第四話 部活説明会

「お嬢様、いい汗かかれましたか?」

「はい、七瀬さん。」


 私は、日課を済まし、朝食を食べると足早に教室に向かった。教室には既に何人か通学していたが、当然にして、よそよそしさが蔓延していた。


「おはようございます。」


 大きな声で挨拶をすると、それにつられてみんなが挨拶を返してくれた。私が席に着くと、前の席の子が振り向いた。茶髪で少し筋肉質の女の子だ。


「咲夜さん。」

「えーと、佐藤詩織さん。」

「そうよ。よろしくね。」

「よろしくお願いいたします。」


 丁寧に会釈をするのを待たずに、


「そうそう、私見ちゃったのよね。」

「えっ、な、なにを。」

「私、剣術部に入ろうと思っていたから、金曜日にオリエンテーション終了後速攻で、道場に行ってたの。そうしたら、咲夜さん凄かったじゃない。」

「ええっ、あれ・・・。手を伸ばしたら運よく。」


 詩織さんは、私の焦った言い訳を無視して


「あんなの、私でも出来ないわよ。一応私も無天流の目録を貰っているから、分かるわよ。」

「いや・・・」


 無天流、剣術、弓術、槍術、柔術等総合格闘技として、帝国三大流派の一つ。後は、北辰流、一刀流の2つで、切紙、目録、印可、免許、皆伝、秘伝、口伝の階級となっている。道場を開くには免許が必要で、切紙で基本、目録で基礎を抑え、印可でいわゆる一人前、皆伝以上は一流と言われる人だ。この年齢で切紙を持っていても自慢できるレベルで、目録を持っているのは、同世代ではトップクラスと言えるだろう。階級は、身体能力でなく、技術に与えられる為、相当の努力と、才能がうかがえる。


「咲夜さん・・・。いいわ、でも、剣術部入るでしょう?」

「いえ、入りません。」

「そうよね。一緒に・・・って、なんであんな身のこなしなのに・・・。」

「入る気ないですし。剣術部の方に誘われましたが、お断りました。」

「さ、誘われた???」

「えっ・・・。」


 詩織さんは、固まっていた。


「詩織、大丈夫?」


 横から、ポニーテールの浅黒い、金髪のがっつり体育会って感じの男の子が入ってきた。


「えっと。加藤心くん?」

「そうだよ、俺、加藤心。詩織とはおな小だったんだ。一応、詩織と同じ道場で、俺も目録。」

「それで、詩織さんは、なぜ固まって。」

「それはだな・・・。剣術部ってわかっているか?」

「剣術をみんなで修行する部活?」

「そうだが・・・。」

「心・・・私が説明するわ。」


 詩織さん復活。


「剣術部は、大人気の部活なの、最低ラインが目録レベル。試験があって、1学年20人程度しか入れないわ。毎年400人以上が受けてね。そんな大人気の部活で、120人位の部員は、学院でもトップエリートばかりよ。そんな部員からの推薦があれば、試験不要なの。」

「そんな部活なの・・・。私無理だわ~。」

「無理だわじゃないわよ。誰から推薦を貰ったの。」

「いや・・・。それは言えないと言うか。」

「誰なのよ・・。」

「教えてくれよ・・・・。」


 二人は、私に迫ってくる。その頃には大体の生徒が教室に入ってきていて、私と詩織さん達との会話に耳ダンボになっている。


「えーっと」


 私が、オロオロしていると。


「はーい。今日もおはよう。みんな席についてね。」

 と、先生が入ってきて、朝礼を始めて、何とか難を逃れた。


「今日も、よろしくね。今日の予定は、各施設の説明と、施設利用ルールの説明と、部活説明です。廊下に並んで、順番に施設の説明を始めていくから。最終的に講堂に行って、各部活より、部活説明をしてもらいます。」


 そういって、私たちは静かに廊下に並び、2時間かけて、学校内を先生が案内した。3時間目の授業開始時間になるころ、講堂に行くと、1年生の生徒が、半分程度座席について座っていた。まだ、緊張感がギンギンに蔓延しており、だべっている生徒は殆どいなかった。私たちの後ろからも生徒が来ているので、先生の誘導で席に着いた。席はA-1を最前列として、魔導科学科は後ろの方に席があった。5分ほど待っていると、全ての1年生が座席につくと、講堂が暗くなり、舞台の上にスポットライトが当てられた。


