第八話 初の軍務
「玲子部長。明日は初の軍務で、部活には出れないのですが?」
「大丈夫よ。武器はとりあえず全種類確認出来たから、このポーチ持ってきなさい。」
玲子さんが可愛いポーチを渡してくれた。
「これは?」
「魔導ポーチよ、実験した武器を全部入れといたから。」
「あっ、ありがとうございます。」
玲子さんが無造作に渡してくれたポーチは、魔導ポーチと呼ばれているもので、内部を拡張させた魔導具だ。どの階層でもたまに出で、下の階層程容量が大きくなる。実験した武器も高価なものばかりで、このポーチだけで一生遊んで過ごせる。ダンジョンの影響で、長距離通信が難しく、各国の国交が薄いこの世界では、外国に逃げれば捕まらないから、良く考えれば、逃げる選択肢もあったなぁ。と思いふけていると、
「そうだ、これを手入れしておいてくれ、私のメイン武器だ、明日は使わないから。」
「はい。」
私は、玲子さんの武器をポーチに入れて、部屋に戻った。明日の軍務の準備。軍務って何やるんだろう。午後からだから準備しとかないと。一応配られた軍服と、ポーチに入れた武器を綺麗に整備し直した。剣、刀、槍、弓だけでなく、斧、鎚、薙刀、弩、鉄球、鞭、パチンコ、トランプ、駒、銃、矢等など、よくわからない球、キューブ等もあった。トランプ投げで木を突き抜けたのはビビったけと、弓なんかは魔力で矢が出るんだけど、整備だけと矢が出ないから、テスト用の弓道用の矢を貰って射たら、矢が摩擦で燃え尽きた。銃なんてとてもレアで数える程出てないらしいが、整備だけでは何もです、弾を込めたら単なる銃と同じだった。玲子さんはレーザーガンみないな感じだったが、弓より弱いらしい。どちらにしても、身体能力の強化より、この武器を使えるのが、無能との圧倒的な差なんだなと思い知らされた日々だった。玲子さん達にはわからないんだろうなぁ。明後日には、玲子さん達が引っ越して来るから、そしたら相談に乗って貰らえるかな?と思いつつ、片付けて早めに休んだ。
「咲夜ちゃん。今日から軍務だったよぬ。軍務って何やるの?」
「詩織ちゃん。近い近い。」
詩織ちゃんは、朝からテンション高く、顔を寄せてきた。
「えーとねえ。一学期は色々回るんだけど、今日は、ダンジョン警備部で、東京大門ダンジョンの一階層警備らしいの。」
「それって、一階層で、魔調べの儀で来ている、子供達が、安全に魔物を倒せる様に警備してる軍人の人達?」
「そうらしいの。」
「そうなの。えーとねえ、太郎ちゃーんカモン。」
「しおりんなに?」
そう呼ばれてきたのは、同じクラスの西音寺太郎君。詩織ちゃんの同小らしい。ぷっくりとした顔に、小柄で丸っこい体格だが、なぜか俊敏で清潔感が高い。
「そう言えば、太郎ちゃんて、魔調べの儀、東京大門ダンジョンだったよね。」
「あぁ、あそこは、一階層は、ベビースライムしか居ないから、貴族や商人がよく利用してるよ。魔調べの儀やレベル上げ用にわざと壊さないで残してるダンジョンの中でも、都内最浅ダンジョンだからね。毎日、貴族、商人の小学生達が、護衛を連れて潜ってるよ。入口は一つだし、警備もしっかりしてるしね。」
「そうなの、それじゃ大丈夫ね。」
「何が?」
「咲夜ちゃんが、軍務で警備のお姉さんやるのよ。」
「あぁ、頑張ってね。あそこ、軍務省系の中学や高校の軍務のお姉さんやお兄さん達が、安全に実務実績を作る為に来てるからね。僕が魔調べの儀の時も、警備のお兄さんは、東京陸軍士官養成中高学校の一年生だったしね。」
「そうなの。」
ガラン
「はいはい、始めるわよ。」
先生が入ってきてホームルームが始まった。授業を終えて昼食を取り、着替えて準備をすると、バスと地下鉄を乗り継いで東京大門ダンジョンの入口にあるダンジョン事務所にたどり着いた。軍務は14時から、19時までの5時間。30分事前ミーティングがあって、30分片付けと、報告書作成となっている。事務所の関係者口から入ると、警備のおじさんが座っていた。
「すみません。」
「はい、軍属さんかな?軍属さんは、このまま、真っ直ぐあの赤いラインに沿って大会議室に行って下さい。」
「はい。ありがとうございます。」
私はペコリとオジキをして、赤い線に沿って進んでいった。すると、大会議室と書いてある扉が開いた部屋があり、入ると正面のディスプレイに座席と名前が書いてあり、私の名前は、一番右の一番後ろだった。大会議室室には200人位既におり、後100人位来る予定の様だった。私は席に着いて、席に付いている端末からデータをダウンロードし、説明資料をさっと読んだ。要するに、320人を16班に分け、一階層を4×4に分けた16分割のエリアをそれぞれ警護するらしい。私の班は、16班で2階に降りる階段があるエリア担当だった。余程の事がない限り下の階層から魔物が上がって来ることはないので、間違えてと言うか、ふざけて降りるのを防ぐのが主な仕事で、魔調べの儀に来た子供達は、念の為、このエリアへの進入は禁止にしている。資料を読み終えた頃、軍人さん達が入ってきた。
