第17話 フランツ王国の新王
バルザック王国の首都バルザックは混乱に陥っていた。光の柱に、王城が山ごと消え去った。出兵の準備をしていた軍港も、兵舎諸共光の柱に消滅させられ、防衛の為に残存していたバルザック王国軍の主力部隊、指揮命令組織が一瞬で焼失してしまった。同時に王族、中央の行政組織も無くなり、首都機能は崩壊し、国民生活も成り立たない状況になった。その4日後には、首都に数十万の軍隊が、道を作りつつ攻めあがってきた。旗は、セイレーン公爵家のものだった。
「王様が、魂を悪魔に売って、セイレーンを攻めたのに、セイレーン公爵軍が攻めてくるって・・・・。」
「やっぱり、悪魔に魂を売ったから、神様にみはなされたんだべ・・・。」
「んだ。王様ももういねぇし、セイレーンの公爵様に、うちらを守ってもらおうべ・・・」
「うちらは、神様に逆らってないべな・・・」
そう言って、首都バルザックは、目だった反抗なく、国民の歓迎の中、セイレーン公爵軍の支配下となった。大半の貴族は、王家に忠誠を見せる為に、侵攻軍に参加したり、王城に籠っていたため、残っておらず、領地も代官が守っているのが大半であったため、即座に降伏し、10日余りでバルザック王国はセイレーン公爵軍の支配下となった。
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「もう、公都か。」
ガイアス・ロドス伯爵は、17万の兵力を有し、バザーモン公国の公都バザーモンに馬を進めていた。先行している工作部隊は、既に公都までの舗装を終え、副都サイサイスイに向かっている。ここまで、戦闘らしい戦闘は3度しかなかった。1度目は、東ドワーフ自治領とバザーモン公国の国境にあるバザーモン公国軍のドドワルド砦攻略戦。王都から持ってきた砲台を使い、1日で陥落させた。現在、砦は、東ドワーフ自治軍が確保している。2度目は、公都と、セイレーン公爵領との直線上にある、バザーモン公国最大の貴族ブラックカウ侯爵領侯都ブラックカウでの攻略戦。地域に残存する騎士団を終結させ、3万の戦力をぶつけてきたが、多勢に無勢、圧倒的な数量で撃破し、一部の部隊を各貴族領の確保に向かわせている。3度目は、公国軍の海軍の司令部がある、軍港ファレースの海上要塞ビーフ攻略戦。軍事港自体は、光の柱で海軍ごと消滅していたが、要塞だけは無傷で残っていた。そこには、数十の悪魔もおり、地形的に兵力を集中できず、手をこまねいていたが、工作部隊が、一気に水上要塞の周囲を埋め立て、陸上要塞に様にしてしまった。海上要塞は、埋め立てられたことにより、数での侵攻が可能となり、1日で落としてしまった。公都まで、30日程度を予定していたが、王都から約10日で届いてしまった。そして、目の前の公都は、廃墟と化している。廃墟と言っとも、溶けた石の下があるだけで、そこに巨大な街があったのがわかる程度だった。
「皆の者、公都の廃墟を1日捜索して何もなければ、副都を抑えに行くぞ。」
「「「「「はっ。」」」」」
そう言って、総出で捜索し、副都に向かった。セイレーン公爵軍が公国完全に占拠するのに、あと、10日を有した。
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「母上、あそこが。」
「ロベルト、あそこが、王都リヒャルトよ。」
僕は、一軍の将として、母上と一緒にリヒャルト王国の王都まで進軍してきた。ここまで大規模な戦闘はなく、僕は只々高速馬車に乗りつつ、各部隊からは報告を聞くだけだった。リヒャルト王国の軍の主力は、光の柱でやられ、悪魔の通行を許した時点で民や、良識派の貴族の支持も無くしていた為、まとまった軍を有している貴族達は悪魔を破り進軍してきた我が軍に対し、半数は、王都に逃げ、半数は、降伏し、麾下に加わった。
「ロベルト、この一戦は前哨戦に過ぎません。即座に片付けて、フランツ王国に向かいますよ。」
「はい、母上。」
母上は、セイレーン公爵軍を動かし、手際よく王城を陥落させた。抵抗した王族と、貴族50家総勢200人は、全て戦火の中で亡くなった。その殆どは、カインが獅子奮迅の活躍で倒していったと言う。あれから会っていないが、武器を取り上げられて、兵士並みの武器しか与えられてないはず。そんな中にいならいつかは、武器が折れ、やられてしまうのではと心配になってきた。
