第6話 ワタシのために争うとは何事か
太陽は最高点を通過するといったところだろうか。
クロビアの部屋に差し込む光もこの非日常に慣れてしまった。
早朝に訪問してきた4人はまだ自宅だと思っているのか、クロビアの部屋で雑談に花を咲かせている。
一方で、この事態を招いた元凶とも言える人物、ランスロットは昼になってもクロビアの部屋を訪れない。
それもそのはず彼は現在ワルワーラ・ユージニア、クロビアの父の自室で向かい合って座っていた。
「ご無沙汰しております、ユージニア卿。先日はありがとうございました」
「いやいや、むしろ私がキミに礼を言いたいくらいだ。まさかウチの娘にあそこまで尽力してくれるとは......」
ユージニアの部屋で紅茶を入れていた、使用人であるフリッツは終始和やかな時間がゆらりと流れていくのを感じていた。
紅茶を自由に仰ぎ、ゆったりとしたランスロットの空気。
あたかもこの2人が旧知の仲で、今日この日に再会を約束しており、それが何事もなく叶ったような。
「それで......クロビアはキミのことを覚えていたのかい?」
「いえ。残念ながら、反応を見る限り初対面の対応をしていましたね。まぁしょうがないですよ。彼女の隣には、良い男が多くいますからね」
「それは残念だ。命の恩師であるキミの事を忘却の彼方へ送ってしまうなんて。私は片時も忘れたことは無いぞ、キミのおかげでクロビアはいい変化をしたのだからな」
「そう言っていただけると嬉しいです」
フリッツに噂をベラベラと話すクセがなくて良かったと彼らは安堵すべきである。
使用人とはいえフリッツも人間として健全な心の持ち主だ。
もし彼が噂話をココロの内に秘めておく人間でなければ、2人の作戦は早々に変更をせざるを得ないだろう。
フリッツは静かに部屋を後にする。
ベッドの上に座って私は雑談を聞いていた。
「だからぁ!おれはこう見えても十六なの!てゆうかクロビアは幾つなんだよ?おれより年下だったら許さねえからな?」
アーサーがガレスを揶揄っていると、彼は私の年齢を気にし出した。
ムッとした顔で左斜め上にある私の顔を見つめて何か抗議をしたいようだ。
「ガレスはやっぱりガキなんだよな。レディに年齢を聞いちゃダメってママから習わなかった?」
「そうだ。俺たち漢とは感覚が違うんだ。あんまりズケズケと踏み入るようじゃあ、クロビアさんが怒っちまうぜ?」
「それとこれとは別だ!おれはただ、コイツがおれより上かどうかだけ知りたいんだ!」
「......見たら分かるだろ......」
「パーシヴァルは黙ってろ!」
キッと物凄い速度で首を捻り、壁に寄っかかり腕を組んでいるパーシヴァルをビームを打つみたいに狙い撃つ。
「別に私は怒ったりしないけど......ガレスくん気になるの?」
私の一言によって、ずいっと4人の視線はガレスに終着した。
その視線で脚光を浴びている本人は恥ずかしいのかそっぽを向いてごにょごにょと何か言い始める。
「別に何でも良いけど......言いてぇなら、言えばいいじゃねぇか......」
あっ、嘘ついた。
「......ガレスくん知りたいんだ。私の年齢」
「バッ......」
ガレスは心を読まれた驚きなのか、なにかを咄嗟に言いかけて引っ込めた。
しかしその代わりにといった様子で、顔を真っ赤にしてプルプルと震えはじめ、全ての感情を面に出しながらフリーズしている。
「ガレスー?バレバレだよー?知りたいんでしょ?クロビアちゃんの歳。ちゃあんと自分で聞かなきゃ教えてもらえないぞー?」
アーサーは容赦なくガレスを煽る。
当然その行動は火に油を注ぐ行為に該当するし、なんならもう既に注がれているものをひっくり返したみたいになっている。
別に年齢を尋ねられたくらいで怒ったりしないのに、むしろどうでもいい方だろう。
「を......えて......さい」
「ガレスくんどうしたの?」
私は彼がボソッと何か言った気がして、覗き込むように上体を屈める。
さっきよりもガレスの言葉は鮮明に聞こえ、彼の本心から出てくる声を寸分の違いも無く正しく脳内で収集する。
「年齢を......教えて下さい......」
私もどうしてだろうか。
