第4話 逆ハーレムってこと!?

ランスロットは煙のように消えてしまい、窓からは夕陽が差し込んでいた。


私の体は何故か紅茶を入れ直し、もう一度ソファーに座った。

私はランスロットが置き忘れたであろう手紙を開く。


ーー今後についてーー


ボクがこの手紙をキミに差し出したのは、ボクの心の中を見透かされない為だ。稚拙な文章であるが、最後まで読んでくれ。

ボクは先刻、キミに偽りの婚姻関係を結ぶように話したはずだ。

そしてキミがこの文章を読み、内容を思考しているということは、ボクの口車に乗せられて婚姻を結んだことを意味する。


さて本題なのだが、キミがボクと話している時の違和感について説明したい。

おそらくキミは僕との会話において、何度も嘘を吐かれたことを認識し、少なくとも1回はそれに言及しただろう。


......どうやら図星のようだね。


ボクはキミにある事実を隠してキミと会話した。

その事実をまず話そうか。その事実とは、


『別にボクだけと婚姻を結ぶなんて言ってないよね?』


ってことなんだ。

まぁ詳細は、紅茶でも飲みながらゆっくり読んでくれ


ーー中略ーー


私の喉はカラカラと鳴き出し、水分を欲していた。

まだほんのりと暖かい紅茶を飲み込み、思考を整理する。


もしかして私は、ランスロットの罠に嵌ってしまったのかも知れない。

アイツと話している時に感じた悪意や嘘の香りはきっとこの事を隠しつつ話をしていたからだろう。

しかしまだ言葉の真意は読めず、おそらくはこれから記される事実に隠されているのだ。

私はもう一度手紙を持ち上げ、事実について読み込んだ。


ーー中略ーー


以上、これが今回の詳細だ。


だから明日からクロビアの屋敷にいろんな男の子がやって来ると思うよ。


ランスロットより


ーー今後についてーー


私は詳細を読んでから紅茶をひと口啜る。

紅茶はすでに冷めてしまい、私の口はすんなりと喉を潤す。


私はランスロットと婚姻を結ぶ契約を迫られていると誤解していた。

しかしながら、よく考えてつい数分前の会話を脳内で再生してみると、ランスロットは『ボクたち』と婚姻について表現していた。

なるほど、つまり最初からこの4人を含めて婚姻を結ぼうとしていたのだ。


ガレス、ラモラック、パーシヴァル、アーサー


私は彼らの情報を再認識しようともう一度詳細を追う。


コンコン


「クロビア様、ご夕食のお時間になりました」


しかしちょうどのタイミングで部屋の扉は3度ノックされ、目線は手紙から外れて入口に向けられる。

いつも通りグールは扉越しに声をかけてから扉を開ける。

彼の目には、私の部屋はどう映っただろうか。


私の部屋の要素は、大部分がいつもと変わらぬ部分で構成されている。

しかしソファーに2つのカップが置いてあったり、窓のカーテンは外からの風に揺られている。

間違い探しとも表現できる極小の変化に彼は気づくだろうか。 


「クロビア様、体調の方はいかがでしょうか?先刻よりもお顔の色はよろしいですが、何かございましたらなんなりとお申し付けください」


「ええもう何ともないわ。さっきは少し疲れてて、少し休んでスッキリよ」


「お元気なようででなによりです。それではご夕食の方にご案内いたします。お足元にお気をつけてお越しくださいませ」


グールはいつもの定型文を暗唱した後、私の手を取って目的地まで向かう。

この一連の行動において、たびたび目線が部屋の中を歩いていたようにも思えるが、悪意や疑念といった感情を私は感じなかった。

グールもプロの執事として、主人のプライバシーを侵害しない。

私は歩きながらそんなことを考えホッとしていた。


ワルワーラ家の夕食会場は華やかである。

縦長に設計されている部屋には縦長のテーブルが余裕を持って設置され、真っ白なテーブルクロスがシワの1つもなく敷かれている。

壁には誰かの絵画を飾り、窓は2人の人間が肩車をして清掃するくらいには大きい。それが部屋にいくつかある。

そんな窓を悠々と収めきるほど高めに天井が設けられており、部屋には2つのシャンデリアがこれもまた等間隔で明かりを灯す。


会場に着いた時、すでにお父様は着席していた。

私もいつもの位置、お父様の向かいの席に腰をおろす。

するとお父様はおずおずと私に話しかけてきた。


「クロビア、今日王子が訪ねてきたと耳にしたのだが、また何かしたのか?」


「いいえ、記憶にございませんわ。もっとも、王子とは先ほどお話ししましたが、それ以上の事実はございません」


「そうか......なら良いのだが。私もオマエの交流を制限しようとは考えておらん」


「だがもし」とお父様は付け加える。


「オマエが危険に晒されるようなことになるのなら、それ相応の対応は親として取らせてもらう」


「その点はご心配ありませんわ。私、この国の王子......いやランスロットとは婚姻の約束を結んでいますので」


私はあえて他4人の名前は出さなかった。

これ以上話を複雑にしてしまうと、説明が億劫になると思ったからだ。

いつかは話すことになるだろうが、今でなくても衝撃の大きさは変わらず、王国を駆け巡るだろうと踏んでいる。


「ランスロット......そうかそうか......あの暴君とはうまくやって行けるのかね?」


「ええもちろん。それに彼は暴君だなんて人じゃないわ。ココロ優しくて、言葉を紡ぐといつも温かいの」


皮肉と事実を交えながらどうにかランスロットの肩を持つ。

表面上は仲良し夫婦でいないと、すぐにバレて私の身に危険が及んでしまい、私だけでなくグールを失ってしまうかも知れない。


「まぁオマエのことだ。上手くやっているのだろう。パパは一切の口出しをしないから、2人で好きにやってくれ」


お父様はうなづいた後、ワインをひと口ふくむ。


「ありがとうございます。今回はうまくいくと思いますの」


そう、むしろ上手くいかないとダメですからね。

食事は流れる水の如く淀みなく進行した。


月はもう天井近くに滞留し、闇夜は深まってきた。

世界は寝静まって、物音ひとつしない。

私は部屋に戻ってまたランスロットの手紙を読み直していた。

ベッドの上でゴロゴロしながらポツリと呟く。


「ガレス、ラモラック、パーシヴァル、アーサー。この4人はいつ来るのかしら」


ランスロットは丁寧に彼らの特徴や好きなものなどを列挙してくれていたが、肝心な訪問日を一切記していなかった。

つまり明日来るかもしれないし、10日後にようやく訪問して来るかもしれない。

また、一度に全員やってくるのか、個別にやってくるかも明記されていないのだ。


彼らの訪問は私にどんな影響を及ぼすのか。


それはまだ、誰も知ることのできない神秘とでも表現しようか。

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