第19話 決死戦

「悪魔だ~。」


 ゴフィスンに援軍に来た騎士達は、腰を抜かした。


「あぁ、なんだ?俺に何かついてるか?グヒャヒャヒャヒャ。」


 明らかに、人間離れしたゴフィスンに対し、ノーバスは、言葉に詰まっている。ビクつき、目が見開いている。


「どうした?あ?」


 ゴフィスンの態度の大きさがより強調され、チンピラじみた言い方になっており、ノーバスは、何も出来ないでいた。


「まあ良い。邪魔すんなや。」


 ノーバスは、何とか後方の部隊に戻っていった。そして、何人かの部下達を帝都内に走らせた。


「グヒャヒャヒャヒャ~」


 100体の上級悪魔達が城壁に空いた穴に消えていった。


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「アレックスくんどうする?」


 城壁に空いた穴から続々と侵入してくる悪魔達を撃退出来ず下がる兵士達を見て、アレックスは、心を決めた。


「スノーさん。サポートをお願いします。」


 アレックスは、颯爽と、駅舎の屋上から飛びとり叫んだ。


「サモン、全員。」


 何も起きなかった。


「アレックスくん、何遊んでいるの。」


 スノーは、面倒くさがったアレックスを白けた顔で見た。


「じゃ、順番にいきますか。サモン、ゴレ吉。」


 ゴッドゴーレムのゴレ吉が召喚された。ゴレ吉は、本気出して良いの?という顔のしたので、アレックスが頭を下げると、その瞬間、消え去り、城壁に空いた穴の前から血飛沫が飛び散っていく。悪魔達は、次々と吹き飛んで、2分足らずで、文字通り殲滅した。そして、アレックスを向いて、満面の笑みを見せる。血だらけの。そんな暴走気味のゴレ吉を、危険で近寄れず唖然と見て頭をたれた。


「あー。僕がカッコつけるところが~。」


 と言葉を絞り出していると、颯爽と飛び降りてきたスノーが


「よしよし」


 凹んでいるアレックスを慰めてくれた。顔が真っ赤になっているアレックスをスノーは、微笑みながら見ている。


「スノーさん。」

「はい?」

「と、とりあえず、やっつけてきます。」


 アレックスは、手と足を同時に進ませながら、穴に向かって進んでいくと、ゴレ吉が、にかーと、アレックスに笑いかけ、穴から出て片っ端から、敵をのしていった。帝国でもゴレ吉さえいれば征服できるんじゃないの?と思わせる程のスピードと殺戮力だ。フリューゲルファミリーの様な一人一人が強く、役割分担がしっかりしていて、上手い受けの連携で何とか時間が稼げるのだが、連携なく、個々での戦いとなれば、秒殺、瞬殺していくのがゴレ吉だ、


「ウガー。」


 ゴフィスンの部隊を2分で殲滅し、アレックスが穴から出た時には、雑巾の様になったゴフィスンの首を片手で掴んで、持ち上げていた。帝国兵達は、腰を抜かしつつも這って逃げていった。帝国兵達が居なくなると、近くの林の方から人が出てきて、


「ゴレちゃーん。」


 と叫んでいた。活躍の場がなく、穴から出てきたアレックスがそちらを向く頃には、ゴレ吉は、声の主であるアリアの元にいた。ゴレ吉は、プレゼントの様にゴフィスンをアリアに差し出したが、少し怯えた顔をされ、凹んでいる。アリアは、ガイアスや部下達と、一緒に、アレックスのところまで、くると、ついてきたゴレ吉が、バトンとボロ切れゴフィスンを落とした。


