第4話 帝国軍参謀会議
翌日朝、セイレーン公爵は、帝国軍軍務省参謀本部のボードルームに居た。帝国軍参謀会議、帝国の軍事的事案について帝都にいる将官と参謀達で開かれる、皇帝諮問機関。今回の所謂セイレーン事変について、リバケット帝国騎士団副団長が丁寧に説明し、半分位の参加者は、事の重大さに目を白黒させていた。
「殿下、以上が今回の事件の概要です。」
「簡単に言えば、バルザック王国が進攻してきたが、被害は田舎の港町程度。」
「そ、その通りです。」
帝国軍軍務尚書で、帝国軍元帥たるブリモンド皇子がリバケットを睨みつけた。イフリート公の支援を得ているブリモンド皇子にとって、この事変は無かったことに抑え込みたい事象だった。あからさまな行動に出ていた。
「こんなことで朝っぱらから、」
「兄上、ですが、これは4つの問題を抱えてます。」
「は?」
帝国騎士団総団長で帝国元帥たるガイアス皇子が、あえて話を有耶無耶にしそうにしたブリモンド皇子を止めた。
「まず、当たり前ですが、バルザック王国の意図。元貴族の暴走と言ってますが、帝国への侵略の意識なのか、セイレーン公爵領にちょっかいをかけてるのか?」
「そんなの、セイレーン公爵家を傀儡にしようとしただけだろ。撃退されてざまねえや。バルザックが関係無いという以上、どうしょもなくねえ?」
「それでは、他国も、元貴族の暴走だからと、同じことをされます。」
「は?そんなことになるかよ。」
「帝国としてそれを甘受しては、」
「甘受って大袈裟な?」
「兄上、このままだと、帝国が舐められるって言ってんですよ。」
「ガイアス。やっぱ、お前は感情出してった方が良いな。だがな、これはセイレーンの問題だ。帝国の問題にすると帝国軍を動かさないとならないし、セイレーンだけで勝てばセイレーン領になって、セイレーンが力をつけ過ぎる。セイレーン公、我慢しろや、」
「はっ、殿下。我々から武力でいくさを仕掛けようとは、今のところ思っておりませんが、今まで貴族院の決議で緩めてきたせいで、少なからず我が民が、帝国臣民が傷ついたわけですから、締め付けは厳しくさせて頂こうと思います。」
「良かろう。落とし所はそんなところだろう。ふっ」
ブリモンド皇子は、見た目粗野で、知性無い様に見えるが、表裏使い回し、高い政治力、外交力を持ち、基本強者である帝国の皇族という地位を上手く使う為に、豪胆な態度を取り、裏では細やかな根回しを欠かさないそんな皇子だ。イフリート公が後ろについており、今回は、火消しに走っており、上手く行きかけている。
「兄上、イフリートの関与は、」
「わかってるだろ、貴族院で出してみろ、イフリートに知らぬ、関係者と名乗るものは勝手に処分しろと言われて終わるだけだ。過去何度もあるだろう。そんなの軍務省の管轄でもない。イフリートとセイレーンの揉め事にしか見えんよ。怖くて誰も入ってかないだろうよ。」
「ギルドは、」
「各ギルドの責任は問うし、ギルドから色々支えて貰っていた貴族達は、貴族院で、セイレーン公に詰められるだろう。いい気味だ。」
「この事態でなく、襲撃のみを知っていた、バルザックの王子と、イフリート公女は?」
「まあ、イフリート公が、貴族院で上手く返すだろう。」
「軍としては、」
「バルザック王国が本気で攻めてきたら、潰すが、その前にセイレーン公が倒されるであろう。他は、貴族院の問題だ。」
力弱いガイアス皇子は、ブリモンド皇子に圧倒された。明らかに、帝国軍の参謀達にはそう見えたであろう。ここまでは。
「そうだ、セイレーン公から相談されてたんだから、セイレーンから帝都まで街道整備をして、そこに高速馬車の専用道路を作るそうなんだ。高速馬車の専用道路を専用にする代わりに、コストを全額持たせる先を見つけて来たそうだから、私の任されている領については、敷設を許可した。道幅に制限は設けていないが、専用道路は道幅の半分以下としている。専用道路と言えど、帝室の利用と、訓練や単なる移動でなく、純軍事利用時には、使用させてもらう予定だ。兄上のところもセイレーン公に行って、敷設してもらったらどうだ?」
「ガイアス、お前に利が無いが何を考えている。」
「利か。ある意味、兄上と、セイレーン公に恩を売る事での保身なら納得するか?」
「保身か?そうか。」
ブリモンド皇子は、ニヤッと笑い、
「良かろう。セイレーン公、好きに敷設せよ。空いてる土地に引くのは好きに轢いて構わん。事後報告で良い。」
「ありがとうございます。街道沿いに建物もいくつか建てないと、色々」
「ああ、休憩施設などか、街道に沿っていれば、街道内でも良いが、いくら建てても構わん。街道の附属物としよう。がはははは。補助金等一切出す気は無いから、その分税も免除してやろう。ただ、街道に必要な建物だけだぞ。休憩施設、馬車絡みの施設、倉庫、馬車の客用施設、停車場、宿、事務所そんなもんか。」
「兄上、これで私の顔が立ちます。」
「そうか。がはは。」
「書記官、一応今日の事は文章として記録を残して置いてくれ、流石に、セイレーン公が街を街道沿いに建てたり、街中にぐるぐる道を作って、建物全て必要施設と言われても困るしな。そんなことにされないだろうが。」
「流石にさせませんよ。ありがとうございます。これで落とし所をに落としやすくなります。」
ブリモンド皇子、ガイアス皇子、セイレーン公は、それぞれ違った思惑のまま、参謀会議が終わった。三人はそのまま、貴族院に向かった。
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