第六話 先端実験部

「さぁここよ。」


 玲子さんは、私を近衛館の裏手にある真新しい建物の扉を開き、私を招き入れた。


「うわー。」


 感嘆の声を上げたその建物は、入るとすぐに広いホールとなっており、真新しい使い方のよくわからない機材が並んでいる。色々なボンベや、実験道具、二階の壁には書籍が並び、奥にはガラス戸で仕切られた実験室や、鋼鉄っぽい扉で仕切られた部屋、ミーティングルームや、21世紀ナイズされた学院とはかけ離れた23世紀のザ・最先端と言うべき設備が並んでいた。地下に行く階段や、よくわからない感じの扉も沢山あり、玲子さんの趣味全開でもある。私は、目をキラキラと、輝かせた。


「どう?この施設、最高でしょう。」

「はい。」

「先端実験部に入れば使い放題よ。」

「はい。」

「入る?」

「はい。」

「これで12人目だね。ミーティングルームでこの部活のこと説明するわね。」

「はい。」


 私はキョロキョロしながら、ドラマに出てくる感じの研究室?からミーティングルームに入っていった。ミーティングルームは、ドラマに出てくる様な、楕円の真ん中が空いている机に、豪華な椅子、各席にライトと、仮想ディスプレイとキーボードがあり、机の真ん中に立体プロジェクター、正面一面にプロジェクターディスプレイがあった。これだけで幾らかかってるんだろうという感じだったが、お爺様の家等ではこれプラス調度品って感じだし、小学校での経験が無ければ、世の中の普通を理解できなかっただろう。部屋には、7人座っていたので、あえて驚いた顔をしていると、後から来た、直人さんと、殿下は苦笑位をしていた。


「お待たせした。少しトラブルがあってな。」

「大丈夫です。殿下の黒服さんに聴きましたから。」


 眼鏡っ子の先輩が答えた。服は青、魔導工学科だ、7人の内、4人は魔導武士科、2人は魔導工学科、1人は魔導医学科だった。


「ちーちゃん。そうなの、殿下の黒服さん達いい仕事しますね。」

「近衛先輩、黒服さん達に伝えておきます。」

「殿下、よろしくお願いいたします。さぁ、みんな空いてる席に座って。」


 そう言われ、私は一番入口に近い席に座り、隣に直人さん、その隣に義仁殿下が座った。玲子さんはプロジェクターの前の席に優雅に座った。


「さぁ、始めましょうか。我が先端実験部の新施設、近衛研究所での1回目のミーティングよ。」


 玲子さんは、そう言うと、ゆっくりとみんなを見回した。一人ひとりの顔をみて、話をつづけた。


「まずは、みんなに新入部員を紹介するわ。今期の新入部員は4人よ。まずは、魔導医学科2年の土岐香澄さん。さぁ立って、一言」


 そう促された、魔導医学科の土岐先輩はゆっくりと照れながら立ち上がった。真っ白い肌に、水色の短髪の可愛らしい女の子という印象で、丸いメガネに、まだ子供的な体格だった。軽くお辞儀をして


「あ、あああ、わたしは・・・・。まどういがくかにねんのときかすみです・・・。おかぁ、・・・ははがいしで、わ、わたしもいしをつぎたいとおもって、まどういがくかにはいりました。よろしくお、おねがい、いいたします。」


 ぺこりとお辞儀をして、ゆっくりと着席した。手を抑えて震えている。強烈な緊張しいの様だ。


「彼女は、私が1年かけて口説き落としたのよ。文芸部を兼務しているわ。次は、義仁殿下お願いします。」

「はい、私は、魔導武士科1年聖護院宮義仁です。皇族の義務としてこの学院に入りました。直人に、この部に入らないと直人が殺されると聞いたので、入りました。剣術部等の運動部系からの誘いは色々ありましたが、目立ちたくないので文化部に入ろうと思っていました。目立ちたくないのでよろしくお願いします。」


 義仁殿下は、きれいなお辞儀をして、すっと座った。


「ありがとございます、殿下。次、直人・・・。後で思えておきなさい。」


 涙目の直人さんが、立ち上がった。


「玲子姉。殿下の言葉あくまで冗談なんで・・・・。殿下・・・・。」

「早くしなさい。」


 と玲子さんが、直人さんをにらむと、目に涙を浮かべた。


「うっ、僕は、魔導武士科1年近衛直人です。部長の弟「愚弟」です。」


 玲子さんが、キツイ言葉で言葉を重ねていく、直人さんかわいそう


「ここは、近衛寮の敷地にあって、近衛公爵の土地に、近衛公爵の私費で建てたものです。少なくとも公爵家の私が卒業するまでは、使えるので、皆さん私を姉から守ってください・・・。殺さないで・・・。」