「とりあえず、戻れ。」


 悪魔になっているが、何とかゴフィスンだとわかるものに、破邪の石を押し付けると、ゴフィスンは、ぼろぼろの人に変わった。


「とりあえず、捕虜1人目だな。」

「殿下如何しますか?」

「アレックス、とりあえず牢屋は用意出来ないか?」

「うーと。」


 アレックスは、そう言って、街の中に入り、おもむろに魔導具を出し、穴を掘った。階段つきの地下室で、空気穴完備の地下室だ。一分程地下室に入りでてくると。


「とりあえず、1週間分の食事と、水をいれときました。突っ込んでおいて、埋めときましょう。」

「へっ?アレックス、それは流石に非人道的では。」

「いやー。殿下。この都市を破棄するのに連れてけせんし。」


 と、笑顔で言うアレックスに、アリアや、スノーもそうだよねって顔をしている。ガイアスや、ルイズはポカンとしている。


「で、殿下どうしますか?選択肢は3つです。一つ目はセイレーンに落ち延びる。まず、セイレーンは、このままいけば、周辺4カ国を支配下におきますので、帝国と戦うことは可能です。しかし、勝った場合、あくまでセイレーンが帝国を治ることになり、帝国は滅びます。二つ目は、ここを強化して援軍を待つ。そうすれば、帝国打倒とはなりませんが、援軍が来ても勝てるかわかりませんし、ここを敵に知られています。持つか解りません。三つ目は、皇宮を襲撃し首謀者達を打倒する。これはリスクが高いですが、出来れば被害は最小限で済みます。」


 スノーの進言に、ガイアスは、悩んでいると、アレックスが、地下室にゴフィスンを置いて、出てきて、魔導具で、入口を道路に戻した。


「スノーさん。ゴレ吉に突っ込ませれば何とかならないかな?フリューゲルファミリーと戦った時よりも、レベルも武装も上げてるから。他のもいるし。」

「アレックス、無理だ。皇宮は、召喚阻害結界がはってあって、召喚獣達は、結界の中ではすぐに戻されてしまうんだ。入れば戻され、召喚すれば戻され、活動が出来ない様になっている。」

「そうでしたか。すみません知らなくて、ルイズ殿下。」

 

 スノーは、アレックスを見て、真剣な顔をした。告白するくらいのビリッとした緊張感が、その場を支配した。


「アレックスくん、命を賭ける気ある?」

「えっ?いつも命懸けだけど。冒険者だし。」

「そーよね。でも、今回は、本当に命懸けよ。」

「まあ、高々、僕の命を賭ける位でいいならいくらでもやるよ。だって、スノーさんが必要と思うんでしょう。だったらやるしかなくない?」

「はぁ。」


 スノーが呆れた声をだすと、緊張感は、解け、アレックスは、何も考えてないかの様な声を出した。


「で、なに?」

「えーと、アレックスくん、帝都の皇宮に向けて正面から、突撃していって下さい。そうすれば、イフリート公爵家や、帝国軍が一斉にアレックス君を狙ってくるでしょう。出来るだけ暴れて、耳目を集めれば、それだけ、敵は必死でアレックスくんを抑えに来るはずです。」

