第6話 職人商会

「君に商会主になってもらいたい。」

「は?へーーー。」

 スレインさんは、キャラにそぐわす大声をあげた。


「だって、冒険者ギルドのにゅ間が、商会主になれないんじゃ。しかも、商会主は、自己の資金てせちゅりちゅすることとなっているはずです。出資も他のギルドからも、ギルドきゃ員からも受けられましぇん。ルール上にゅけ道が無いわけではにゃいですが、許可が降りようがありましぇん。」

「これを」

 僕は、ドン商人ギルドアクア支部発行のホールディングス許可書を出した。


「えっ、なになに、ホールディングス許きゃ書。って幻のホールディングスしぇいどの許きゃ書じゃないでしゅか。商人ギルドが、職人達を傘下におきぇる様に作ったしぇいどで、冒険者は、商人を、商人は職人をしゃんかにおける様になったけど、冒険者でホールディングスを認めた商人ギルドはにゃいと聞いていたんですが、しかも、全世界で認めるなんて、商人ギルド長も、この許可書も闇に葬られますよ。」

「だから、言い方悪いけど、アリア様とアリシア様を使って既成事実化して、追い込む。暗殺があったら商人ギルドのせいだと言うことに。」

「どうやってでしゅか。というか私が商きゃい主って、殺されません?」

 焦るスレインさんに、僕は目を思いっきり逸らして、


「多分大丈夫じゃない。多分、多分。」 

「多分って、グスン」

「安心して下さい。さっさと追い込みますから。プレース商会を呼んでますから、追い込みましょう。」

「グスン。わかりました。任せて下さい。アレックスさんは、契約先の確保をお願いします。打ち合わせては、アリシア様とやっておきますので、職人を回って下さい。」

「わかりました。よろしくお願いします。」

 商会設立手続きをプレース商会と、スレインさんに任せて、僕は、ロードベル様のところを訪れた。


「こんにちは。」

「なんだい。」

 挨拶すると、ロードベル様が出ていらした。


「お忙しい中すみません。お願いがあって参りました。」

「どうしたんだい。中に入んな。」

「ロードベル様、今の職人さん達の状況をどうお考えですか?」

「状況?最悪だね。職人はさ、エルフや、ドワーフ等のお主らで言う人間族、ヒューマン以外が大半だ。ヒューマン至上主義者がどんどん増えてきて、差別も多く、商人達も厳しくあたり、生活苦に苦しむ者も増えてきている。修行もままならんし、生産性や、クオリティも下がっている。」

「そこでご相談ですが、ロードベル様に新たに建てる大工房の代表になって頂きたいんですが。」

「はん?ルールを知らないみたいだね。冒険者は、職人の工房に出資出来ないんだよ。忌々しい商人なら別だが、商人なら、工房の費用を負担した上で、売れ行きに関係なく、最低、正規の商人と同等の待遇を約束しないといけない。それじゃぼろ儲け出来んぞ」

 ロードベル様は呆れた顔でこちらを見た。


「いや、そこは任せて下さい。大工房の最大の取引先は、公爵家。」

「アリシア様でも、御用商人達を抑えてられないぞ。」

「親バカ次期公爵様のご指示であれば?」

「は?そうか、ワハハハハ。お主、この数日でそこまで食い込んできたか。分かった、このババアは何をすれば良い。」

「各分野のグランドマイスタークラスの職人のヘッドハントと、大工房の設立、職人学校の設立。職人はどれだけ引き抜いても構いません。予算はとりあえず4000万ゴールド用意しました。足りなければ、商会主となるスレインさんに言って下さい。職人学校の設立には、補助金が公爵家から1000万ゴールド出ます。親バカ様のポケットマネーで。あと、大工房の場所はアクア。土地は用意します。差別の無い街を作りましょう。」

「お主のやりたいことはわかった。後は任せておけ、帝国最大の工房にして見せようぞ。このババア最後の仕事じゃ。」

 ロードベル様はニカッと笑い、直ぐに工房を出て行った。僕は、白き薔薇団の本部に戻った。


「スレイン様、スノー様のお父様、今戻りました。」

「アレックス君。僕を殺す気~~。まだ、あれ売り終わって無いんだよ。」

「多分、また大量に仕入れてきますよ。」

「ほんと~。で、さぁ、本気でやるの?」

「はい。今回は、商人ギルドのミス。次期公爵からは、徹底的にやって良いと聞いています。公爵様に既に伝令が飛んでますから。」

「最近、大手商会や、商人ギルドやりたい放題だったからね。差別酷いし、この取り消し権を持つのは、クラン長代理のアレックス君か、うちのスノーだけど、スノーはアリア様の護衛役だから、アリア様の命を狙ったって言われてもしょうがなくなり、これを口実に、取り消し書類を出した商人ギルドごと帝国貴族議会や、帝国政府に潰されかねない。その点、アレックス君は、ただの冒険者で、何かあっても、手続き後冒険で死んだと言えばすむ。まあ、揉めるけど、少なくとも帝国貴族議会や帝国政府は動かない。公爵家だけなら、限定的な被害ですむと踏んでいる筈だ。」