 直人さん・・・・・。って感じの目でみんな見ている。


「流石に、弟は殺さないわよ。次、さく、やさん。」


 玲子さん、まだ言い慣れてないのですか、あなたは、と突っ込みたいところだが、ぐっとこらえて


「私は、魔導科学科1年の近衛咲夜です。私は、いわゆるヌルなので、魔法が使えません。色々ご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします。」

「ありがとう。そういえば、私の自己紹介してなかったわね。」


 玲子さんが、にかっと笑った。


「私は、当部創始者で、当部部長の近衛玲子だ。魔導武士科の6年生で、昨年の全国高等学校総合体育大会の弓道の部1位。参加しているパーティーは、この部の千賀子と翔と、剣術部長の本多正虎、副部長前田慶二、魔剣術部長の鷹司信孝。現状、魔導武士科6年のトップ6。現役学生最深部37階層まで進んでいたんだけど、今日、38階層に到達して帰って来たわ。後3階層で歴代一位、確実に歴史に残りますわ。オーホホホホ。次は千賀子よろしくね。」


 そういうと、赤い髪の釣り目の先輩が立ち上がった。見るからに気が強そうな感じだった。


「私は、魔導武士科の6年生で、玲子と同じパーティーに入って、一週間潜って2時間前に上がって来たところです。一週間潜って、疲れきっていて、信孝はさぼっているのに、連れてこられて、しかも玲子に待たされて・・・・。」


 相当、疲れて、玲子先輩に激怒してそうな雰囲気を醸し出し、(多分)翔先輩と、玲子先輩以外は、ピーンと緊張感が走っていった。


「もう、最高だわ。」

「「「「「へ?」」」」」


 (多分)翔先輩と、玲子先輩以外は、その反応に固まった・・。


「今日、施設のお披露目だと聞いて、早く上がって来たかったのに、前衛の三人が色々狩りたがって、イライラしました。玲子がトラブって、遅く来たおかげで、施設をゆっくり見られたわ。カタログにもまだ載っていなかったり、うち位の貴族じゃ手の出ないような高価な設備が大量にあるいし、誰も読めないダンジョンから出てきた本を大量に並べてくれているし・・・。近衛寮に私も移って、卒業まで・・・いや大学卒業まで堪能させてもらうわ・・・。あと5年間、大学院を入れたら10年間よろしくね・・・・。そうそう、施設で言ったら、原子電子顕微鏡一台いくらするか知ってる・・・。「千賀子?」」

「玲子・・・・。ごめんなさい。楽しくて・・・。」


 千賀子先輩は、話過ぎたのに気付いて、恐縮しだした。


「千賀子、近衛寮にはルール上移れないけど、この施設に仮眠室はあるので、使っていいわよ。事前に言ってくれれば、近衛寮から食事を持ってくるし、来週から平日に研究助手さんお父様の研究室から来て、交代のハウスメイドさんが3人程近衛公爵家から来るので、来週からにしなさい。泊まるときは、必ず外泊届を出してくるのよ。」

「はーい。」

「次、翔よろしくね。」


 千賀子先輩は座り、(多分)翔先輩が、翔先輩に確定した。金髪で、濃褐色の小柄だったが、制服の下の筋肉がわかる位、筋骨隆々だった。


「僕は、魔導武士科の6年生で、玲子と同じパーティーに入っています。パーティーでのロールは、正虎が前衛でアタッカー、慶二が前衛でアタッカー兼スカウト、信孝が前衛でタンク兼マジシャン、玲子は後衛でアーチャー兼マジシャン、千賀子は後衛でサポーター兼マジシャン、僕は後衛でヒーラー兼アタッカーです。千賀子は許嫁で、一応同じ学部に内定を貰っています。千賀子が暴走した時は、私に言ってください。よろしくお願いします。」