「「1年生のみなさん。ご入学おめでとうございます。」」


 スポットライトを当てられた2人の白い制服の司会の生徒が、マイクを持って、部活紹介を始めていった。


「私は、3年A-2所属、放送部の神崎きららです。よろしくお願いいたします。」


 と、青い髪で、小さくまわりをキラキラと輝かせた正に美少女という先輩が頭をさげると、


「ちなみに、きららは、雲に、母。要はうんもと書いてきららと読ませます。ちなみにちなみに、まわりで輝いている様に見えるのは、魔法で微細な氷を体の周りに漂わせて、乱反射させているからです。ちなみにちなみにちなみに、うんも・・・・。もとい、きららのあだ名はちっちゃい氷結女王で、元々A-1だったんだけど、このきらきらを身に着けるために勉強がおろそかになって、A-2に落ちたかわいそうな子なんです。」


 そういうのは、すらっとした、体育系少女。浅黒く、茶髪で、端正な顔と、少しきついキツネ目をしている。


「この、キツネ目。」


 そう言って、きらら先輩が、体育系少女に殴りつけるが、少女はスルスルと避けている。器用にも避けながら自己紹介を始めていた。


「私は、3年A-1所属、放送部の御手洗星羅です。私は、拳術部。こぶしの武術の部活ね。そこに入っています。よっと」


 と言って、思いっきり殴りかかった、きらら先輩の足をひっかけ、きらら先輩は、豪快に転び舞台から落ちていった。


「ってことで、中学部つまり3年生までの生徒が、今回部活紹介をさせてもらいます。まずは、文学部から・・・。いくぞきらら」


 そう言いながら、きらら先輩の首根っこを持って、舞台の袖に消えていった。文学部、工芸部、コンピューター部、地学部、物理部、化学部、生物部、お笑い研究部、放送部、漫画研究部、アニメ研究部、吹奏楽部、軽音楽部等普通の中学・高校にもある部活が順番に説明をしていった。そのほとんどが、魔導科学科、魔導医学科、魔導工学科の生徒で、魔導師科、魔導武士科の生徒は少なかった。


 次に、袴を着て木刀を持つ美男美女という感じの生徒たちが入ってきた。


「剣術部です。演武をご覧ください。」


 そういうと、美男美女が、木刀を持ち鋭い剣を打ち合った。それは、真剣勝負の様に見えたが、優雅で、相手の呼吸に合わせて打ち合う、見せる剣だった。単なる演武でなく、即席の演武。並大抵の剣士では出来ない、見た目とはかけ離れた努力と、才能が必要な技だった。もともと、戦いというものに積極的に興味を持つ生徒が多い学院だけに、息をのみその演武に魅せられていた。


「やめ。」


 その言葉に、二人は、剣を止め、正面を見て礼をした。その瞬間、今までの部活紹介が何だったかと思われる程の拍手で講堂内が沸き返った。


「ありがとございます。我ら剣術部は、武道場で毎日稽古をしております。部活見学、体験にどうぞいらしてください。武道場の関係で、入部希望者が多い場合には、セレクションを行うことがあります。その際には、入部をご遠慮頂くことがありますので、ご了承ください。」


 そういって、三人は、頭を下げ、舞台の袖に出ていった。次に出てきたのは、ぶっとりとした、生徒と、その後ろに、ごっつい体の生徒と、ヒョロヒョロとした生徒だった。


「余は、岩倉宮智仁だ。魔剣術部の副部長をやってる。部長は面倒くさいから、他の奴に任せているが、皆の者、余の魔剣術部に来るがいい。」


 そういって、デブ殿下・・・は、ヒョヒョヒョヒョという品の無い笑い声を上げた。


「そうそう、えー、近衛咲夜・・・。いるか?立て。」


 えっ・・・・。私?急に指名された私は、「はひっ」という変な声を上げた。


「お前は、魔力が無いな・・・。下賤な平民で魔力も持たない無能がこの学院に入り、同じ空気を吸っていると思うと吐き気がする。お前は入りたいと言っても、魔剣術部に入れてやらんからな。良いな・・・。」


 と、私にすごんだ声を上げた・・・。


「はい。私魔力無いので、魔剣術部は、そもそも入る気はないです。」


 はっきり答えると・・・。殿下はにらみつけた。


「あぁ?そもそも入る気はないだと・・・。入りたいのに入れてあげないというのに、負けず嫌いで、品がない・・・。」


 そういいながら、震えて、刀をすっと抜いた。


「そういえば、演武もしないとな。くたばれ平民が。」


 そういって、刀を私の方に向けて、すっと下した。その瞬間、刀の先から稲妻が放たれ、私の顔に向かってきた。周りはその無茶苦茶な行動を止めることができず、フリーズしてしまっている。私は、とっさに頭を下げ