「そうだよね。プライドだけは高いし。」

「その裏で、ガイアス殿下達は、皇宮の秘密の通過を使って侵入し、イフリート公爵達を討つそんな手はどうです?」


 一気に空気が重くなった。アレックスは囮で、どう考えても、命を捨てる事になる。そんな中で、


「で、スノー。」

「何、アリア。」

「秘密の通路って、何処にあるの?」


 アリアの言葉に、スノーは、ハッとした


「えー。無いの?普通、皇子毎にそれぞれが知っている通路があるでしょう。ねえ、ガイアス殿下。」

「えっ。」


 ガイアスは、ヘンテコな声を上げた。


「小説とかでは定番ですし、無いはずは、」


 そこで、沈黙が流れた。


「そんなの知らん。」

「えー。」


 スノーは、今までに無い声を上げた。


「だって、だって、無いなんて。」

「知らんものは知らん。」


 そんなやりとりが続く中、ルイズが、重い口を開けた。


「実は、ある。正確に言えばあった。」

「は?」


 衆目がルイズに集まった。


「100年前までは、四公の館から、皇宮まで、地下道が繋がってたんだ。」

「地下道?」

「正確に言うと旧四公邸。今の館は、100年前に移転して、旧館は、建て替えられている。当時の皇帝が地下道を埋める為に建て替えさせたんだ。」


 アリアの質問に、ルイズが物知り顔で答えると、アリアは続いて素朴な疑問を投げかけた


「それで、旧四公邸って何処に?」

「旧セイレーン公邸は、帝国騎士団練兵場になっている。」

「だめじゃじゃないの。敵の巣窟じゃないの。」


 アリアが落胆していると、スノーが


「待って、ルイズ閣下、他の四公の館は?」

「あぁ、イフリートは、内務省治安維持局本館に、ノームは、ノーム直営のホテル、シルフは、竹林館通りの竹林館だ。」

「「竹林館。」」


 アリアと、スノーは声をそろえ、目を合わせた。


「あそこなら、今人いなくない?」

「そう、再開発が始まってるからな。」

「では、そこに行けば・・・・。」


 そんなに、盛り上がりかけたところに、アレックスが現実的なことを言いだした。


「竹林館・・・。ここから約1km、再開発地区までの直線距離として・・・・。どうやって、そこまで行くんですか?確実にばれるのでは?」


 そういわれて、アリアとスノーが、目を見合わせると、スノーは、怪しい笑みを浮かべた。


「アレックスくん。いいこと考えちゃった・・・。」


 アレックスは、スノーとこそこそ相談し、ガイアスに提案した。


「ガイアス殿下、アレックスが、帝都の皇宮の方向に帝国軍の全軍を惹きつけさせます。その間に、私たちと一緒に再開発地区から、地下道を掘り直し、帝宮の玉座を目指しましょう。」

「帝都の皇宮の方向に帝国軍の全軍を惹きつけるって・・・。」

「アレックスが、ゴレ吉達を引き連れて正面から皇宮に進みます。その時に、殿下の服装を来た影武者と、殿下の兵士風の者達を連れていき、派手に騒ぎながら、攻め込みます。」

「兵か・・・。どの程度・・・の・・・。」


 ガイアスが、汗をつーっと垂らした。


「フリューゲルファミリー、今は、ブルーアクアクランと呼んでいますが、かつての帝都第8位の武闘派マフィアを、ほぼそのまま我がクランの下に置いています。」

「フリューゲルファミリーって、アリア殿の暗殺を」

「はい、暗殺されかかりましたが、返り討ちにして、部下にしました。一人一人が武人で、そのあとも強化してますから、本当に強いですよ・・・。」

「そんな、暴力系学生物語の世界じゃ・・・。」

「事実は小説より奇なりです・・・。殿下。」


 ガイアスは、一旦頭を抱えた後、天を仰ぎ、アレックスを見た。


「生き残れるか・・・。」

「まぁ、何とかします。殿下のご判断によりますが。」


 そう言って、笑っていると、ガイアスは辛気臭い顔をし、スノーも心配になった


「アレックスくん、私が言うのも変だけど、死なないでね。」

「スノーさん。死にませんよ。・・・じゃ、生き残ったら付き合ってくれますか?」


 アレックスが、軽口を叩くと


「よ、良いわよ。」

「では、生きて帰ってきますね。」


 アレックスが、笑って返すと、スノーも笑顔で返した。そう話していると、アリアが笑いながら


「それはフラグよ・・・。アレックスくん本当に死なないでね。それはそうと、殿下、殿下の護衛には、そろそろ」

 

