第七話 神の手

 翌日から、授業が始まった。授業は午前と午後に分かれ、午前中は、基本課程を3時限。午後は、選択課程を4時限の7時限。朝から夕方まで週5日行っている。


「はーい。みんな座って~。私は数学の担当教員の志賀毅です。みなさん、PCを立ち上げて、数学を進めていって下さい。質問があったら聞いてね~。」


 座学授業は、基本的に端末で自分の速度で勉強を進める。数学や、国語、理科、社会等基礎的な科目は、小学校から同じように自分のペースで進められ、理解度チェックをクリアすると次に進める、完全システム教育で、教師は詰まった生徒を指導する。


「ねぇ、咲夜って今どこやってるの?」

「私?えーと、12ー5FFTかな?」

「12?」


 詩織さんの大きな声に、みんなが反応した。因みに、各科目には二つの数字がついており、一つ目は学年、二つ目は単元だ。小学校一年生相当が1で、12は高校3年生相当。小学校卒業が4まで、中学校卒業が6まで、高校卒業が8まで必須となっている。この学校の入試問題は、6から14までの範囲から出ている。大学では、2年間教養学部になるので、そこまで踏まえたものだ。新入生の大抵は、7前後となっている。


「私は、ダンジョンに潜る必要無いから。」

「そうだとしても。」

「それより、後ろ。」

「後ろ?」


 詩織が後ろを振り返ると、鬼の形相の先生が立っていた。


「佐藤さん。」

「ごめんなさい。」


 って怒られていた。


「近衛さんもです。」

「ごめんなさい。」


 私も怒られた。納得できないけど。


 残りの授業時間一生懸命やって、この単元のテストを完了させて、4単元前の振り返り確認テストも合格した。単元は、終了直後のテスト。4単元消化後若しくは2週間後に行う確認テスト。各対応学年を5等分して、その最終単元終了後1月後に行うまとめテストの3つに合格すると、単元終了となる。ちなみに1学年30単元で、数学は、14学年分×30単元で520単元が終了すると好きな大学課程を学習取得出来る。基本課程は、国語1時間、数学4時間、理科4科4時間、社会1時間、魔導学3時間、魔法工学2時間だ。普通学校では、魔導学、魔法工学は、学ばず、他の基礎科目に倍近い時間が当てられているが、それでも、学年相当をクリアできる少数にとどまる。だがこの学院では、最低限として求めれる、しかも、生徒達は、その他にダンジョン探索、武芸、魔法実技等でも高いレベルを求められる。それを普通にこなせるメンバーが切磋琢磨する学校だ、まわりの集中力も半端なく、次々と単元をこなしていくところがみえた。授業終了後も勉強を続けており、お昼まで教科を変えつつ続けていた。ちなみに、予習していたので、魔導学は3単元一気に進めた。


「おわーったー。」

「咲夜ちゃんごめんね。怒られちゃって。

「いや。大丈夫だよ。詩織ちゃん・・・。ところでご飯一緒に食べない?」

「いいわよ・・・。」

「私も入れて・・・。」


 私と、詩織ちゃんがご飯の話をしていると、おさげが可愛い田川佳乃さんが入ってた。3人で囲んでお弁当を食べて、午後の授業に向かった。私は、金曜日の軍務があるので、週4日でやりたい科目を履修できるように組んでいる。月曜日の4限目は、武器整備実習。武器整備実習では、ダンジョンに潜る時に必要な整備を学べるんだけど、武器そのものを学ぶ基礎になっているので、ほぼみんなが受講している。


「みなさん。こんにちは、本講義の講師を務めます、帝国軍ダンジョン攻略本部装備部技術教導課の相澤少尉です。実技なのでサポートに田丸軍曹、井草軍曹、成宮軍曹、名取軍曹、照間軍曹、佐鳴軍曹が各班に着きます。よろしくお願いします。」


 20代の軍服を着たお兄さん達が一斉に敬礼をした。絵になる。


「では、皆さんにナイフと、整備道具キット、鉄の棒、やすりが入った箱配ります。このナイフは、別名は初心者ナイフと呼ばれているもので、ダンジョンで手に入る、一番弱い武器で、2階層から4階層で手に入ります。」


