第5話 貴族院評議会

 貴族院評議会。侯爵以上の貴族と、辺境伯以上の領主、皇位継承順位第四位以上の皇子達で構成される貴族間の調整、貴族のルール策定、皇帝陛下への提言等を行う、帝国では、御前会議、諸侯会議に次権威があり、皇帝が出席しない会議では最も権威高い会議と言われる。4大公爵家の内、シルフ公爵、ノーム公爵、他に主要な貴族の内、ブリゾーゲン公爵、レンゾビア公爵、リッテンハイム―公爵等は代理の者が出ているが、次期公爵、公爵弟等帝都の代理人達だ。


「諸卿、よく緊急召集に集まってくれた。資料は渡っていると思うが、簡単に説明をしよう。」


 議長の指示に従い、リバケット侯爵があらましを説明した。


「で、今回の議論すべきなのは4つ。一つ目は、バルザック王国に対しどうするか?帝国としての弁明の機会を与える予定になっているが、それまでの間ですな。」


 参加者は、難しい顔や、我関せずの顔様々な反応だ。


「二つ目は、イフリート公爵令嬢と、バルザック王国王子が、この件を帝国軍が把握する前に知っており、セイレーン公爵令嬢を煽ったこと、事実関係として、イフリート公爵領の主要クランの冒険者も襲撃に参加したこともあり、後にイフリート公爵閣下よりご説明があるかと思いますが。」


 そう言って、イフリート公爵に皆の目がいったが、イフリート公爵は涼しい顔を続けていた。


「三つ目は、セイレーン襲撃の主犯が冒険者ギルドの外国で認可のクランだったこと。セイレーン公爵閣下は、外国で認可を受けたクラン、冒険者の規制を訴えて来られたが、多くの方々のご意見で逆に規制をかけるなという形になった。セイレーン公爵は、警戒を続けていたから防げたものの、帝都で起こらぬとも限らない。しかも、この事件には、帝都本部ギルドの幹部も複数関わっている。規制緩和を主導された方々のお考え、いや本件に関わっていない弁明を後でお聞きしたい。また、どう対処するか検討が必要だろう。」


 長年冒険者ギルドの代弁者、陰のグランドマスターと言われ、弟が冒険者ギルド本部長として、本件に関与したと言われている、バイズ侯爵は、老いてまだゴッツイ体を小さくし、汗ダラダラだった。


「四つ目は、この件に広範な商会が絡んでいたことだ。現在分かっているだけで、帝都五大商会のうち三つ、イフリート公爵領第二の商会セリアその他、セイレーン外に本店を置く帝都内の商会が42、バルザック王国他7ヶ国21商会が絡んでいる。セイレーンに本部を置く商会は、関与が無かったことが、以前セイレーン公爵が主張されていた検査権限の有無の結果とも言える。アクアの商人ギルド長は帝都本部の指名できており、反乱を主導した1人だった。まさに、商人ギルドの暴挙であろう。」


 リバケット侯爵は、声高に商人ギルドを悪者として掲げた。


「これを機に、商人ギルドに灸を据えるべきかもしれんが、セイレーン公爵領で蔓延っていた、セイレーン公爵領外商会の連帯、別名領外連は、他の領でも確認されている。セイレーン領で反乱幇助罪として、帝国軍の連絡事務所と共同で一斉検挙した資料は、帝国軍の憲兵達と共同で分析中だが、各地での不正が発覚していると聞く、報告は帝国軍から各領に行く予定だ。そんな商会等をどうするか?商会の規制緩和を謳っていた方々のご意見を伺いたい。」