 スマートな感じで、着席した。 因みに、ロールは、・・・

アタッカー:近距離で物理攻撃で直接攻撃を行う役割。

スカウト:罠を見つけたり、外したり、戦闘では、遊撃を行い敵を翻弄させる役割。

タンク:攻撃を受けて、ヘイトをコントロールしながら物理攻撃する役割。

アーチャー:遠距離から物理攻撃で攻撃を行う役割。

サポーター:味方にバフをかけたり、敵にデバフをかけたりして戦闘を有利にする役割。

マジシャン:魔法で攻撃を行う役割。

ヒーラー:回復を行う役割。


「次は、佐渡君。」

「はい。」


 そう言って立ったのは、巨大な体でごっつい感じの先輩だった。決して二枚目ではないが実直で、真面目で、優しそうな感じだった。


「僕は、魔導工学部5年の佐渡太蔵です。戦闘では、マジシャン兼荷物持ちです。まぁ、荷物持ちと言っても荷物持ちロボ達の整備ですけどね。整備方法は、翔先輩から教わっているので、伝統として後輩の皆さんにも整備方法を教える予定です。よろしくお願いします。」


 ダンジョンが見つかってから色々な兵器、ロボットが開発されたが、人間が直接使う武器や、魔法以外では魔物にダメージを与えることができなかった。その為、戦闘は人力になっているが、荷物を持つのは、魔物にダメージを与える必要が無いので、戦闘で倒した戦果等や、キャンプ用具、食料、水等はロボットが運んでいる。多分、玲子さんのパーティだと何十台も連れていってるんだろう。私もダンジョンには潜らないけど、一応身につけておいた方がいいんだろうなと、ぼんやり思っていた。


「次、ケネディ。」

「はい。僕はジョーイ・フェーレムント・ケネディです。」


 見た目、生粋の日本人的な雰囲気で、黒髪、黄色人種の利発そうな小柄な少年だ。


「僕は、魔導工学科4年で、名前からお分かりの通り、アメリカ連合合衆国日本臨時政府籍です。」


 アメリカ連合合衆国日本臨時政府。ダンジョンが現れたアメリカ大陸から逃げ延びて来た人達が、日本国内に打ち立てた臨時政府。大東亜帝国が三大国と終戦協定を結んだ際に各国はアメリカ奪還の大義名分の為に、臨時政府をたて、臨時政府に協力する名目でアメリカ奪還を行うことにした。日本の臨時政府は、日本が、難民を含め、フィリピン、インドネシアまでを統合すること時に、全国民に日本名にするか、現在の名前を残して、アメリカ籍にするかをせまった。そこで、現在の名前を選んだ者達の子孫と、アメリカから逃げて来た者達が運営している。ベーシックインカムや、基本的権利は日本人と同じものを享受でき、基本的に日本人と変わらない扱いを受けるが、所謂政府の高級官僚や、国軍の佐官以上の軍人にはなれない等の制限はついており、アメリカ侵攻時には徴兵される可能性が高い。アメリカ侵攻は、数年に一度あるが、ここ100年小規模に留まっており、リスクは少ないと言われている。フィリピン自治県は、ほぼアメリカ臨時政府が治めており、帝国政府もアメリカ難民受け入れとフィリピン降伏をセットにしたことから、容認している。フィリピン自治県には、附属校はない為、普通は南京校に行し、大学には結構アメリカ籍はいるらしいが、東京校でアメリカ籍は数少ない。


「アメリカ奪還シミュレーション部にも所属してます。部の活動は、部室にサーバーを置いて、リモートでのみなので、そこにも参加してもらえたらと思います。プログラミング等が得意ですので、分からないことが有れば聞いてください。」


 ペコリと頭を下げ、席についた。行動様式も日本人的だ。


「次、伊達ちゃん。」

「はーい。」


 女の子が立った。何処かで見た顔?っていう感じだ。


「私は、魔導武士科4年の伊達アリスです。ゲーマーです。」


 ゲーマー?ゲームをやってばかりいる、人口の50%を占めるニートさん達の大半がなっているという?