 細いメガネの名取軍曹が、私に半透明の白い箱を配ってくれた。私はペコリとお辞儀をしたら、ニコッて笑って返してくれた。


「えー、みんな配られたかな?箱をを開けて、中身を確認して下さい。それぞれ通番を振っているので、番号が合っているか確認して下さい。」


 みんな、箱から道具を取り出して、一つ一つ確認していく。刃物は、包丁と、カッター、ハサミくらいしか使ったことがないので、ナイフをおっかなびっくり持っている。という振りをしていた。みんなは、ダンジョンに潜って、所謂レベル上げをしている中で、武器を使っているので、雑に扱っている者も多い。おっかなびっくり持っている私に、担当の名取軍曹が温かい目で見ていた。私は、番号245-01-05-080番を確認して、箱に戻した。


「みんな大丈夫かな?では、次にナイフの刃にヤスリをかけて貰います。キットから手袋を取り出して、キットに入っている簡単やすりでやすりをかけられるので、荒い、細かいを10回づつヤスリをかけて下さい。」


 私は、キッチンによくあるヤスリを取り出して、荒い、細かいをそれぞれ10回づつゆっくりかけた。自動的に水が出てくる仕組みで、簡単にかけられた。


「いいかな?では次に、鉄の棒を取り出して、魔力を通して、鉄の棒を切ってみて下さい。」


 えっ、と私は、魔力無いのにと思ったが、みんなが次々と、ズバン、ズバンと切っていったので、私もしょうがなく、鉄の棒を取り出して、シュッと鉄の棒にナイフを叩きつけると、ズバンと鉄の棒を切った。


「え?」


 私は、小さく声が漏れた。


「みんな切れたかな?大丈夫みたいだね。次に、手袋を着けてナイフを持ち直して、もう一度切ってみて。」


 私は、言われたとおり、手袋をつけて切ってみると、ズバンという音で、鉄の棒が切れた。周りを見ていると、カン、カン、と言う音を立てて、みんな切れていなかった。私が切れたのを見て、名取軍曹が駆け寄ってきた。


「どうしたんだい?」

「いえ。」


 名取軍曹は、私がしっかり手袋をつけているのを見て、


「切れるはずないのに。」


 と小声で呟いた。


「名取軍曹どうした?」

「少尉、実は手袋を着けているのに、鉄の棒が切れたんです。」

「何?」


 少尉は、一瞬悩んで、すぐに指示を出した。


「名取軍曹、お前が手袋をつけて切ってみろ。」

「はっ」


 名取軍曹は、ポケットからすぐに手袋を取り出し、私からナイフを受け取り、鉄の棒を斬りつけた。私は、何か私がやってしまったんじゃないかとドキドキして、今にも倒れそうだったが、ズバンと綺麗に切れたのを見て、少し安堵した。その反面、みんな、目を点にしていた。


「神の手。」


 少尉のボソッとした言葉に、みんなが少尉に注目した。神の手、聞いたことの無い言葉だ。


「神の手って何ですか?」

「うーん。神の手はな、魔力の無い者の中で、極偶にいるんだが、ダンジョンの武器を整備すると、一定の時間だけ魔力を通さなくても武器の力を引き出し、魔力を通すと本来の数割増の力を引き出すことが出来るんだ。魔導具や、防具、アイテム等色々報告されているのだが、この学院で魔力がない者など。」

「私、魔力が無いんです。」

「えっ・・・。魔力が無くて、この学院に?」

「はっ、はい。」


 少尉と、私の会話に、みんなひそひそ声で、話をしている。超恥ずかしい。


「そうか、放課後、軍務棟の装備部に来なさい。説明しよう。」

「わかりました。」

「では、授業を続けるぞ。」


 その後、何事もなく授業が終わり、次の授業に向かった、次の英語は、ヘッドセットを付けて、外国語教室でトレーニングを行った。6限目は、パーティー運用実習。これはシミュレーションルームで、VR技術を使って、ダンジョン探索を仮想体験し、パーティーのリーダーとして、ミッションをこなしていくものだ。実際のダンジョンから取ったデータを使っている為、ダンジョン探索の練習にと人気の授業で、この単位が無いと、10階層より上には潜れず、潜っても認められないルールになっている。私は潜る予定は無いが、玲子さんに、同級生が潜っているダンジョンについて少しでも知れる様にと、取る様に言われ、取っている。結構心が削られるが、それ以上に楽しく、勉強になっている。集中してやって、一階層のミッションを全てクリアしたところで授業が終わった。