 数人の商人ギルドに近い貴族以外は、大なり小なり大商会に恨みがあり、怒りの顔を浮かべている。


「リバケット侯ご苦労だった。でだ、諸卿のご意見をまず伺いたいのだが。」

「まず良いか?」


 そうブリモンド皇子が、始めに意見を出した。


「まず、セイレーン公には、貴族院が嵌めた枷で大きなリスクをおった中、適切に対処され、帝国臣民の命を守ってきたこと、感服する限りである。今回の件、色々思うところはあるが、ここでゲームをしても致し方無かろう。1点目バルザック王国の件だがな、帝国が動くまで動くなとしか言えんな。拗らせても益は無かろう。2点目は、まぁ、言い合いになって、結論は出ないだろう。時間の無駄だ。セイレーン公、ここは引け、3点目冒険者ギルドか、愚問だな、今まで良いようにさせてたのがおかしい、バイズ侯が弁明するだろうが、とりあえずセイレーン公の領地については、好きに規制すれば良いだろう。4点目は規制すれば商流が止まって経済が回らなくなるかもしれんが、好きにさせて良いかと思うが、なぁ、ロディ―侯。」


 商人ギルドに最も近いロディ―侯が汗を拭いている。


「ブリモンド殿下・・・。いやはや、あやつら、これ程犯罪を犯していたとは・・・・。で、ですがセイレーン公の管理が・・・。」


 そう言って誤魔化そうとするロディ―侯に対し、セイレーン公が睨み付け


「当家の領地運営がいけないと・・・。商人ギルドと貴族院に阻まれて、商人ギルドの本部から何人も送られてきて、地元の商人達を締め付け、地元の職人達を奴隷化しそうになっていたのを何とか防いでいたが、そう言えば、主導した商会の中に、ロディ―侯爵領出身の商会もあったな・・・。一部の貴族への献金や、資金流の資料も・・・。」

「うっ・・・・。そんなこと・・・。」


 ロディ―侯が震えていると


「セイレーン公、私も指名されているので、申し上げよう。」

「イフリート公。ブリモンド殿下が仰れるには」

「いやいや、ブリモンド殿下の言は仰る通りだが、一つ勘違いの事があるのう。ベイスターン王子と、フローレンスが婚約するので、当家が持参金と慰謝料合わせて20億代払いする予定だが、5億程積み増す予定だ。その分もバルザック王国から頂くがな。それでだ、儂はこう思うんだ、バルザック王国の貴族3人は巻き込まれただけだろうと・・・。外交上や、海外から訪れた貴族とはトラブルも生まれやすいものだ、どうだろう、セイレーン公」


 笑顔を見せるイフリート公を、作った落としどころを修正されて機嫌の悪いブリモンド皇子が睨んでいた。ブリモンド皇子が怒鳴りだそうとしたところで、ガイアス皇子が、右腕を伸ばし、ブリモンド皇子を制止して、イフリート公にゆっくりと笑顔をみせた


「イフリート公、セイレーン公領とレイクノバ大陸との間には、船が通れない程の激流が流れるアクア海流が流れていて、その両端と帝国のある中央大陸との間の数キロの間は、フランツ王国とバルザック王国領となっている。両国が封鎖すれば、空中での輸送のみ、実質貿易が途絶えるだろう、まぁ、フランツ王国だけでなく、バルザック王国と、レイクノバ大陸との貿易をカルディー港で独占し。多大な利益を上げるイフリートには良いでしょうが、セイレーンは貿易上、多大な打撃を受け、経済的な価値は大きく損なうでしょう、そうなった中で規制を強化しても、商人ギルド、冒険者ギルドの被害も少ない。規制の前例を作っておけば、四公最大の経済力を持つことになる貴公は、各ギルドへの影響力強化にもつながる。25億程度安いものですね。まぁ、せっかく兄上が作った落としどころを変えるのは如何なものかと思いますが、長引かせてもしょうがないですし・・・。貴族は、貴族三人とその子弟がいればそこまでで良いですよね。兵士や、傭兵、船乗り、冒険者等は、・・・普通死罪ですが。」