 そういっていると、4人の黒服の男達がやってきた。明らかに、マフィアの者の雰囲気を醸し出していた。


「ルイズ閣下。お連れしたぜ。」

「ありがとう。ロッシ。」


 黒服達は、ルイズに寄ってきて頭を下げた。


「閣下、準備はすべて終わりました。」

「ありがとう。幹部総出とは。」

「はっ、モザードの協力体制も確保しました。帝都の裏社会は、ほぼ押さえました。外から来てた奴らにいい様にされていてすみませんでした。どのようなご命令でも。」

「よろしい。シルフ殿達は。」

「ご無事です。幸いな事に、高速馬車道が通っている都市にいらっしゃいましたので、帝都に向かっているはずです。」

「これで大丈夫だな。殿下は?」

「シルフ領に移動している筈です。ガイアス殿下に何かあった時に備えて。」

「わかった、ら」


 ルイズと、ロッシの連れてきた男達との淡々とした会話に、ガイアスが戸惑っている。


「こちらは?」

「ガイアス殿下、こちらは、ローデシアファミリーの幹部たちです。」

「ローデシアファミリーか・・・。みんな、こちらがガイアス殿下だ。」


 そういうと、幹部たちは頭を深々と下げた。ガイアスは、セイレーンの動きの速さにビックリした。事前に察知していたかの様にも思えたが、アリア達が戻ってきたのは一昨日。そんな準備の時間などあるわけがなく、頭の整理が間に合ってなかったが、アレックス達だしと言う、何か説得させられる感もあった。


「これで、ローデシアファミリーのサポートに、ロッシ、アリアがつけば、護衛は完璧でしょう。殿下、セイレーン公爵家として、私も参戦します。ご決断を。」


 ガイアスからしたら、明らかに分の悪い賭けだが、引くに引けない状況であるのも確かだった。正に苦渋の選択として、悩んだが、アレックスの決死の顔を見て心を決めた。


「ルイズ。私は、一度死んだ身だ、このままいけば帝国は崩壊する。一度は、帝国の為に命を懸けたい・・・。よろしく頼む。」

「はっ。」


 ガイアスは、周囲にいる3千余りの兵に対して声を上げた。


「私は、帝国皇子ガイアスである。今、帝国は、簒奪の危機にあっている。私は、皇族として、皇子として、帝国の諸侯、国民のために、帝国を簒奪者の手から取返し、帝国の平和を取り戻さなければならない。みんな力を貸してくれ。敵は帝都に残存する帝国軍20万だ。数万の悪魔と戦っているセイレーン公爵たちと比べれば分はこちらの方にある。帝国を簒奪者から取返し、帝国に平和と秩序を。・・・・みんないくぞー」

「「「「「「「「「「「おー」」」」」」」」」」」


 大きな声に、兵たちはまとまり、アレックス率いる500が出発し、続いて、ガイアス達が出立した。


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「行くぞー。」


 アレックス率いる兵達は、アレックスが神ショップで買ってきた武具に着替え、お揃いの衣装に、ガイアスの旗を立てた。


「旦那大丈夫ですか?こんないい武具」

「大丈夫です。余った金で7,237領程揃えた帝級の技に耐えられる武具セットだ。殿下達にも渡してある。殿下にはもっと良いのだけどね。壊れたら言ってくださいね。」

「ありがとうございます。皆んな、帝級まで何とか使える様になったんで、武器が持たなかったんです。暴れまくりましょうぜ。」

「時間稼ぎが目的です。ゆっくり、皇宮まで進んでいきましょう。」

「わかりやした。」


 そう言って、アレックス達は、皇宮に向かって、帝都に入っていった。


「サモン、うさ吉。サモン、スラ吉。サモン、ウシ吉。サモン、ゴブ吉。サモン、ホネ吉。サモン、火の吉。サモン、ゴレ吉。」


 前線を張れる召喚獣達に、神ショップで手に入れた、召喚獣用の武具を与え、露払いとして、行軍を邪魔する兵達を瞬殺していった。


「やれ、我こそは、グボッ」


 と言うように、名乗りを気にせず、消していく。帝都の騎士達は、魔物相手の実践経験は、皆無で、訓練も形式美を求めたものが多い。だから、見た目は良いが、とにかく弱い。訓練も、平原の戦を前提としているので、街中でのフォーメーションも取れない。兵士達も、街の警備等はあるが、まともな戦いに慣れていないため、次々に屠られていく。全体で20万の兵がいると言われているが、街中で道幅にも制限があり、集まれば、強力な魔法で排除されていくので、数の有利を生かせずにいる。