「やっぱり、僕殺されるの?」

「表だっては出来ない様に、今日商人ギルドに殴り込む。後は君がアクアにいる時だ。」

 そう、僕はアクアでは1人きり。


「白き薔薇団の応援が来れば、」

「下手すると、クラン間の戦争になるぞ。少なくとも、セイレーン商人ギルド長のパイソン商会と、セイレーン五大商会、帝国七商会会議は、幾つかのクランを動かす。まずはブラックタイガーだろう。」

「プレース商会は、」

「うちは表だっては支援出来ない。一応商会だし。まあ、君を狙った暗闘は続くだろう。うちの娘に近寄った罰だな。」

「は?そんなこと。徹底的にやるってそう言うことか。生産、流通を牛耳ればどうなるか。そんなこと、閣下がおっしゃってたな。」

「生産、流通を牛耳るって。」

「秘密です。あっそうそう、次期公爵様からの報酬です。」

「報酬って、は?」

 差し出した紙を見て、プレースさんは目を点にした。


「では、商人ギルドへ行きましょう。」

 僕と、惚けているプレース商会主、スレインさんはセイレーン商人ギルドに向かった。


「ギルド長はいるか?」

「あっ、プレースさんどうしました?」

「急ぎ報告がある。ギルド長へ。」

「お待ち下さい。」

「会議中でも何でも、レベルEだ。」

「は、はい。」

 商人ギルドの受付は、急ぎ二階に向かって走っていった。管理職らしい男性が近づいてきて、


「プレース様、レベルEとは?」

「話せん。少なくとも、俺が勝手にはな。」

「ですが、中小商会の言うこと、信用出来ると。私が吟味し、ギルド長に報告を」

「は?うちを信用出来ないと。」

「このセイレーン商人ギルド設立以来の商会で、設立出資者であるプレース商会を信じないと。」

「えっ、」

「オリジナル13の一つとして、ギルド長解任議案を出せる我がプレース商会を信用出来ないと。」

「いや、僕は帝国中央商人ギルドから派遣された」

「単なる事務屋が、信用を第一とする商人に信用出来ないと、どの口が言ってるんだ?あーん?」

 プレースさんが無駄に、ギルド職員に切れていた。本気でキレていた。いつもの穏やか娘ラブのプレースさんの影はなかった。そんな時、二階から熊の様なガタイのデカい髭もじゃのお爺さんが大声を出した。


「プレースの小僧、そんな所で許してやれ、帝都の餓鬼が、背伸びしただけだ。」

「あっ、セリブのおっちゃん。ギルド長は?」

「帝都に行っている。戻りは2週間後だ。」

「そうですか、じゃおっちゃんの部屋で報告するしかないか。」

「悪いな。連れも連れて俺の部屋にこい。」

「はい、いくぞ。」

「バリューマ、お前には後で話がある、帰るなよ。」

「はい。すみません。」

 凹んでいるバリューマさんを置いて、僕達は部屋に入り、豪華なソファーに座った。


「ワシは副ギルド長のハーマンチィ・セリブじゃ、プレースの小僧、こいつらは?」

「僕は、冒険者クラン アクアのクラン長代理アレックスです。」

「私、冒険者クラン アクア傘下のアクア商会主スレインです。」

 セリブさんは、スレインの言葉を聞いて、目を見開いた。


「プレースの小僧、どういうことじゃ、レベルEなのはわかるが、お前何をしやがった。」

「セリブのおっちゃん。申し訳ないが、俺は何もしてない。流石に、若者達の生命を無駄に死の危険に晒すことなんかしないですよ。」

「アレックスとやら、冒険者クランが、商会を傘下に置くには、商会ギルドの許可が必要だ。どこのギルドもそれを認めんし、百歩譲って認めてもその街だけだ。それも無いだろうがな。少なくとも、他の街での商売まで認められる、都市、貿易港の商人ギルド長に認める奴なんぞおらん。」