戦後処理を行い、リヒャルトに到着した翌日には、王国平定の部隊だけ残して、フランツ王国に進軍を始めた。ここから、僕がこの軍の総大将となる。母上がいるとはいえ、僕に判断が出来るか心配でならない。
「閣下、まもなく国境です。国境には、2万ほどの兵が集まっている様子です。」
「そうか。」
騎士団の一つを指揮する老将マイグース子爵が僕に報告に来た。母上を見ると、口に扇子を当て、僕を見ている。
「で、如何しましょうか?」
僕に、戦略の選択を迫ってきた。母上は、僕を見ているだけだし、凄いプレッシャーが僕を襲う。僕の選択で人が死んでいく。母上は、伯父上は、いつもこんなことしているのかと尊敬してしまう。
「全軍、」
と、プレッシャーに負けて言いそうになって、安易な決断に走りそうになった時、いつもの母上を思い出した。母上は、わからない時は人に聞き、アドバイスをもらってた。
「全軍をどう動かすべきだと思うか?マイグース殿。」
「兵力差は歴戦。平原ですし、一気に攻め上げるのが肝要かと。」
「そう。では。」
と、全軍突撃と言い出しそうになったが、ふと、ここからは、父上や母上が愛した国だと言うことを思い出した。
「マイグース殿、マイグース殿はたしか、伯父上の」
「は、セイレーン公爵閣下の陪臣でございます。」
「そうか、」
僕は、母上の方を向いた。
「母上、この辺り出身の家臣は、」
「ロベルト、セイリューム伯爵の次男、ザグワット殿がいたはずだわ。」
「ザグワット殿をここに。」
「はっ」
僕の指示に控えていた部下が走り出した。僕が呼ぶのがわかっていた様に、ザグワットがすぐに来た。
「ロベルト殿下、お呼びで。」
「ザグワット殿、この辺りには詳しいか?」
「はい、幼い頃、国境の向こう側は、遊び場でした。」
「そうか、では、この戦どのようにすれば良いと思う。」
そう言うと、ザグワットは少し悩んだ。
「ロベルト殿下、どう攻めればよくでなく、どうしたらですか。」
僕は、何も考えていなかったが、考えてなかったとは言いづらいので、カッコつけてみた。
「そ、そうだ、どうしたら良いと、思う。」
ドキドキ感が止まらないが、何とか答えると、
「はい。あそこの軍旗をみると、周辺を統括する父のセイリューム伯爵のものです。誠実で、真面目な性格なので、この戦の後、セイレーン公爵家のものになるのでなく、ロベルト殿下が統治されることがわかれば、我が軍に与してくれるかもしれません。私に交渉役をお申し付け下さい。」
「そうか、では、」
と言いかけて、老将の方を見た、顔が厳つく、怖い。先程、アドバイスを貰ったのに、無視して籠絡に走ったら、やな顔するかもな、とも思った。
「マイグース殿、どう思われる。」
震えた声でマイグース子爵に言うと、僕を睨みつけた。
「殿下。」
マイグース子爵が、僕を睨みながらつく一拍の間が、悠久の時の様に感じられた。
「この戦には、時間をかけぬことが重要だと、ご存じですよね。」
「はっはいごめんなさい。」
と、僕が口走って謝ると、マイグース子爵と、母上は、大きな声で笑った。
「マイグース子爵、顔が怖くて、息子が泣き出しそうじゃないの。」
「すみません。真面目な顔をすると、こんなで」
「マイグース閣下、うちの王子を虐めないで下さい。」
「そうじゃな。ザグワット。」
3人仲良く話しているのが、不思議だった。
「ロベルト、マイグース子爵は、昔、私の護衛官だったの。カインと共に、助けに来てくれた騎士の1人よ。ザグワットは、他の騎士と共に、私達を守りながらセイレーンまで一緒に来てくれたでしょう。3人ともよく知った仲なのよ。」
「殿下、この老体の意見は意見としてお聞き頂くのは、ご経験の無い閣下には良いご判断です。先程申したかったのは、時間が重要だから、期日をきって交渉して欲しいと言うことです。この戦は、殿下の祖国を取り返す戦。リヒャルト王国を奪い取る戦とは違い、できる限り血を流さないのが上策。戦働きでの功績を、フランツ王国奪還戦で取ろうと思っている騎士なんぞ、セイレーン公爵軍にはおりませんぞ。」
