第18話 帝都争乱

 時間は、アリア達が、帝都に戻った翌日に遡る。バルザック王国のベイスターン王子を、イフリート公爵に売却した後、スノーと、アレックスは、ベイスターン王子に埋め込んだ通信用魔導具の受信機で、情報収集を行い、ロッシは、帝都最大の闇ギルドとなったローデシアファミリーの元に向かった。アリアは、ルイズと共に、ガイアス殿下の元に今後の対応を協議に向かっていた。

「・・・・そうか、お前は、吸収されたんだな・・・。それで、セイレーンの被害はどうなんだ・・・。」

「はい、セイレーンは、半壊しており、私が急襲されて、多分、アリア達を逃がしたんだと、高速馬車の中でそんな風に話してましたから・・・・。」

「そうか・・・。であれば、今が好機かもしれん・・・・。兵力も、手配も済んでいる。」

「なにを・・・・。」

「皇位を頂くのだ・・・。行動開始だ・・・・。」


 アレックスと、スノーは、イフリート公爵と、ベイスターン王子の会話を聞いて、互いに目を見合わせた。


「やばいわね・・・。」

「そうですね・・・・。スノーさんは、アリア様に。私は、公爵家に至急連絡を入れます。」


 スノーは、即座に、アリアに通信を繋いだ


「スノー、何?急ぎ?」

「アリア、今どこ?」

「もう、ガイアス殿下の宮殿に着いたわ。」

「すぐに、殿下と避難して。」

「へっ、何で?」

「イフリート公爵が、クーデターを起こすようなの、何か理由をつけて連れ出して、帝都から逃げて。」

「わ、わかったわ・・・。また連絡するわね。」


 アレックスは、通信用の部屋に走り、セイレーン公爵領に通信を繋いだ


「もしもし、こちら帝国セイレーン邸のアレックス・リバースです。」

「こちらは、セイレーン参謀本部ライドス少尉です。リバース卿の子息ですか。」

「そうです。緊急の用事で誰か幹部の方を・・・。」

「少々お待ちください。」


 通信相手はいつもの少尉だった。アレックスの焦り方が尋常でないのを感じ取り、至急で人を呼びに行ってくれ、2分程待つと、セイレーンから通信が来た


「アレックスか、リーハイム・セイルーンだ、」

「公爵閣下。」

「どうだ帝都は、」

「今は平穏です・・・。しかし、もうすぐ、クーデターが起きます。」

「クーデター?どういうことだ。」

「ベイスターン王子に仕込んだ盗聴装置から聞こえてきた、ベイスターン王子と、イフリート公爵との会話からですが・・・。」


 セイレーン公爵に事情を伝えると、セイレーン公爵は、一瞬考え


「わかった、すぐに援軍を手配する。皇帝陛下と、ガイアス殿下の身の確保を急げ。」

「ガイアス殿下の元には、アリア様達がいらっしゃいましたので、スノーの方で連絡を取っております。」

「そうか、お前達も、すぐに身を隠せ。イフリート公爵のことだ、念には念を入れて、戦力を確保しているはずだ・・・。」

「はい。」

「アレックス。アリア達を頼むぞ。」

「はっ。」


 通信を切って、アレックスは、公邸の主要メンバーを集め、資財や物資を全てしまい、通信魔導具を配り、少人数毎に分かれ、ガイアス殿下との合流地点に向かった。


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「こうも、上手くいくとはな・・・。」


 イフリート公爵は、皇宮の謁見の間の玉座の隣に椅子を置き、ドカンとすわっていた。玉座には、ブリモンド皇子が座っている。


「イフリート、皇帝陛下は。」

「自死なされた・・・。皇后陛下もな・・・・。グハハハハ。」

「そうか・・・。戴冠式を迎えれば、俺が皇帝で、お前が帝国宰相か・・・。ロッチが皇太子として着く帝国軍総帥の代理にもなる。お前の天下だな。俺は、せいぜい傀儡として楽しませて貰うよ。セディには、怒られたがな・・・・。」