「でも、これ。」

 僕は、許可書を示した。セリブさんは、目をひん剥いて凝視した。


「こーれは、まーずいなー。」

「ですよねー。だから、報告に来たんですよ。アレックスは、アリア様のクランのクラン長代理だから、アリシア様にご相談して、アリシア様がリーハイム様に相談しちゃった後で俺の所に話に来たので、もう止められないっすよ。どうします?」

「おい、プレース。おまぇ。」

「勘弁してくれよ、俺は知っちまったから、早めに報告する為に来たんです。聞いてすぐに連れてきたんですから。」

「で、どうするんだよ。」

「どうもできないけど、報告しないとまずいだろう?」

「そうだけどよ・・・。」

 二人して揉めている。話が進まなそうなので、


「で、すみませんが、私も何も知らずに、アクアの商人ギルド長のモーリシャスさんに、お願いしたら貰えたので、ついつい。」

「ついついって、で、どんな商会を作るんだ?」

「アクアの潰れかけ商会を助ける為に買い取ったりしますが、基本は、冒険者ギルドをサポートする為の大工房を持つのと、アクアは港町ですので、倉庫や、陸海運系ですかね。特に品不足気味なので、アクアにものを運んであげたいので。」

「そうか、じゃあ、そこに業務範囲を絞って」

「商会ギルドの世界ネットワークで、正会員クラスの資格って聞てたのに、それで2年分10万ゴールドの会費も払ってますし。何故絞らないといけないんですか?」

「それはな、大人の事情なんだが、」

「どういうことですか?」

 僕が軽く駄々を捏ねていると、プレースさんが怒鳴った。


「アレックス、お前少しは大人になれ、俺が連れて来たんだから俺の顔を考えろ。」

「微妙に二枚目?」

「やっぱりって、お前な~。お前らがフルで業務やってると言われると、他の冒険者クランやそのバックの貴族達から突き上げに耐えられないんだ。商人の独立は、先達が、商人ギルド創設時にまさに命をかけて築いてきたもので、今まで商人達が必死で守ってきたものなんだよ。それが壊されかけてるのだ。考えろ。」

「わかりました。」

 僕は、元々プレースさんに任せるつもりだったので、話に乗っかった。


「セリブのおっちゃんとりあえず、業務範囲を絞らせれば良いんだな。」

「ああ」

「期間限定でも?」

「どういうことだ?」

「こいつがクラン長代理の期間は、多分うちのスノーが帝都の帝国魔導学院卒業までの4年間、その上まで行けば伸びるかもしれないが、それ以降こいつがこの場で約束するのは無理なはずだ。こいつはそんなリスクはとらねぇだろう。そんだけの期間が有れば、何らかの対応を商人ギルドとしても出来るだろう。4年後また話し合いで、合意出来なければ、正会員として正規の業務範囲に戻ることとする。でないとリーハイム次期公爵が出て来るぞ多分。」

「何故だ?」

「この冒険者ギルドのオーナーは、アリア様だ。アリア様の親権は当然リーハイム様が持っている。この手の話は、揉めたらオーナーが口を出してもおかしな話ではないし、オーナーが子女なら、親が出て来ても異議を出せんだろう。」

「あぁ。」

「でだ、アレックス、業務範囲は、工房経営、陸運、海運で良いのか?」

「あと、倉庫これはアクア限定でいいです。工房で出来たものの小売。小売は工房で出来たものだけで良いです。冒険者ギルドで入手したものは、普通の販売ルートで売りますから。あと、アクアでは、アクアの商会支援の為に、出資するかもしれないので、アクア内はフリーで。」

 セリブさんは、僕とプレースさんを見据えて。


「わかった。」

 その一言だった。


「セリブのおっちゃん、後、帝都の帝国中央商人ギルド本部に使者をだし 、アクアの商人ギルドへの査察と、ギルド長の拘束を。この話は、ギルド長の提案だったらしいから、ことの重大さに気づいてないだろう。重大さを知れば十中八九逃げるだろう。その前に拘束を。」

「わかった。こちらでやろう。」

 その後、業務範囲についての取り決めを調整し交わした。


「忸怩たる思いはあるが、スレイン君、商人として共に頑張って行こう。」 

「ありがとうございましゅ。よろしゅくお願い申しゅ上げまちゅ。」


 こうして、僕らの後に職人商会と呼ばれる商会がスタートした。

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