僕は、少し漏れかけるほどビビったが、何のこと無くすみ、ザグワットが、セイリューム伯爵と話をつけ、麾下に加えるまで、2時間もかからなかった。
「殿下、リガジ・セイリュームでございます。この度、殿下の麾下に加えさせて頂きます。」
「セイリューム伯、ありがとう。」
「一番に殿下の麾下に加えて頂き誇りに思います。」
「そう思ってくれて嬉しいよ。それで、今、王国内部はどうなっていますか。」
僕が、言い慣れない君主風な言い方を失敗するたびに、母上が笑いをこらえている。辛い・・・。
「王国中央軍と王国東方軍が、魔王軍と合流しリヒャルト王国を通り、セイレーンを目指して進軍している中で、殿下がいらしたという事は、中央軍は全滅かと、イフリート公爵領の傭兵団が2万程度、王国南方軍と北方軍の主力部隊10万と合流し、セイレーンに向かう準備をしていたところ、光の柱が突如現れ消失したと聞いています、そこには副王殿下のいらしたと。海軍は、半数が、魔王軍と共に、セイレーンに向かい、半数は残っていますが、残った半数は、所謂私掠船団なので、まとまった戦力にはならないかと。残った軍は、王都防衛軍、近衛騎士団、今回麾下に加えさせて頂いた東部貴族連合軍を除く4つの地域貴族連合軍位ですね。地域貴族連合軍の内、中央貴族連合軍以外は、殿下の麾下の陪臣達をお借りできれば、黙らせてまいりますが。」
「そうか。ザグワット殿。」
「父上の言に、南部ロードシア伯爵、西部バリジーン伯爵は、それぞれ、ロードシア伯爵の甥である、ニッケンス、バリジーン伯爵の弟である、ルビーモンドが説得にあたれるでしょう。北部のザイアム伯爵は、伯父さんだから、母上が乗り込んで説得してくれるでしょうし。」
「こら、ザグワット、言葉遣いを、気をつけんか。」
「すみません。」
僕は、二人の親子見て、父親かぁ・・・・。と、記憶にもない、亡くなった父親に思いを馳せていると。
「殿下、一つだけ確認をさせて頂きたい。」
「なんですか。」
「フランツ王国の王位を奪還されたら、殿下は何処を見て政治をされますか?」
「何処をみて?」
「簡単に言えば、セイレーン公爵家の傘下に入るのか否かです。メリットが無く、セイレーン公爵家が兵を出すはずございません。隣接するイフリート公爵家を見れば、帝国貴族がどこまで強欲かはわかりますから。」
「そうか・・・。」
僕は、セイリューム伯爵が懸念していること、祖国が、セイレーン公爵の間接支配を受けるのを警戒しているという事実を強く感じた。
「そうですね。簡単に言えば、今回のセイレーン公爵家の進軍は、貴国、分かりやすく言えば、ロベルト王子麾下の軍がリヒャルト王国攻め及び、セイレーン防衛線に参戦頂いた対価と考えております。フランツ王国を支配下におく気はセイレーン公爵家にはございません。そんなことをすれば、アリシア様に殺されてしまいます。」
「私は、殺さないわよ。兄上、セイレーン公爵にちょーっとお仕置きする程度です。」
母上と、マイグース子爵のやり取りの後を、僕が引き取った。
「僕としては、帝国の属国という位置を明確化しようと思うんだ。このままいけば、今までと違い、あと数年で、帝都と、大陸各国の首都は、1日以内で往来可能な交通システムが確立される。そうした場合、1国の支配の限界距離が、より広がり、現実的に帝国が大陸を蹂躙することが可能になる。少なくとも南部は伯父上である、セイレーン公爵が各国を制圧する。そんな中で、対等な関係などなく、有利な条件で属国になる道を選び、帝国の傘に落ちた方が良いと思うんだ。今回戦った他の3国は、実質セイレーン公爵の支配を受けるだろう。そうした場合、属国ではなく、属領となり、国民の自由、権利を守ることが難しくなる。だが、属国であれば、あくまで、親分子分の関係に過ぎず、セイレーン公爵家とは、対等に近い立場で物事を進められる。まぁ、どうするかは、4伯の意見を聞いてだけどね。その前に、みんなでこの国を落とす必要がある。あらためてであるけど、力を貸してほしい。」
「分かりました。この老体、殿下の為に命を賭して働かせて頂きます。」
それから、1週間、兵を王都フランツまで兵をすすめると、眼前に、10万を超える兵が並んでいた。