「えー。諸君起立。けーれい。」
私も含め、大会議室に来ていた子達は、立ち上がり、演台にいる軍人さんに敬礼した。みんな、小学生の頃から敬礼をしているので慣れていた。その綺麗な敬礼を敬礼で返した。
「なおれ。着席。」
そこの声でみんな着席すると、演台の軍人さんが、早い口調で話し始めた。
「諸君。私は、帝国軍第二東京防衛師団第三教導大隊東京大門中隊司令官の斎藤少佐です。」
斎藤少佐は、30代後半の黒人系のマッチョだった。彼は、座っている少年少女を見回した。そして、ゆっくりとした口調で
「諸君等の4回の教導を任されており、今日は1回目となるが、資料を読み終えているものは?」
「7名です。あと、読み始めていた者は44名です。」
「そうか、では、7名には評点5を、全く手をつけてない者は、マイナス5を。」
「はっ。」
斎藤少佐と、司会の軍人さんの会話に会場は凍りついた。
「諸君。教導での評価は、評点で行う。持ち点60点スタートで、終了時点で60点以上で合格。大学入試評価上は、60点を0点にして、上限無しです。今年の第一タームでは、夏の集中軍務期間を加えて、各セッションの平均点を単位の評点とし、60点未満があった場合は、そのタームはマイナス100点とし、平均評点が60点未満は不可となる。難易度は、教導修了時の階級によるが、二等兵だと1で一階級で1づつ上がる。評点に付いてはルールがあるから、疑問が有れば聞いてくれ。」
そう言うと、少し騒ついた。今のままでは、マイナス100点換算になり、残りのセッションで、160点挽回しないといけない者が大半だったからだ。そんなざわめきの中、前列の女の子が手を挙げた。
「そこの前列の、なんだ?」
「はい。あの、今回ルールを知らなかった中で、評点が下がるなんて、アンフェアではないでしょうか?7人の人は先輩から聞いていたかも知れないですし。」
「あぁ、まずは確認だが、学校と、氏名は?」
「陸軍士官候補生養成中学校1年、佐倉南です。」
その女の子は、はっきりと答えた。
「そうか、陸軍士官候補生養成中学か。だがな、世の中は、情報戦だ。情報が無いなら考えて最善を行うべきだろう。だから、佐倉二等兵、それは甘えだ減点は変えん。だが、基本的に、教導の内容は秘匿情報だ。もし聞いていた者が入れば、減点だな。よし、遠藤、」
「はっ。」
「一番最後に読み終えたのは?」
「窓側の一番後列の近衛二等兵です。」
え、えー。私?と私は内心ドキドキしてしまったが、冷静になるように努めた。
「よし、近衛二等兵。」
「はい。」
私は指名を受け、大きな声で返事し立ち上がった。
「学校はどこだ?」
「帝国魔導大学附属東京魔導学院です。」
「学院だ?そうか、君が学院久しぶりの無能か。」
「はい。」
少佐の嫌味の少し含んだ言葉にも、私ははっきりと真っ直ぐ答えた。
「てことは、ガリ勉だな。あの学校で、軍務につくものなど居ないしな。心がけの問題だな。座れ。」
「はっ。」
「ぐぬぬぬぬ」
佐倉さんは、私を睨みつけた。佐倉さんはえーと、隣の班らしい。セーフ。私はちょこんと座り、忘れないようにメモ帳に佐倉さんの似顔絵をサラッと描きながら、少佐さんの言葉を聞いていた。
「では、10分やるから、5セクションまで目を通せ。その後で、各班長が指示を出す。フリーエリアは15時に開けるから、それまでに、全員配備につくように。では、諸君頑張ってくれたまえ。」
「えー。諸君起立。けーれい。」
私も含め、大会議室に来ていた子達は、立ち上がり、演台にいる軍人さんに敬礼した。斎藤少佐は、敬礼で返し、演台を降りて、部屋を出ていった。
「なおれ。着席。」
その瞬間、みんなは、すぐさま、マニュアルを開き必死で読んでいた。私も、一応読み返して、理解を深めていった。その静か中でも、私をちらちら見て睨み付ける者が多かった。学院のインパクト強すぎだな・・・はぁ、今後の軍務が面倒くさくなるかなと、暗い気持ちになっている間に10分が立ち、順番に班が呼ばれた。
「次16班。」
「「「「「「はい。」」」」」
と、残った私を含め20名が声を出して、前に進んでいった。
「私は、第16班の班長、元町少尉だ。えー、先ほどの近衛二等兵、我々の班の仕事は?」
「はっ、魔調べの儀で来ている、子供達を、第16班のエリアに入れず、入った場合には、適切な場所に返すことです。」