「申し訳ございません殿下。私の言葉でご不興を買ってしまい。」


 と、謝る間に、元々頭のあったところに電撃が通り抜け、壁にぶつかり、グワーンという大きな音が講堂内に響いた。私が頭を上げると


「はなせ。はなすんだ・・・・・。」


 殿下は、警備の職員に羽交い締めにされて、舞台から引きずりだされていった。私は、何があったの??という不思議そうな顔をわざとして、着席した。入れ替わりに、高身長のマッチョな、浅黒二枚目が出てきた。彼は、すぐに大きく頭を下げた。


「魔剣術部中学部長の近衛勇です。みなさんご迷惑をおかけし申し訳ございません。特に近衛咲夜さんには、この奇跡的なタイミングが無ければ、大怪我を負わせてしまうところでした。改めて魔剣術部として謝罪の機会を頂ければと思います。」


 再度頭を下げて、そそくさと舞台から降りていった。私は、何が起きたのと、全く気が付かない振りをしながら、残りの部活紹介を聞いていった。部活紹介の後、その場で今日の授業は解散になったが、私は、念のためと保健室に強制連行されていった。


「はーい。ちょっと確認させてね。私は、保険医の魔導医師、帝国軍本部付魔導中央病院より派遣されている六文院愛中尉です。よろしくね。右目からね、この指を見て。」


 そういって、保険医の先生に一通り確認され。


「うーん。全く問題ないわね。帰っていいわよ。」


 トントン。


「はーい。」


 診察が終わったタイミングで、保健室の扉が叩かれた。


「3年A-2所属、近衛勇です。」

「勇君ね、入っていいわよ。」

「ありがとうございます。」


 先生が、そう言うと、扉を開けて、勇さんと、もう2人老齢の先生と、がっちりとした体の四角顔の男性が入ってきた。三人は私の前に来ると、さっと頭を下げた。


「あのバカ殿下が大変ご迷惑をおかけした。あんなのでも、皇族だ、すまないが水に流してくれないか。」


 老齢の先生は、本当にすまない顔をしていた。


「あの・・・私は、何もされてないので・・・。」

「何もって、あんな奇跡的なタイミングで、殿下に頭を下げたので、何とか助かったが、奇跡的なタイミングで、」


 私の返答に、かすかに肩を震わせながら勇さんは、私に熱弁ぽく語り掛けた。ふざけているんだろう、と私の中で突っ込みつつも、


「あの・・・。えー、勇先輩。このお二人は・・・。」

「あぁ、顧問の近衛武蔵先生と、全体部長の西郷隆仁先輩だ。」

「近衛・・・先生?」

「そうだ。あと、西郷先輩だ。」


 振られた西郷先輩も、深々と頭を下げた


「あぁ、咲夜さん、うちの馬鹿が大変ご迷惑をお掛た。私のできることで謝罪させてほしい。」

「わかりました。私は、元々何も怒っていませんし。謝罪頂けるのであればそれで無かったことにしましょう。」

「ありがたい。」


 西郷先輩は、もう一度頭を深々と下げた。私は、居づらさマックスだったので、


「そろそろ帰ってよろしいでしょうか?」


 と言ってしまった。


「当然じゃ。申し訳なかった。」


 頭を下げ続ける先生は、


「先生、もう大丈夫です。」


 と、無理やり体を戻し、帰ることにした。


「少しお待ちください。咲夜さんは、た・し・か、近衛寮でしたよね、何があるとは思っていませんが、念のため、近衛寮まで護衛させてください。私も近衛の分家の人間なので、近衛寮まで護衛できますので。」

「わ、わかりました。」


 そういって、勇さんがついてきた。


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バカデブ「なんで、俺様が、怒られないといけないんだ。」

バカマッチョ「そうですよね。あんな、平民の一人二人どうなろうと関係ないんですけどね。」

バカデブ「だよなー。」

細バカ「殿下、とりあえず、部活紹介なのに、あの真面目部長が怒られてないんですかね。」

バカデブ「そうだよな。むかつくよな、お前らに押さえつけさせといて、俺様の魅力で新入生をたっぷり集めてあげようとしていたのになぁ。」

ちびバカ「あいつ、辞めさせちゃえば良いんじゃないんですか。」

バカデブ「そうだな・・・。今回の責任を取らせてやめさせよう。うざったかったし。で、あの女、どうしてやろう。」

バカイケメン「殿下、あの女、近衛寮っていう、森の奥の寮に住んでいるらしいですぜ。」

バカデブ「そうか・・・・。とりあえず、絞めてこい。俺様に恥をかかせた罪を償わせろ。」

バカども「「「「はっ。」」」」

バカデブ「ぎゃはははは。結果が楽しみだ。ぎゃはははは。」

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