第7話 五才の誕生日だよ

「リリアちゃん、お誕生日おめでとうー!!」

「「「おめでとう!!!」」」


 三月七日。今日は僕の五才の誕生日である。

 いつも食事を取る部屋はクリスマスツリーやらミラーボールやらお雛様やらが飾られており大変カオスなお祭り騒ぎ。


 僕の大好きなイチゴ味のホールケーキがデンと食卓の中央に君臨し、その周囲をチキン、ローストビーフ、ピザ、寿司、焼肉、お新香が埋め尽くす。まさに僕の好物のオンパレードであった。  

 メルトが淹れてくれたアールグレイを一口味わってからお礼を述べる。


「アイシャママもツバキママもヘイルもメルトもありがとう! 僕がこの世に爆誕してもう五年かぁ。長いようで早かったね」

「リリアお嬢様、あんまり自分が産まれた事を爆誕って言いませんよ普通」


 胎児カプセルという名の楽園を追放されてから色々あった。

 当初はどうにかしてあの楽園に戻れないかと試行錯誤したものだが、今となってはこの世界も悪くないんじゃないかと思えてる。


 ママ達もヘイルもメルトもいるし、美味しいお菓子だって沢山あるからね。

 あとは不老不死にさえなれれば言う事なし。まぁその辺はぼちぼちやっていこう。


「リリアちゃんには私達から誕生日プレゼントがありまーす。じゃーん!」

「え、なになに!? 開けても良いアイシャママ?」

「良いわよー。素材の提供は私、デザインはツバキちゃん、作製はヘイルちゃんだから気に入ってくれると嬉しいわー!」


 手渡されたのはプレゼント用の包装紙に包まれた長い棒のような形状の物体。かなり大きい。僕の身長より大きくて大体一メートルくらいだ。触った感触としては硬めでボコボコしてる。


 期待に胸を膨らませてその包みを開けると、中から出て来たのは杖だった。

 無論おばあちゃんが歩行補助に使う杖ではなく魔法使いが魔法の補助に使うタイプのモノ。サイズから考えて大人用のガチな奴だ。


「いやぁここ半年くらいずっとデザインに悩んでてなぁ。結局あたしの実家のを丸パクリ――じゃなくて参考にさせてもらったぜ」

「持てる技術全てをつぎ込んで全力で作らせていただきました。自慢ではありませんが皇国広しといえどこのクラスの杖は五本と存在しないでしょう」


 杖の素材がなんなのかは分からない。でもこれまでに見た覚えのない木目と色をしている事からかなり希少な素材が使われているのは明白。杖を握る部分は敢えて太めに作られており、手にしっかりとフィットする。先の部分には杖の素材の木なのか。迸る生命力を感じさせる雄大な巨木と翼を広げる鳳凰、そして満月の意匠が施されておりツバキママがデザインに悩んだというのも納得の仕上がりだ。


「ありがとう皆! それにしてもヘイルって杖作りも出来るんだね」

「アイシャ様の侍女としてその程度当然……と言いたい所ですが、実はわたくし共の家系は元々杖職人でしていわゆる専門家なのです」

「へぇーそうなんだ! じゃあメルトも杖作りの修行をしてたり?」


 娘も母も侍女として超有能だからてっきり昔からその道一本で生きて来た家系だと思っていたがそういう訳でもないらしい。

 確かにこの杖は手に持つだけでその強力な力が伝わって来る。

 なんというか、杖が身体と一体になって杖にまで体内魔力が循環しているというイメージだろうか。これならこれまで以上に楽に、効率よく魔法が使えそう。


「はい、わたくしも既に二年程勉強しておりまして、リリアお嬢様の杖も少しだけ手伝わせていただきました」

「全然知らなかったよ。やっぱりメルトは凄いね。ありがとう」

「いえいえ、リリアお嬢様の為でしたら火の中水の中、パンティの中。わたくしはお嬢様の侍女でございますから」


 火の中や水の中に飛び込む侍女なんて聞いた事ないけど、メルトの中で侍女ってどんな超人なんだろう。

 そしてパンティの中ってなんだパンティの中って。物理的に不可能な事を口にするんじゃない。


「ふふふー! 杖の名前はリリアちゃんが付けて良いわよー! 可愛い名前を付けてあげて」

「ちなみにあたしは自分の愛刀の名前を【華轍かてつ】と名付けてるぜ」

「わたくしの杖は【叡者えいしゃの杖】という名称です。当然アイシャ様のお名前から頂きました」


 名付けか。それなら僕の得意分野である。

 僕は杖を下から上から覗き見て、この子に相応しい名前を思い付いた。


「【闇よダーカり深き黒ーアンドダーカー】はどうかな? この杖見た事ないくらい黒いし」


 この国では珍しい僕やアイシャママの黒髪よりもより濃い黒。いや実際は当然僕達の髪の方が杖よりも断然黒いわけだがこういうのは響きを優先だ。くぅ、カッコよすぎて自分の才能が恐ろしい。

 しかし我が侍女メルトはこの名前が気に入らないみたい。


「リリアお嬢様、その名前だと将来後悔するかと。もうちょっと大人しくて可愛い名前を付けてあげましょう」

「えー? もう僕この名前以外考えられないんだけど。ねぇ【闇よダーカり深き黒ーアンドダーカー】?」

「杖に語り掛けるのはおやめください。将来学院や国にお嬢様の杖の申請を出すのはわたくしなのですよ? そんな中二……じゃなくて、個性的な名前ではウェザーズ家が侮られます」


 そうかなぁ。むしろカッコいい杖の名前に惹かれて続々と支持者が集まってきそうだけど。

 メルトの反応に不思議がる僕の気持ちに同調してくれるのはツバキママ。


「そんなダメかねえ。あたしは【闇よダーカり深き黒ーアンドダーカー】って名前、カッコよくて好きなんだが」

「ふふふー! リリアちゃんのネーミングセンスはツバキちゃん譲りなのねー! 困ったわー」

「メルト。あるじがそう決めたのなら侍女はそこに付いて行くだけですよ? 忠誠の前にはトラウマモノの恥ですら塵芥と同じです」

「塵芥……」


 だがアイシャママ、ヘイルからすればこの名前は無しだったみたい。

 ツバキママと一緒になんだか可哀想なものを見るような視線を向けられているのが分かる。


 ……せない。

 てかこんなイケてる名前の杖を所持申請するだけでトラウマになるって豆腐メンタルかな?


 仕方が無いので、優しくて良い子である僕は自らの侍女にいらぬトラウマを背負わせぬよう折衷案を口にする。


「じゃあ【闇よダーカり深き黒ーアンドダーカー】を縮めて【ダーカ】でいいよ。これなら文句ないでしょ?」


 アイシャママ、ヘイル、メルトは微妙そうな顔で首肯。ツバキママはちょっと残念そうにしていた。


 うんうん、気持ちは分かるよツバキママ。 


 そしてなんとも言えぬ表情のメルトが一言ボソッと呟く。


「これから先一生、【ダーカ】という名前を聞くと本来の名を思い出してしまいますね……」


 それくらいは別に良くない!?

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