「待たれよ。」


 進んでいくと、武器を地面においた騎士達が行軍を留めた。


「私は、帝国第7首都防衛大隊長のオリウット・ノーバス。ゴフィスン・イフリート閣下の援軍だった者です。我らは、帝国軍の騎士として悪魔の手下にはなる気はありません。イフリート公爵家は、悪魔の使徒です。私に同調した2000名、同行させて下さい。」

「なっ・・・・。」


 この様に、次々と帝国軍が仲間になっていった。行軍をはじめて1時間、8千以上の敵を片付けて、進んで行くと、皇宮に真っ直ぐ続く、道幅80メートル程ある大通りに着いた。皇宮までは、約3キロ、そこには数万の兵が道を埋めていた。こちらは、5千弱、まだまだ少ないが、何とかまともに戦える状況になっていた。


「さあさあさあさあ、我こそは、ガイアス殿下の先陣を務める、Sランク冒険者、アレックス・リバース。帝国の叛逆者の騎士達よ。我に勝てると思う奴は出てこい。」


 と、アレックスが大声で叫ぶと、1人の騎士が出てきた。


「Sランク冒険者か。餓鬼が、虚勢を吐きおって。我は、帝国近衛騎士団、12神剣の1人、ロードン・バロッサ子爵。剣技というものを教えてやろう。」


 白い髭を生やした老騎士が、アレックスの前に立ちはだかった。近衛騎士団の12神剣と言えば、近衛騎士団でも最近の12人と言われているが、実際は、各貴族家で後を継いでいる。老騎士が、剣を掲げ、アレックスに切り掛かってきた。


「受けてみよ、中級剣技 水走り。」

「帝級剣技 星屑落とし」


 アレックスは、サクッと剣をひとふりし、老騎士を微塵切りにした。


「近衛騎士団とは、この程度か。」


 そう呟くと、壮年の槍を持った男が出てきた。


「ハッハッハッハー。ロードン爺さんは、12神剣最弱。爺さんを倒したくらいで良い気になるなよ。我こそは。12神剣が1人のバリュモウス・デクスア子爵。ロードン爺さんの仇。」


 12神剣なのに槍って、なんかツッコミ何処満載だが、今度は技を使わず、サクッと倒す。普通に弱かった。12神剣が順番に出てくるが、次々と瞬殺し、時間が計画通りに進んでいった。それにしても12神剣の半分が剣を持たず、弓や、大鎌、魔導師もいた。なんなんだろう、彼らの目的がわからんと思って見ていた。上手くいけばそろそろ突入に成功しているタイミングだ。あと少しと気合を入れ直したところに、大きな笑い声が聞こえた。


「オーホホホホ、オーホホホホ。これでセイレーンは終わりですわよ。オーホホホホ。大召喚イフリートよ。」


 大召喚イフリート、聞いたことのない名前だった。目の前の万人単位の兵士達の真ん中の上空に急に魔法陣が発生し、次々と兵達が倒れていく。それも十人二十人ではなく、何百人、何千と無数の数だ。そうした屍の上に、魔法陣から巨大な炎の巨人が降り立った。アレックスは、恐怖を感じ愚痴り出した。


「なんだよ。こういうのって、急に言い出されるものじゃなくて、伏線があって、その伏線の中で、対処方法もわかってやるだろう。やってられるか、全力をぶつけて、とりあえず、様子を見るか。」