なぜか彼をいじめてやりたくて、ちょっと魔が刺した。
彼の耳元まで唇を近づけ、2人だけの秘密を共有するみたいに、彼の耳元で優しく呟いてしまったのだ。
「十九歳だよ......皆んなにはナイショね」
「ひゃ、ひゃい!」
プシューとガレスがショートしてしまったので、私は少々焦ったけど、周囲はそうでもないように振る舞っている。
「ガレス固まっちゃってるー!アハハ!やっぱりウブなんだよなーコイツ」
アーサーは完全に道化を観覧している子供の顔だ。
ただ純粋に滑稽な人間を笑って楽しむという、ある一定の年齢を過ぎたら通用することのない楽しみ方をしている。
「はぁ......」
パーシヴァルはさっきまで、我関せずとクールに振る舞いなんの感情も出さなかったが、初めて反応を示した。
壁に寄りかかりながらも呆れた様子でガレスを眺めている。
「そんなに防御力が無いなら鍛えてはどうだろうか?ガレスとの筋トレも悪くはなさそうだが」
今度こそ文字通り三者三様の反応を全員が示す。
コンコン
延々とこんな意味のない話をしていると、ドアからノック音がした。
「失礼します」と言って入って来たのは、本日2回目のグール。
彼は何かあれば必ず私の所に報告してくる。
裏を返せば、今回もなんらかの理由があって私の部屋をノックしたと言うことになるので、何かあったのだろうなと思う。
「クロビア様、もう1人男性がお見えです」
要件は男の追加投入だそうで、まぁだいたい誰かは大方予想できますが。
グールはまた一歩ずれて後ろの人物を部屋に置いていく。
「ヤッホー」
彼の退散速度というか、私の面倒な質問から逃げる速度は本当に早く、もうすでにどこかへ行ってしまった。
部屋に入ってきたのは先刻私に手紙を寄越し、この状況を招いた張本人である罪深い男が今度は正面から入ってきた。
ランスロットは相変わらずの悪意を滲ませながら、フリフリと手を振って登場してくる。
「あっ!ランスロットさん!」
ついさっきまでフリーズしていたガレスが立ち上がり、トテトテとランスロットに駆けて行く。
部屋の中はさほど広くないのに、ガレスは何故か彼に近づき抱きついた。
「おおガレスー。久しぶりだねー」
「えへへー。お久しぶりですー。お元気でしたか?」
デレデレとガレスのほっぺが緩んでゆく。
ランスロットも彼のことを気にかけているのか、少し屈んでガレスの頭をサワサワと撫でている。
ああ、いい光景ですね、ほのぼのとしたいい景色が広がっています。
「あれー?暴君さんが来るには早くないですかー?」
逆にアーサーは不機嫌そうだ。
ドカッとソファーに足を組んで座り、さっきまでのホワホワとした人相ではなく、ツーンとしたネコのような雰囲気を醸し出している。
「オマエらも手紙を渡したって、オレが言いに行く前に来てんだろうが。どっちも変わんねえってことだろうよ」
「ランスの手紙が届くの待ってたら先越されんだよ。だからオレたちは早めに準備してたわけ」
アーサーもランスロットも裏をかきあっていたわけですが、終始片方に責任を押し付け合っている。
似たもの同士と頭の中でラベルを貼って保管する。
「もういいからちょっと席外してくんね?今からクロビアと話したい事があんだよ」
「やだ!クロビアちゃんはオレといる方が良いって言ってた!」
「しょうもねぇ嘘つくなよ......いいから退いてくれって」
「嘘じゃないもん。ねえ?クロビアちゃんもあんな奴よりオレと一緒がいいだろ?」
「私は......その......」
「そりゃあ聞き捨てならねぇな。クロビア、あんなちゃらんぽらんよりもオレだよな?」
「......ええっと」
全員の視線が私に集中する。
まるでさっきまでのガレスくんみたいな状況になり、少しばかり揶揄いすぎたと罪悪感を覚える。
2人が私に近づいて来る。
ずいっと視線を合わせられ、私は少し後退してしまうのだが、その間さえ2人によってすぐに埋まってしまう。
「なぁクロビアちゃん、オレだよな?」
アーサーは蒼い瞳で見つめてくる。
「オレだろ?クロビア」
ランスロットは紅の瞳で語りかける。
「「オレだよな?」」
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