第11話 白狼の寝所
「かぷっ」
「あふん♡」
「あーむ、あむあむあむ♪」
「お、お、お……。やめ、やめ、あ。や、やめ」
「ぺろ、ぺろぺろ。ぺろぺろぺーろぺろ」
「うぐ、ぬ、そ、そんなところはぁ……」
――俺は
「フミナ、フミナ、フミナ。好きにぃ、好きにぃ、すきすきすき、すきすきすき……かわいい、かわいいにぃ。もう全部、食べちゃいたいくらい、好きにぃ……」
そっちかよ! と思った半面、これは命の危機はないのか? と混乱した。
のしかかり、一心不乱に俺の首筋を
「フラ……ウ、待て、やめろ一体何が起こってる。何故俺はその……襲われてる?」
「何って……、フミナのこと好きだからに」
「そ、そうなのか?。いや、違うそういうことじゃない。その、気持ちは嬉しいが、俺はこんな状況でその、それは望んでいなくて……、いやそれよりも、何故俺の身体は動かないんだ? あ、頭も痛いんだ。体も熱を持ってる……、毒か何か盛ったのか?」
白狼族の信頼を勝ち取ったのは勘違いだったのか!? もしそうだとしたら非常にマズイ! だが、フラウは、きょとんとした顔でいった。
「フミナもしかして、お酒飲んだことないに? 若そうやもんね。ウチの里は果実酒やから、甘くて子供でも飲みやすいに」
――酔っぱらっている、のか。
そうか。あれがそうか……。確かに宴会の席で俺はやたらと甘い飲み物を、勧められるままに大量に飲んだ。飲んでいる内に、どんどん気持ちが良くなって大笑いしていた事を覚えている。両端に座る、フラウとミアに寄りかかって、上機嫌だったはずだ。
恥ずかしながら俺は、真面目だった。
『飲酒は
それを守って今まで過ごして来た。だから初めての経験だった。そうかこれが……
「理解できたならいいに。続きしよ」
「ま、待て。話はまだ終わっていない!」
「だーめ。ウチが待てない」
フラウは、完全にいつもの様子じゃなかった。
まず表情がおかしい。のぼせ上ったように顔が赤い。
よせられた唇から漏れる息が熱かった。これは……、フラウも酔ってる?
「ね? フミナ。脱がすに」
耳元でささやくと俺の服を脱がしにかかる。プチプチと器用にボタンをはずされる。あっという間に、上半身はすっかり脱がされてしまう。
「……思ったより、たくましいに。強いオスは好き」
「ま、まてまてまて……、フラウさんまだまって!」
フラウは、馬乗りのまま、首から肩、胸にかけて
かぷ。かぷ。かぷ。
「や、やめ。うう。あふ♡」
白狼族は控えめだが牙を持っている。それが何とも言えない刺激になる。かぷかぷと、ぺろぺろと。その合間合間に、好き好きとささやかれる。耳から入って全身を刺激する声だ。
「や、めろ。なん、で」
身体は動かないくせに、感覚だけはリアルだった。触れあう肌と肌。体の部位で温度が違うのを初めて知った。フラウの両手が俺の頭を抱えると、二の腕が頬をこする。少し冷やっこい。だが、押し付けられた胸は驚くほどに熱く、埋もれるほどに柔らかかった。
「フミナは、こういうの嫌い? うちは魅力的じゃないに?」
耳元でそんなことを囁かれては、反応するなという方が無理だ。我慢できず
「ハァ……、フミナの身体、ほんとにいい匂い。初めて会ったときから、これ好きってなったに。フミナもウチのこと、好いてくれる? だったら嬉しいに」
そう問いかけられて、恐る恐る、しっかりと彼女を見た。
組み伏せられて下から眺める、生まれたままの姿のフラウは、とんでもなく綺麗だった。
ハァ――、と。
はく熱い
らんらんと光る獣の瞳。乱れてもなお美しい、白金の髪。ふわりふわりと背後で舞う大きな銀糸の尾。
寝所にたかれた小さなかがり火に照らされて、上気し汗に光る。身体は白くいが艶やかで、ところどころ桃色に染まっていた。