 トントントン


「は~い。」

「近衛咲夜です。」

「どうぞ。」


 装備部の部屋に入るとすぐに受付があり、若い男性の兵士が2人座っていた。


「あの、相澤少尉にくる様に言われて」

「あぁ、お聞きしてます。右手の第二作業室でお待ち下さい。」

「はい。」


 右手に第一作業室から第三作業室、ミーティングルーム、倉庫等があり、第二作業室に入った。部屋の真ん中に大きな卓と、旋盤等の機械が壁際に並んでいた、椅子が無かったので、立って二分程待っていると、奥の扉が開き、相澤少尉と、大荷物を抱えた名取軍曹、もう一人中年のメガネを掛けたまさに丸って感じの小太りの男性が入ってきた。


「近衛さん来てくれて、ありがとう。」

「いえ。神の手を教えて頂きたくて。」

「えーと、こちらは」


 相澤少尉が紹介するところを食い気味に


「僕は、吉田特務中佐だ。君が、相澤君の言っていた近衛咲夜さんだね。君の資料を見せて貰ったよ。すごく優秀で、先端実験部に入ってるんだって?先端実験部って、とてつもなく優秀な子達を近衛の女王がスカウトして、近衛公から莫大な資金を引っ張って専用研究所を作ったと言われるエリート部だよね。研究所は、多分うちより良い設備なんだろうね。使わせて欲しいな~。君が部長になったら頼むよ。うちの息子も入っているしね。そうそう、僕の紹介だったよね。僕は、装備部教導担当部長をやっていて、ダンジョン兵器研究所長も兼務してるんだ。魔導工学専門学院の魔導工学科を出て、帝国中央大学に入学してダンジョン兵器研究科を出ているんだ。当時は大学の入試に貴族特別推薦枠があって入れたんだ。今の推薦枠は、皇室だけで、入試や進学試験の加点だけだからなぁ。僕の実力だと、学院受験も、大学一般受験も受からないよ。君には敬服するよ。それで、相澤君から連絡を貰って、飛んできたよ。そうそう神の手だよね。神の手って言うのは、魔力がない人の中で、ダンジョン産の武器を手入れすると、何故か一定期間魔力を持っている人が魔力を通した時と同じような効果を出す人を言うんだ。知ってると思うけど、ダンジョン産の武器は、魔力を通さないと、ただ固いだけの金属と変わらないんだけど、魔力を通すと我々が作った武器では敵わない位強力な武器になるんだ。未だに再現出来ないし、素材もよくわかってない。でも、魔力を通さなければ、研げる位の強度になるから、整備ができるんだ。それはさておき、神の手だったよね。神の手っていうのは、帝国内で、500人程いることがわかっているんだ。大抵はジョブと同じで親から引き継いでいるし、魔調べの儀を受けた後でしか見つかってないけど、過去も含めて今まで1人以外は全て、1種類。武器、防具、アイテム、魔導具のどれかなんだ。その種類も親から引き継いでいる者が殆どだけどね。はなしはそれた、その1人というのは、貴族の子息だったもので、親はダブル同士だったんだ。僕なんだけどね・・・・。ダブル神の手じゃなかったら大学入れなかったよ。あははは。」