「ガイアス殿下、儂にはそんな強欲な考えはありませんよ。殿下のご認識で結構です。」

「という事ですが、セイレーン公」


 ブリモンド皇子は納得いっていない様子だが、ガイアス皇子は、セイレーン公を穏やかな目で見ていた。


「ブリモンド殿下、ガイアス殿下の両殿下のご意思に従いましょう。バルザック貴族共は解放しましょう。ですが、帝都経由でイフリート公にお渡しする形でよろしいですかな?」

「良いでしょう。」


 イフリート公は、笑みを浮かべた。セイレーン公は、イフリート公が満足しているのを確認し、


「ではそれで、ギルドだが、帝国全土の運営は、今後ご検討頂くとして、我が領地については、自由にやらせて頂く。各ギルドに当家の人間を入れて、審査で通った者のみ登録させ、我が領地での活動を許可する。商会・クランには、検査に入る権限も頂こう。基本的に何か罰する場合には、帝国軍に報告し、他の貴族の方々に関係あるものは、帝国軍を通じて共有させて頂く。当家及び当家支配下のクラン等と取引をされる場合も、当家での審査、登録をマストとしよう。如何かな・・・。ロディ―侯」

「あっ・・・・いやあの。」

「無いようじゃな。バイズ侯爵は?」


 セイレーン公は、ロディ―侯に対し睨み付け、ロディ―侯は肩をすくめていた。セイレーン公は、次にバイズ侯を睨むと


「無論、私に反論の権利など端からなかろう、私は流石にロディ―侯の様な醜態を晒す気はないですよ・・・。」


 バイズ侯は、吹っ切れた顔をしていた。


「弟や、今回関わったとされる者達を全て引退させよう。じゃがのう、直接関わった者はともかく、間接的にかかわった者は、ギルド職員・幹部からの永久追放で許してくれんか・・・。その代わりと言っては何だが、片付いたら儂も侯爵を引退し、ギルド幹部だった弟や、息子も引退させ、孫に爵位を譲ろうと思う。徹底的にギルドの膿を出し、後進が通りやすい道を作ってからの。まあ、それまで一年かからんと思うが、諸卿にも協力を得たい。」


 と、バイズ侯は頭を下げた。


「わかったよ・・・。私ももうすぐ卒業する息子に爵位を譲ろう。今回発覚した商会については、潰すか、分けるか、相応の報いを受けさせよう。これは、商人ギルド主導でなく、帝国政府主導で進めて貰いましょう。帝国商務省に査察部を作ってやらせましょう。」

「卿の甥の、ローティ子爵は、商務参事官だったな、彼を査察部長にさせて、卿も協力してやれ。」

「ブリモンド殿下、分かりました。セイレーン公からの資料が届くまでに、査察部設立を急ぎましょう。各商会にも通達をしておきますよ。」

「そうか。・・・・今回はこんなところか。」

「そうですな・・・。閉会にしようと思うが、何かございますか?」


 すると、線の細い若い貴族が手を上げたをした。


「ロッチス・シルフ次期公爵かな?」

「そうです。リンザイム公。」

「一応、イフリート公の責を問わないか決を採った方がよろしいかと思いますが、」

「そ、っそうか?」

「他の件もそうですが・・・。」


 そう言うと、議長であるリンザイム公は、4件について決をとった、1件目は満場一致。2件目は、セイレーン公に近い貴族は棄権、シルフ、ノーム両公に近い貴族は反対、残りの貴族は賛成した。3件目、4件目は、殆どの貴族が賛成した。


「あの、」

「ハインリッヒ・ノーム公爵弟」

「冒険者ギルドと商人ギルドへの規制の権利を我々にも貰えないか?セイレーン公だけに与えたとあっては兄上に説明がつかない。」

「うちも欲しいな・・。」

「ロッチス・シルフ次期公爵もか・・・。」

「では、他には・・・。」


 そう言うと、セイレーン公、ノーム公、シルフ公に近い貴族たちが一斉に手を上げた。


「他は良いかな?」


 リンザイム公は、見回し、


「では私も貰うとして、閉会しよう。諸卿ありがとう。」


 そして、散会した。

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