 アレックスは、一呼吸をし、剣を握った。


「神級剣技 睡蓮」


 アレックスが、上段から下段に振り抜くと、紙のように薄い剣撃が飛び、目の前の巨人を突き抜けていった。その先で、パキンと、音が響き渡った。イフリートや、周りの者も何が起きたか分からなかったが、イフリートが片足を前に出すと、バランスが崩れ、二つに分かれた。その直線上にいた者達も、二つに分かれていった。


「いやー。なんでー。」


 その先で、悲鳴を上げている女性をみると、大笑いをして、イフリートを召喚していた女性だった。彼女のセンスを持った腕が真っ二つに切られ、血が噴き出していた。兵士達は、召喚時の大量死と、召喚されたイフリートが瞬殺されたことに、混乱して、指揮命令系統が崩壊していた。


「旦那、今のうちに突っ込みますか。」

「そうだな。」


 アレックスは、剣を掲げた。


「いまだ、逆賊イフリート公爵を打ち取るぞ。」


「「「「「うぉー」」」」」


 そう叫び、混乱の帝国軍の中を突っ込み、皇宮に駆けこんでいった。本来、皇宮は結界で召喚獣達が強制的に戻される筈だが、その結界が解けており、召喚獣達もそのまま突っ込むことができた。そうとなれば、一気に謁見の間まで突き進むことができた。謁見の間にたどり着くと、一足先についたガイアス殿下達がいた。血だらけの死体が無数に並び、玉座には、真っ二つになっているブリモンド殿下、その後ろで真っ二つになっているレッチェル軍務尚書。爆発した後の死体と、頭を抱えているロッチ皇子と、ロッシに今まさに首を切れる瞬間のリヒャルト公爵令嬢という状況だった。


「なっ、何が・・・・。」


 それは、15分前に遡る。15分前、アレックスがイフリートを切り裂いた直前、ガイアス達は、謁見の間に雪崩込んでいた。



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「兄上、兄上は、父上まで・・・。」

「ふっ、老害を、私を廃して、お前を皇帝にしようとしていた老害を排除して何が悪い。」


 ブリモンドは、目がすわっており、ガイアスを鋭く睨み付けていた。


「兄上・・・・・。」


 ガイアスの声に出ない声を、不敵な笑みで応じているブリモンドの隣に座るイフリート公爵が立ち上がった。


「ガイアス殿下、貴方の方から出てきてくれてありがたい。ここで死んで頂こう。12神将、12魔将達よ、殺れ。」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「はっ。」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 そう言うと、控えていた12人の騎士と、12人の魔導士達が、一気にガイアスの命を狙ってきた。魔法が一斉にはなたれ、その後から、騎士達が突っ込んでくる。


「神級魔法 無限結界」


 スノーは、全員を魔法から守る結界を発動させると、放たれた魔法が、結界にあたると、魔法を放った魔導師の方に、数倍の威力になり飛んでいった。


「神級剣技 剣の舞」


 ロッシは、両手に剣を持ち、12人の騎士達を、舞の様に舞いながら、切り裂いていった。時間にして10秒程度だっただろう。その間に、24人の精鋭が血だらけの躯と化した。


「ぬっ。」


 と、ブリモンドがうなった瞬間。パリンという音がして、ブリモンドと、ブリモンドの後ろを警戒していたレッチェルを何かが通過していった。


「なんと・・・・・。お主達は、悪魔か、魔王か・・・・。イフリート公爵家最強の24人を秒殺だと・・・・。そ、そんなはずは無い・・・・・。でっ、殿下、如何しましょう。」


 イフリート公爵がそう横を向くと、ブリモンドが徐々に二つにずれていき、血が噴き出していった。


「ぎゃー。で・・・・・殿下~。レッチェル何が・・・。」


 そう、玉座の後ろに立つレッチェルも、二つに割れていた。


「なぁ、何で・・・・。」


 二つに分かれた二人を見て、混乱してたのは、イフリート公爵だけでなかった。玉座の間の時間が止まった様だった。不意に二人が真っ二つになっている状況に、ガイアス側も理由が分からず、頭の整理が出来ている者がいなかった。