「はー?」


 吉田特務中佐のマッハで唾を飛ばしながらの一人語りの中の急な告白に、相澤少尉が咄嗟に声を上げた。


「そうか、相澤君には言ってなかったね。僕は元々、甘露寺伯爵家の本家の人間なんだ、兄が当主を継いでいて、僕は、なんとか貴族の資格を残して、分家の中で一番よくつかわれる吉田の姓を名乗っているんだ。甘露寺伯爵家分家という地位だけどね。無能で大学卒業したの、僕以来居ない筈だから。なんでも聞いてくれ、は、名刺・・・。メッセージコードついているから、ここに送ってくれれば。一応公務として生徒指導になるから、記録が残ると困ることはやめてくれ。息子は今週末まで、ダンジョンに潜っているから、戻ってきたら部活で会えると思うから。ちなみに息子は、魔力持ちだよ。そうそう話を戻そうか、僕は、武器と魔導具の神の手を持っている。もしかしたら、ジョブの一つかもしれないとの話もあるんだが、神の手は魔力が無く、肉体の強化もされないので、いわゆるジョブチェンジまでのレベル上げは無理なんだ。神の手と、魔力の両立の難しい。神の手はよくわからない代物なんだ・・・。いくつか測定をさせてもらって、神の手か確認させてもらう。そういえば、昔はなかった軍務がかされているんだよね。えーと、君の配属は、1学期は4週毎、ダンジョン警備部、首都警邏部、港湾警備部、鉄道警備部を回って、ソ連との国境警備部に夏休みの半分派遣される予定になっているか。相当厳しい部署が多いが・・・。まぁ、勉強だと思ってもらうしかないか・・・。それで、神の手が確認できれば、君を2学期からうちで引き取れる。うちは見ての通り出世には向かないが、安全快適に送れるし、それなりには成果として評価させられるから、そのつもりでいて欲しい。そんな感じかな?あっ、そうそう、神の手の殆どは、僕のいる研究所か、近衛家のダンジョン装備整備会社に所属しているけど、卒業後うちに来て欲しいな、よろしく。そんなことで、何か聞きたいことある?」


 吉田特務中佐のマッハで唾を飛ばしながらの汗をたらたら流しながら説明を終えた。


「まぁ、いいか。わからなかったら、相澤君に聞いてくれ。2学期から研究所に来てもらえるのを待っているから。じゃあ。」


 そういって、吉田特務中佐は、さっさと帰っていった。


「近衛さん。すまないな。特務中佐はいい人なんだけど・・。」

「はぁ。大丈夫です。私は、ダンジョン警備部、首都警邏部、港湾警備部、鉄道警備部を回って、ソ連との国境警備部に行くんですね。」

「正式な発令前だから言っていいのかわからないけどね。そうだ、特務中佐から、護身用にとこれを、検査で神の手と確認出来たら渡してくれと。」

「はい。」


 相澤少尉は、2本の刀を取り出した。


「これは、ダンジョン20階層位で手に入る高価な武器だ。刀は、布で一ふきすれば、神の手だと20分、ちゃんと整備すれば1時間は効果が残る最も効率的な武器なんだ。本当は魔導具のバックが有れば、効果が残ったまま保存出来るんだけど、貴族様でも一部しか持ってない激レア魔導具だから渡せなくて申し訳ない。でも、護身用としては、最高だと思ってくれ。まぁ護身用として機能させるには、刀使えるだけの訓練を積んでないといけないから、普通は使えないと思うけど、学院で基礎は教えてくれるから、そこで学んでくれ。まぁ、特務中佐は華族だから、刀は使えて当然と思ってるんだろね。特務中佐が、華族だって初めて知ったけど。」

「ありがとうございます。」


 2本の刀を受け取ると、そのうち1本を鞘から取り出し、布で一拭きした。構えてみると怖いくらい切れそうな感覚が伝わってきた・・。


「わからないですけど。良さそうな刀ですね。練習してみます。」

「そうだね。これを契機に練習してみると良いよ。じゃぁ、検査しようか。」

「はい。」


 そうして、私は、魔力のテスト、武器、防具、アイテム、魔導具の4つのテストをし、武器の神の手と認められた。



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咲夜「玲子さん、少しいいですか?」

玲子さん「なに?咲夜さん。」

咲夜「なんか、私『神の手』らしいです。」

玲子さん「『神の手』ですか。素晴らしいですね。武器、防具、魔導具?」

咲夜「武器らしいです。玲子さん『神の手』ってご存じで?」

玲子さん「良く知ってるわよ。それなら、道場に武器を揃えとくから、実験しましょ?」

咲夜「実験?」

玲子さん「そうよ、普通の剣なら強くなるだけだろうけど、魔力で矢が出てくる弓なら?魔力で火が付く短剣なら?って違いを実験出来るじゃない。」

咲夜「そういうのって実験されてないんですか?」

玲子さん「されてるだろうけど、公表されてないの。よろしくね。」

咲夜「はい。」

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