第5話 悪巧み

「で、アリシア、何故、悪い虫を連れてきた・・。」

 (多分)リーハイム閣下は、とドスの効いた声で、話しかけてきた。


「悪い虫って、お兄様」

「アリアに、うちの娘に近寄る男はみんな悪い虫だ。」

「まったく、親ばかなんですね。では、婚約者のベイスターン王子はどうなんですか?」

「父上がバルザック王に頼まれて約束してしまったんだ。やむを得なかったんだ、あの耄碌オヤジ何度殺そうと思ったか、ベイスターンも変なことをしたら国ごと潰してやる。」

 (確定)リーハイム閣下は、恨むような声で口に出しては不味いことを仰った。


「安心して、アレックス君は、アリアちゃんじゃなくて、スノーちゃん目当てだから」

「急になんてことを・・・。」

 アリシア様が、いきなり言い出したので、僕は咄嗟に声を出してしまった。リーハイム閣下は、顔が真っ赤になり


「うちのアリアちゃんでは、気に入らないだと・・・。スノーにうちのアリアちゃんが劣るだと・・・許せん。」

 まさに、怒髪天の顔だった・・・。


「お兄様、アリアちゃんがモテた方が良いの、モテない方がいいの?」

「どっちも好かん。」

 アリシア様の言葉に、一瞬冷静さを取り戻した瞬間、僕は決死の覚悟で


「閣下、アリア様はお仕えすべき存在で、恋愛の対象とするだけで不敬にあたります。お許しください。」

「そうか・・・。」

「うふふ」「がはははは」

 2人が大笑いしている中、僕は呆気にとられた。


「アリアは、良い部下を捕まえた様だな。わしと、アリシアの会話の中に入ってこれる奴なんぞそうそうおらん。何かあっても、アリシアが守るだろうし、普通自分から前に出る度胸はないわい。」

「そうよ、お兄様は、見た目あんなでも取って食う様な方ではないわよ。」

「はい、アリア様から、勇気を持つ様に言われてますから、」

「そうか、勇気か。」

 そう言って、リーハイム閣下は、僕を見据えた。今までの恐怖を与えることではなく、人を試す様な目をしていた。


「そんな勇者が、わしに何の様じゃ。」

「はい、実はアクアで、・・・」

 僕は、アクアで見たこと、聞いたこと、やったことをアリシア様に伝えた以上に詳細に説明した。リーハイム閣下と、アリシア様は、話を聞きながら七面相の様に様々な顔をしながらも、黙って聞いてくれた。


「そうか、お前すぐ殺されるな。」

「やっぱりそうよね。殺されますよね。」

「えっ、どういうことですか。」

 僕はやっぱり殺されるらしい。


「とりあえず、土属性の魔石を2000万個分と、火属性の魔石を1万個分置いていけ。悪魔の心臓も出来るだけ確保して、送ってこい。人員と金はこっちで用意する。代金として、5千万ゴールド程渡しておく、これから説明するから、必要なら使え。」

「後、マジックバックを10個と、ミスリルも出来るだけ欲しいわ。」

「これから作戦を説明する。作戦と言うより、悪巧み近いがな。」

「安心して、白き薔薇団全面サポートよ。薔薇団でも、本当に信頼できる者達だけだけどね。」

 そう言って、閣下は、僕に悪巧みを授けてくれた。それは、公爵家だけでなく、帝国全土を巻き込んだ悪巧みで、僕の手に負える部分は少なかったが、僕しか出来ない事もあり、否応なく命がけで臨むことになった。


「面白くなってきた。3日後に帰った後、今度は帝都に使者として行ってもらう。手紙は帰る時に渡すから、アリシアから貰うように。」

「私も、積年の恨みを晴らせるわ。うふふふふ。」

「がはははは。」

「後は、リバース卿と打ち合わせて、白き薔薇団に戻りましょう。」

「リバースにも、わしがバックについているから、全力で働けと言っておく様にな。奴には必要なことだけ伝えよ。クソ真面目だから、過労死しかねないからな。」

「はっ、閣下とアリシア様のご威光のままに。」

 僕が大きく頭を下げると、閣下は満足そうな顔で、不敵な笑みを浮かべた。


「よろしい。帝国が大きく変わるぞ。そうじゃ、ことが済んだら、わしに仕えぬか?」

「仕えるなら、私ですわよ。お兄様が公爵になられたら、公爵家に連なる私に仕えていれば、お兄様に仕えてるも同じですから。」

「それを言うなら、アリア様にお仕えしておりますし、家族が公爵様にお仕えしているので、私が公爵家の元から抜けだけませんが。多分。」

「そうか、そうだな、存分に励めよ。がはははは」

「はっ。」

 (多分)二人のおふざけは終わり、僕は、アリシア様について、アリシア様の執務室に向かった。執務室の入口で、警備の騎士に父上を呼びに行って頂き、僕達は執務室に入った。アリシア様の執務室は、スッキリしていて、肖像画が飾ってあるだけだった。4人が描かれた肖像画、1人はアリシア様、もう1人は、公爵領南西側のフランツ王国ロバールト王子と、2人の子どもだった。1人は3歳位でもう1人は乳飲み子として、アリシア様が抱き抱えていた。僕はじーっと見てしまった。


「あっ、これね。これは、亡き旦那と、息子達なの。」

 そう言って、アリシア様は悲しそうに話し出した。


「騎士爵家の出なら知っていると思うけど、私の旦那はフランツ王国の当時王太子だったロバールトなの。当然政略結婚だけど、慣習に則り彼は帝都に留学してきて、2人で恋愛じみた経験もして、お互いを知って結婚して、私はフランツ王国に嫁に行き、2人を身篭ったわ。公表ベースでは、彼と息子のランサーは、私が教会慰問中に、事故で亡くなった事になってるけど、現王、彼の異母弟に当たるパースロットに暗殺されたの。公爵家の手の者達が命がけで、私と、ロベルトを逃してくれたけど。ロベルトには、あの人の愛したフランツ王国を見せてあげたいの。フランツ王国には、アクアから海路か、アクア西部のセイラーン山脈を超えるか、帝国直轄領と、リヒャルト王国経由でしか行けないから、今は行く途中か、王国内で暗殺されそうだから無理だけどね。」

「そうなんですね。」

「ありがとうね。話を聞いてくれて、それでパースロットの裏には、バルザック王国がいたらしいの。最近分かった事だけどね。バルザックと、フランツで組めば、南部海上貿易は牛耳れるそう思ったんでしょう。単独では、我が公爵家軍が最強だけど、組まれると微妙だからね。帝国の力を借りたく無いしね、大変なの。」

「それで、あの悪巧みですか?」

「お兄様は徹底的にやるわよ。帝都と、セイレーンの直線距離約600キロ。セイレーンと、アクアの直線距離20キロ。それぞれ山脈があるけど任せてね。あれと合わせて2カ月で片付けるわ。」

「よろしくお願いします。」


 トントントン


「はい」

「リバース参りました。」

「入って」

 父上が来たので、悪巧みの一部を説明し、白き薔薇団本部に戻った。

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