投げつけた。黒装束は。その魔石に反応し、魔法を放つと、私の放った弾丸が黒装束の左肩に命中し、左半身を吹き飛ばした。


「うぐっ」


 私が銃撃戦を終え、銃撃戦の爆発の煙が落ち着いて、ふと、青年の方を見ると、黒装束に後ろから前に槍が突き出ていた。その背後には丸い頭の影が立っていた。


「何とか助かったわい。」


 そこにいたのは、腕を一本失った坊主だった。


「ありがとうございました。私は聖護院宮信仁です。」

「聖護院宮って、義仁殿下の?」

「義仁は、私の兄です。彼女は、四条恵子さん。私の婚約者で、護衛の伊達宗道と、甲斐和尚。」

「四条恵子です。ありがとうございました。お姉様。  キラキラキラキラ」

「ありがとうございました。」

「ありがとうな。本当に助かったわい。」


 4者4様の態度であったが、恵子さんのキラキラぶりにはびっくりしてしまった。


「殿下、無作法をお許し下さい。私は、帝国魔導大学附属東京魔導学院一年の近衛咲夜です。義仁殿下とは同じ部活で。と、それより、急いで出口までお逃げ下さい。追手が来るかもしれませんので、私は、広場にいる早苗さんを助けに行ってきます。」

「そうですね。このお礼はあらためて、お言葉に甘えて行くぞ。」

「はい。」「「はっ。」」


 そう言って、義仁殿下達は出口に走って行った。この3分余りの戦闘で、3人の命を奪ってしまった。実際に人の命を奪うことがこんな簡単なことかと呆気に取られてしまった。私が、広場に戻ると、早苗さんは依然気を失っていた。ナイフの傷は致命傷になっていないものの、血がたらたら流れており、私は、魔法薬を使って、止血をし、無理やり造血剤を飲ませた。そんなこんなで手当をしていると、


「わー。」


 と大きな叫び声が聞こえ、元町少尉他10名程の兵士が入ってきた。


「近衛二等兵。」

「はっ。」


 元町少尉は、私に簡単に状況確認を行い、早苗さんを救急搬送させ、三つの指示をして、私を出口に向かわせた。

1.この事は、指示があるまで他言無用のこと。

2.報告書は、明日中に提出すること。自己の備品を消耗させた場合には、このことも記載すること。

3.明日16時に事務所に顔を出すこと。


 私は、出口に向かうと、手続きをして寮ではなく、祖父母の元に戻った。


「人を殺しちゃった。」


 と、良心の呵責で泣きじゃくる私の頭を祖母はゆっくり撫で、祖父は、無言で抱きしめてくれた。私はそのまま寝てしまった。朝起きると、この事はニュースになっておらず、祖父と祖母は、それぞれが戦場や襲撃を受けた時の経験を話して、私の良心の呵責が和らぐ様に必死になってくれた。今まで見たことの無い2人の必死さが、私には、まだ愛してくれる家族が居るんだと再認識し、少しではあるが、辛い心が和らいでいった。


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義仁「直人。」

直人「殿下、どうしましか?」

義仁「信仁が襲われた。」

直人「えっ。」

義仁「お前の心配が現実になった。」

直人「殿下や涼子様は?」

義仁「信仁や、恵子殿は助かったらしいが、涼子を含め他の4人は分からん。」

直人「えっ。」

義仁「護衛も二人を残して、帰ってきていない。」

直人「あっあぁ。信仁殿下だけでも何とか助かって良かったと言いますか。」

義仁「あぁ。」

直人「何かご協力出来ることが有れば。」

義仁「あぁ。明日引っ越しなのは知ってるが、皇室は全員皇居に招集を受けている。皇居までの護衛を頼む。」

直人「わかりました。」

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