「殿下、ここを破れば王都です。赤き旗の軍が王都防衛軍8万、紫の旗が近衛騎士団2万です。」
「わかった。彼らもわが国民、出来る限り、命を残してほしいが・・・・。」
「やむを得ないでしょう。」
「わかった。」
そう言って、僕は、拡声魔道具で全軍に
「ロベルトです。今まで皆さんありがとうございました。この一戦で偽王より王都を奪還しましょう。敵兵もフランツ王国の国民の一人です、出来る限り、殺さずに、でも、それ以上に皆も死ぬな・・・。矛盾することを言って申し訳ないが、死なない様に、戦いましょう。」
そう言うと、軍全体がシーンとしたムードになった。僕の演説はダメだった・・・。全て自分の心を言ったのに・・・。そう落ち込む僕からさっと拡声器を奪う男がいた。
「みんな、俺はカインだ。今は兵器刑で、最前線を張らせて貰っている。みんな、人間扱いされているから、殿下に心配されてうらやましいぜ。俺なんて殿下のクソ伯父に、死んで来いとまで言われたんだぜ。死ねって言われてすごすご死ぬ気はねぇ。おめえら、絶対生き残って、糞みたいなセイレーンの狸親父でなく、純粋で国民や、俺達のことを思う、殿下の作る国を見ようぜ。」
そう言うと、笑い声と雄叫びが、全軍から木霊した。
「じゃ、野郎ども、これからは、俺達いくさ人の時間だ、一気に行くぞ。」
カインが叫ぶと、拡声器を僕に渡し、小声で「では、殿下最後に・・・。」
「みんな、後は任せた、全軍突撃!!」
ロベルトの叫び声に最高潮となった軍は、一気にフランツ王国首都防衛軍と、近衛騎士団の中に突っ込んでいった。完全武装したカインを先頭に・・・・。完全武装・・・。なぜ?と?を頭に浮かべていると、母上が後ろからやってきた。
「カインに助けられたわね・・・。」
「母上・・・。」
「いい上司は、部下を良く使い、良く助けられるものです。良かったんじゃない。大事なのは部下に嫉妬しないことよ。」
母上は、僕に笑顔でウインクをした。
「嫉妬できるまで、自分を磨かないとですね。まだ同じ土俵まであがってないので・・・。で、」
「で、って、カインの武装でしょう。あれ、セイレーンで兵器刑を受けた時に取り上げられたんじゃ。」
僕は、疑問を母上にぶつけてみた。
「そうじゃないのよ。あの武装は、全て、アクアクランのアレックスからのもの。アクアクランは、白き薔薇団と同盟で傘下じゃないし、あのクランは、独自で動いていて、参戦していないから、取り上げる対象になってないのよ。あの武装なら、魔王を切れる武器で、魔王の攻撃を防げる防具なので、滅多なことでは刃こぼれはしないし、傷もつかないしね。」
「みんな知ってたの?」
「まぁ、主要なメンバーは少なくともね。」
武装のことは分かったが、死刑はどうしたらいいんだろうと疑問がわいてくる。
「でも、死刑ってこの後どうしたら。」
「ロベルト、兄の話聞いていたの?」
「「カイン。リヒャルト王国を最後の戦場として、死して戦ってこい。」とも、「こういうのも変だが、今までありがとう。ロベルトを頼む。」とも言っていました。」
「「カイン。リヒャルト王国を最後の戦場として、死して戦ってこい。」は、リヒャルト王国戦を持って、罪科は終了する。「こういうのも変だが、今までありがとう。ロベルトを頼む。」は、フランツ王国を落としても戻ってくな、フランツ王国に尽くしてこい。という意味です。だから、カインは先程最前線を離れましたし、「殿下の作る国を見ようぜ。」と言っていたんです。勝利したら、フランツ王国の騎士として、抱えてあげてね。」
「は、はい。わかりました。」
釈然としなかったが、これが、カインが、狸親父と呼んだ所以かもしれない。こんな人たちと伍していかないといけないことに恐怖を感じたが、今は、カインを殺さなくて良くなったことを喜び、いくさに集中した。
そうして、戦争は始まりカインは戦場で、30分程で偽王を打倒した。偽王が死んだことで首都防衛軍、近衛騎士団の降伏し、ロベルト王子は勝利した。結果として、死者を最小限に抑えられたのは、カインの意図した事だろう。翌日、ロベルトは、新王の座に付いた。そして傍らには、最強の騎士がいた。
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