「そうですね、姉には私も怒られましたし。」

「実は、今の帝国のトップはセディかもしれんな・・・。」

「そうですな・・・。グハハハハ。」


 そう言って、二人が謁見の間で大笑いしていると、4人の将軍たちが入ってきた。玉座の前まで進むと、膝をつき、老将の一人が報告を始めた。


「ブリモンド次期皇帝陛下、イフリート公爵閣下。宰相府、軍務省、内務省、国務省の確保が完了しました。宰相と、国務尚書は、逃亡を図ったため殺害。内務尚書は、抵抗をしたため両腕を切り、投獄しております。」

「軍務尚書は?」

「レッチェル軍務尚書、陛下から、軍務尚書の座を奪った者ですな・・・。」

「いや、奴に、軍務尚書の座を渡したのは、俺からだ、そうだよな・・・。」

「はい。」


 レッチェル軍務尚書が、玉座の間に入ってきた。悠然と玉座の前まで歩き、跪いた


「陛下、閣下、大願成就おめでとうございます。」

「上手く、手を回してくれたようだな・・・。グハハハハ」

「はい、陛下と閣下のご指示通り、帝国軍の陛下の親派以外を、帝都からセイレーン公爵領側に移動させ、この事態で、セイレーン公爵領出身者が抜けた穴に、イフリート公爵領系に近いものを差し込んで、今回の革命を上手く運びました。如何でしょうか。」

「最高だったよ・・・。みんな、俺が降ろされたんだと思っていたからな・・・。」

「おほめ頂きた、ありがとうございます。」


 レッチェル軍務尚書は、軍務尚書が立つべき玉座の傍らに立った。すると、7人の将軍達が玉座の間に入ってきて、跪いた。


「陛下、ご報告にあがりました。」

「よろしい」


 軍務尚書が、取り仕切って、報告が進んでいく。


「まず、ファミール皇子ですが、宮殿で暗殺されているのが発見されました。」

「暗殺だと・・・。」

「調べたところ、新興の暗殺系闇ギルド、ヴェネツィアファミリーの仕業らしいです。」

「また、闇ギルドか・・・・。」


 報告は、続いて行われていった。ファミール皇子の後見であるノーム公爵家のハインリッヒ・ノーム公爵弟については、ノーム公爵邸襲撃で、ノーム公爵邸が焼け落ち、遺体捜索中だが、全焼の為、見つかる可能性が低いこと、ギレイド皇子と、後見であるシルフ公爵家のロッチス・シルフ次期公爵は、たまたま、昨日より鉱山都市リーポンに視察に行っており、シルフ公爵邸は少人数の召使いしかおらず、シルフ公爵家の者の捕縛は出来なかったことが報告された。


「ガイアスは?」

「はっ、ガイアス殿下の宮殿には、決起の1時間前よりルイズ・セイレーン次期公爵が訪れていたようですが、決起直後に襲撃したところ、もぬけの殻であったと。セイレーン公爵邸、セイレーン系の商会である、プレース商会等も共にもぬけの殻だったと。」