「よろしい。近衛二等兵に5点加点。その代わり最も加点・減点の可能性が低い、第二階層への階段口の担当とする。」
「はっ。」
私の言葉に、
「えー、立花二等兵、君を近衛二等兵のペアとする。君は、二度目だ。減点になりにくいところが良かろう。」
「はい。ありがとうございます。」
「よろしい、次は・・・・。」
次々と担当を振られ担当場所に向かった。
「近衛さん。」
「はい?」
「立花早苗です。よろしくお願いします。」
「近衛咲夜です。よろしくお願いします。」
みんなと分かれて、担当場所に向かう途中、立花さんから挨拶をしてきた。
「お聞きになったかもしれませんが、私二回目なんです。品川第24中学2年です。」
「私は、帝国魔導大学附属東京魔導学院一年です。立花さんは何故二回目で。」
「一回目は同級生に嵌められて、失敗したんです。ここって、レベル上げの上級貴族や、皇室の方も潜られるじゃないですか?知らずに、同級生に言われて、その子達に、ここから先に入っちゃ行けないよと注意して、焚き付けられてと揉めちゃったんです。同級生は途中で居なくなったので、班長達がきた時には、私一人だったんです。」
「そっ、そうだったんですか。酷い同級生だったんですね。」
「そうなんですよ~。」
立花さんは止めどなく、学校の愚痴を言い始めた。面倒くさいところはあるが、色々な情報が得られるので、私は、プチプチとベビースライムを倒して魔石を拾いながら配置場所まで進んで行った。このエリアには、子供たちが来ないので、魔物を倒して、魔石を集めるように言われている。魔石は、1?程度のサイズで、腰にぶら下げた袋に次々と入れていった。私たちの担当場所に近づいてきたころ、不意にイメージにない話題になった。
「それにしても、咲夜さんて器用ね。」
「えっ?」
「えっ?って、ベビースライムをあんな一突きで倒していくなんて、魔力を得てある程度の技術や能力を磨いた子じゃないと無理だよ。しかも、普通逃げたり、襲ったりするのに大人しいなんて、意味わかんない。」
「いやいや・・・。そうそう、学院では、魔力があろうがなかろうが、戦闘のトレーニングをさせられるので、習性も勉強するし・・・」
と、とっさに嘘をついてやり過ごした。その後、時計を眺めつつ、私はエリアを巡回しベビースライムをプチプチしていき、早苗さんは、第二階層への階段口で監視していた。
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義仁「咲夜さんは今日は休みか?」
直人「殿下、咲夜さんは、今日は、軍務で、東京大門ダンジョンですよ。」
義仁「東京大門ダンジョンか、そういえば、弟も東京大門ダンジョンにレベリングにいっているな。」
直人「信仁殿下ですか。」
義仁「そうそう、信くんが、私の許嫁の涼子殿と、信くんの許嫁の四条恵子殿、後、側近候補かな?」
直人「信仁殿下に、二条涼子殿、四条恵子殿、佐竹侯爵家の義彦、織田子爵家の長道、千家男爵家の尊野ですかね?」
義仁「そうだ、槍の使い手義彦、炎の使い手長道、回復系の尊野をつけて、パーティー戦の練習込みで潜っている。各家の護衛もついているからな。初めてのパーティー戦で楽しみにしていると先週メールをもらったな。」
直人「うーん。」
義仁「どうした?何か気になることでも?」
直人「千家男爵家って、出雲大社の宮司の家系ですが、尊野の母方の野村財閥には、純日本人主義者過激派が何人かいて、殿下の側近を選ぶ際に、野村和巳を外したんですよ。皇室って、大戦後能力強化の為に、所謂日本人以外の血を入れているんじゃないですか・・・、今皇室で純日本人なんて数人ですし、大貴族の大半もそうですが。」
義仁「それは当然だろう、どうせ人間なんて、DNA的にはどこかで結びついているんだし、対魔物戦上に対して優良な血を入れ込んでいかなきゃ、生き残れなかったんだぞ。ソビエト連邦では、DNA操作して、駄目だったから、AIに分析させて、全国民の効率的な結婚も決めているらしいし、それよりは人同士が決めているからまともだろう。戸籍が完全に管理しているから所謂純日本人かどうかは、分かるし、”作って”いけるが、何の意味がある?今の臣民の中に、純日本人なんて殆どいないぞ。」
直人「私に怒鳴られても・・・。何かあると決まったわけではないですし。」
義仁「そうだな。」
直人「すみません。余分なことを言ってしまって。」
義仁「余分なことを言うのが直人の仕事だ。無事に帰ってきてくれるよな。」
直人「そうですね。」
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