「近衛咲夜さんには、弟がご迷惑をおかけしたみたいで、すみませんでした。」

「あぁ、あいつは、咲夜に告白してたけどな。」

「はー?あいつ、死なす。ごめんね。咲夜さん。あいつ殺しとくから。物理的に。」


 玲子さんの爆弾発言に、アリスさんは平謝りしていた。そう、伊達臣人先輩に似ていたんだ・・・。私が初めて告白された相手。


「咲夜、アリスの別名は、鏡の国の女王・・・・・。全国中学校ゲーマー選手権で3部門優勝している。強いぞ。」


 いやいや、ゲームで強くても。


「ゲームで強くてもと思っただろう。」


 私は、玲子さんの言葉に縦に激しく頭を振った。


「囲碁、将棋、麻雀で優勝している。」

「頭脳競技?」

「そう、頭脳競技だ・・・。しかも、大人を含めた大会でも、それぞれ上位に入賞している。」


 玲子さんの言いたいことがわからない。


「言いたいがわからないと思っただろう・・・・。それは分からないようにいっているからな。」


 おぃおぃ・・・と突っ込んで良いのかな?と心から思った。


「臣人のことをこれで忘れたか?・・・でも、ゲーマーに臣人を殺せないと思っているだろう?」


 あぁ、言われなきゃ気付かないけど、そんなことを言ったら玲子さんに何をされるかわからないので、頭を縦に振った。


「アリスは、4年で成績第1位、4年生最強の前衛の聖騎士。彼女のもう一つの別名は、デジタルの戦乙女(ヴァルキュリア)。読みの天才と言われていて、ダメージを受けず戦う戦闘スタイルだ。咲夜、魔法が使えないが、ダンジョンに入ったときに勉強になるだろう。」

「咲夜さん、本当はゲームの時間を削られるのはやだけど、弟が色々ご迷惑をかけているみたいだし、いくらでも訓練してやるわ。よろしくね。」


 そういって、アリス先輩はすわった。


「じゃ、次、隆二。」

「はい、俺は、魔導武士科3年の柳生隆二。根っからの平民だ。」


 身長190cmはある、ごっつい筋肉質のムキムキさんだ。焼いているのか、地なのかはわからないが、真っ黒に焼けた感じで、髪は縮れ毛だった。


「隆二はこう見えても、後衛の魔法使いで、がり勉君だ。素手で虫も殺せないタイプだ・・・。」

「部長・・・・そんなことを言われると、恥ずかしい・・・・。」

「こんなやつだ。」


 そういって、さくっと座った。


「でだ、この部活の活動内容とルールだが。基本的に、この研究所での研究については、自由だが、装置に鍵がかかっているものを使うときには、研究計画を提出し、顧問の了解を得たうえで、研究助手さんに使い方を教わったうえでやること。人体への影響を観察する実験を行うときには、事前に研究計画を出し、了解をとること。」

「人体実験?」


 私は、ボソッと声を出してしまった。それを聞くとみんな大きな声で笑いだし、私は恥ずかしくなった。


「咲夜・・・。人体実験か、うちの部が人体実験部と呼ばれるのは、人体への影響を観察する実験を行ったからなんだが、・・・・。」

「やっぱり人体実験部なんですか?」

「いや、人体への影響というのは、人体からの影響という方が正しいかもしれないが、例えば魔導具を使うのに、魔力の差で影響があるか?ダンジョンからのポーションの効果が人によってどう違うか等を実験しててな、大規模で何度かやったから、それを見て人体実験部って呼ばれるようになったんだ。咲夜、お前は、当学院唯一の魔力無しだ。沢山実験してもらうぞ・・・。」

「えっ・・・やー。」


 私は、玲子さんの鬼気迫る顔に、大きな悲鳴をあげた。その後、玲子さんに驚かせたのを謝られ、色々な実験を見せてもらい、器具の使い方を教えて貰った。


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勇さん「玲子様、少しいいですか?」

玲子さん「なに?勇さん。」

勇さん「バカ殿案件ですが、とりあえず、鷹司さんと、私の部長クビと退部、私のパーティー離脱で片付けて来ました。鷹司さんと話しましたが、呆れて、バカ殿の皇家に対するサポートを完全に外すそうです。」

玲子さん「そうですか。で、他の五摂家、一条、二条、九条家は?」

勇さん「はい。一条は、分家の和馬君が来てましたが、暴発しない様に監視を本家から言い渡されたそうです。二条は、そもそも引いていたので、変化なしです。九条は、バカ殿の母殿が九条の方なので、一応フォローに分家の誠也君がついているけど、バカ殿とは距離を取りつつある感じです。」

玲子さん「うーん。わかりましたわ。で、あなたの処分ですが。」

勇さん「はっはい。」

玲子さん「近衛武術部を作り、部長になりなさい。」

勇さん「はい?」

玲子さん「部員は、私含め、うちの兄弟、勇さん、それと咲夜ちゃんで、顧問は、お父様で。顧問も部員5人も用意したし、学院とは話がついているから。よろしくね。」

勇さん「はっ。」

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