「兄上、どうして・・・・。イフリート公爵お前、」

「いや、私がそんなことをして、どんなメリットが、それこそ、ガイアス殿下こそ」

「そんなに簡単に倒せるなら、こんなリスクを負って、突っ込んでこないわ。馬鹿か。」

「馬鹿だと・・・・。私が、現在帝位継承順位第一位だぞ。」


 という、イフリート公爵と、ガイアスのやりとりに、リヒャルト公爵令嬢が入ってきた。


「第一順位は、ロッチ皇子ですわ。私の婚約者の。ねぇ。」

「えっ、そんなこと。」

「アリアさん。悪くしませんから、ロッチ皇子を皇帝にしてください。イフリート公爵でなく、セイレーン公爵に全権を差し上げますから。」

「リヒャルトの小娘、裏切るのか・・・。」

「裏切るって、私は、ロッチ様以外に忠誠を尽くしてないわ。」

「も、もう許さん・・・。私が魔王になって、お前ら全員殺してやる。祖父は公爵級、父は魔王級になったんだ、出来の悪い息子でも伯爵級だったんだ。私ならどう考えても魔王級だろう。」


 そう言って、イフリート公爵は、悪魔の果実を取り出した・・・。そして、何の迷いもなく、がぶりとかぶりついた。


「上手くないなぁ・・・。」


 それを、全員が、目が点となってみている。魔王や悪魔の公爵級になったのは、過去のイフリート公爵達という事実は、簡単には抱えきれないものだった。そうしているうちに、イフリート公爵の体に変化が起きていった、少しずつ、膨れていっている。通常悪魔に変わる変化ではなく。


「なっ、なぜ、なぜだー。私は、私は公爵だぞー。」


 そう叫び終わるかどうかのタイミングで、イフリート公爵は爆発した。


「ぎゃー。なに、なんなの・・・・。」


 そう混乱しているリヒャルト公爵令嬢を見て、沈黙を続けていたローデシアファミリーのボス、ビビロットが、目を見開いた。


「そうか、何か見たことあると思って・・・やっと思い出したぜ。」

「えっ、何なのあなた。」


 そう声の先を見て、リヒャルト公爵令嬢は、固まった・・・・。


「そう、あんたロードオブマフィアだな。」

「えっ・・・・何のこと?」


 何故か、リヒャルト公爵令嬢は、下手な口笛を吹きだした。


「その声忘れないぜ。ローデシアファミリーを嵌め、前セイレーン公爵閣下を殺したロードオブマフィアの声をな・・・。」

「そんなの、他人の空似でしょう。」


 声を急に高くした、リヒャルト公爵令嬢に、全員、ロッチ皇子を含めて疑いの目で見た。


「アーニャお姉様、お爺様を・・・。私のホームを襲ったのは・・・。」


 アリアの純粋な声に、イライラした顔をしたリヒャルト公爵令嬢は、


「そ、そうよ。あんな邪魔な存在。消して当然じゃない。わた・・・、公爵家は、ずっと帝国の闇を、汚れ仕事を受けてきて、ロッチ皇子の婚約者として、将来、皇后となることで、初めて光の中で生きられるのよ、その機会を壊す可能性がある存在を全て消すのは当然じゃない。」

「アーニャお姉様・・・・。」

「貴方も、貴族の中には、損得勘定しかないのよ。良く知る事ね・・・・。」



 アリアは、泣き崩れていた・・・。それを見たルイズが、ロッシに向かってボソッと


「殺れ。お爺さまの仇だ。」

「はっ。」


 ロッシはそう答えた瞬間、リヒャルト公爵令嬢の後ろに回り、剣で首を刈った。その一瞬前に、謁見の間の正面の扉が開き、アレックス達が入ってきた。



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次回最終話「ドロップキング」

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