「そうか・・・。」


 軍務尚書が報告を聞いて、少し悩んでいると。一人の将軍が


「事前にセイレーンに漏れていたかと・・・。」

「事前に漏れていたなら、決起を妨害するはず。漏れていたとしても、決起を妨害する余裕が無い位・・・。直前だろうな・・・。」

「そうすると、シルフにも・・・。」

・・・・


 と将軍たちの議論が始まった。軍務尚書は話をゆっくり聞き、ブリモンド皇子も口出しをしなかったが、イフリート公爵が面倒くさそうな声をだした。


「そうだな・・・。決起のタイミングは直前に決めた・・・。その前に漏れていたんだろう・・。ファミールの暗殺も含め、闇ギルドかもな」

「さようですな・・・。みなさん、まずは、帝国軍を完全掌握するよう動いて下さい。」


 軍務尚書が、締めるように指示を出すと、将軍たちは襟を正し


「「「「はっ」」」」


 そう言って将軍たちは消えていった。


「そうだ、ゴフィスン。」

「はい。」


 イフリート公爵は、息子のゴフィスンを呼んだ。


「手勢を連れて、セイレーンのステーション都市とやらを落とせ。イフリートから呼んだ、冒険者と、傭兵たちの部隊で良いだろう。」

「はい。」

「閣下、何部隊か、つけましょうか。

「そうか頼む。」


 軍務尚書は、ゴフィスンの為に部隊を調整していたが、ゴフィスンは先走って出兵してしまった。


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「ルイズ、やばかったな。」

「そうですね、皇子。10分遅れていたら・・・。襲撃を受けてましたね。」

「でっ、どうする?」

「帝都外に造った、ステーション都市に向かいましょう。城塞都市化しておりますので、大概なことでは守り切れます。そこに、戦力を集めておりますので。」

「わかった。アリア。」


 ルイズが、アリアに確認を取ると、


「はい、スノー達は、帝都からの脱出に成功。ステーション都市に、2500名程の戦力を確保したそうです。」

「そうか。こちらの戦力は500名程度、3000名でどうにかなるのか?」

「セイレーンから援軍が手配されています。」

「まずは、ステーション都市で、援軍を待つか・・・。わかったよろしく。」


 アリア達が帝都の厳戒令が完成する前に、帝都から抜け出し、ステーション都市に向かうと、ステーション都市では戦闘が開始されていた。


「ガハハハハ。この程度の都市は我が軍で一捻りだ・・・。」


 ゴフィスンが、魔導師隊に指示し、帝国軍事集団魔法 炎帝を放ち、ステーション都心ぶつけた。強い光と轟音を放ち、人的被害は無かったが、都市の壁面に大きな穴が開いた。


「つっこめ~。」


 帝国軍の援軍が到着する前に戦端を開いてしまった為、ゴフィスンが率いるのは、約5000の冒険者と傭兵集団だけだった。ゴフィスンは300名程度の護衛らしき者達と後ろで控え、各クランが各々隊列を組み穴に向かって進んでいった。戦いとしては、大きな穴と言っても、横で10人も通れない穴だ。ゴフィスン側は、そこに防備を固めて突っ込んで行き、セイレーン側は、迎撃していくわかりやすい戦いである。その戦闘の性質から、迎撃速度を攻撃速度が上回れば攻撃側が勝つ構図だ。籠城している側は、物資が有限で、精神的にも追い込まれて行くために、攻めるとしても、そこまで難しいことでは無いと思い力技で攻めていた。

ゴフィスンも、容易に突破可能かと思い、仮設のテントに入り、2人の女性を侍らせて入っていった。30分程経ち、そろそろ落ちたかとゴフィスンがテントから出てくると、穴に馬鹿みたいに突っ込んでは迎撃される作業の繰り返しの光景が繰り広げられていた。


「今の状況は?」

「はっ、未だ穴を突破できず、被害は3割を超えました。」

「は?3割だと。」


 ゴフィスンは、流石に苛立ち、爪を噛み、貧乏ゆすりを始めた。彼の側近達は、単なる遊び仲間で、まともな士官達を遠ざけて来ていた。その為、士官から知恵を借りることも出来ず、進言も側近の段階で切り捨てていた。


「なぜ、落とせん・・・。」

「閣下、あの穴の大きさでは、集中砲火を受けて、進めていないものかと・・・。想定以上に敵軍は多く、魔力も豊富な様子で」

「そうか・・・。でも、このままだと、単に被害を受けただけで、俺の顔に・・・。」

「閣下?一旦引いて援軍を・・・。」


 そう言う側近を、ゴフィスンは、一刀に切り捨てた。


「ぬぬ・・・覚悟の上は・・・。」


 と言って、ゴフィスンが目配せをすると


「「「「はっ」」」」


 後ろに控えていた100程度の者達が、手に持った果物を口にすると、体が悪魔に変わっていった。


「グハハハハ、こいつらは即席でなく、悪魔でも精鋭部隊、全員子爵、男爵級だ。やれ・・・。」


 悪魔達が、各々ゆっくりとステーション都市に向かって歩きだす。攻めていた冒険者や、傭兵たちは一旦下がり、怪我をした者達の治療にあたっていた。攻め込んだ悪魔達は、攻撃を受けつつも、穴の中にゆっくり進んでいった。


「これで勝てるぞ。グハハハハ。」


 そう、ゴフィスンが叫んでいると、遅れていた帝国軍の部隊がステーション都市に到着した。帝国軍は、驚愕し、目が点となっていた。イフリート公爵子息に悪魔が従っていることに、援軍の将軍がゴフィスンの元に向かうと


「ゴフィスン・イフリート閣下、帝国第7首都防衛大隊長のオリウット・ノーバスです。」

「そうくぁ・・・。」


 振り返ったゴフィスンの顔が悪魔になっていた。

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