こんなの、駄目だ。
今まで見た、どんな写真や動画よりきれいで、五感全部が彼女を魅力的だと言っていた。興奮するなというのは無理な話だ。
「いや……、魅力的だ。すごく、きれい……」
「うれしいに」
俺の胸に頬ずりしていたフラウは、顔を上げ笑い、また首筋にかぶりつく。そのたびにフラウの美しく育った胸が、たぷたぷと揺れた。
「で、でもな、待て。せめて、理由を。理由を教えてくれ。なぜ、こんなことを? 白狼族は好きになったらすぐに行為に及ぶのか?」
だとしたら、今後彼らと付き合っていくのに問題がでる。
うっかり好きになられたら、今の様に毎回襲われる羽目になっては困る。
異文化交流に相互理解は大事だ。
とはいえ、本心はこの状況に流されるのが嫌なだけだ。
俺だって、健全な若者だ。彼女も欲しかった。フラウはとても魅力的で、くらくらするほど綺麗な子だが、だからこそ、こんな訳も分からぬまま、するのは嫌だった。
俺の頬に汗が垂れる。
フラウは、それに気づき、くんくんと嗅ぎ、ぺろりと汗を舐めとった。
そんな物、なめとるのは不衛生だからやめろ――そう言いかけるが、首筋に当てられた牙の感触でかき消える。白狼というからには狼なのだろう。甘噛みとわかっていても、命を握られているという感覚がある。甘いような、怖いような。
フラウは、その緊張をほぐすように笑って言った。
「何って、フミナが言ったんに。選んだって。白狼族で
「それ……、は」
やはり。
原因は文化の違いだ。理解しないまま言った、たったひと言。
『彼女らは選ばれた』
あの村の宴会は、俺たちの結婚式だったという事か。
――いや? 待て。これ、俺悪いか? あんな程度のひと言、わりというだろ?
それに、番って基本1対1じゃないのか? 狼だからいいのか? いや、狼の生態は確か、一頭ずつのペアじゃなかったか?
――という事を、とぎれとぎれでフラウに伝える。すると、
「むー、フミナうるさい。ムードが壊れるに。細かい事はいいの。えい」
「もがっ」
ぱふっと、たっぷりのおっぱいが顔に乗せられた。
わぁ……、柔らかい。
「フミナは天人さまだから、嫁はいっぱい居てもいいに。それにもし、昔の天人さまたちみたいに、フミナがいなくなってもウチたちが子供を産めば、白狼族はこれからも、ずっとお仕えできるにぃ。白狼族は、この時を待ってたんに……」
――だから、ね?
と、フラウは唇を寄せる。その時、俺は見てしまった。
フラウの目には、うっすらと涙が溜まっていた。
どうも、白狼族の『天人に仕える』という使命は、相当に強いものらしい。
それはもう、文化であり、思想であり、常識なのだ。
俺がここでフラウを拒否したら、どうなるだろうか。
天人に拒否されたものとして、フラウはまた、村で立場を悪くするのではないだろうか? そうで無くとも、受け入れを拒む言動を繰り返している俺を見て、フラウは心を痛めているのではないだろうか。この涙の意味を考える。フラウも受け入れてもらえないかもしれないという不安に苛まれているとしたら?
それは、それは――
「……わかった」
正直言うと、最初に見た時から、フラウの事はなんてきれいな子なんだと、内心思っていたのだ。こんな子が彼女だったらいいのに、とも。
「だが、俺にも地球――俺の故郷を救うという使命がある。いつまでもここに居られるか分からんぞ」
「別にいいに。その時はついていくに? その代わり子供が生まれたら里帰りするに」
そこは、使命優先なんだ……。
と日本生まれで、恋愛至上主義に毒された俺はちょっとショックを受けた。
まぁ、いい。あのゲートがあればいつでも帰れるだろうし。
俺は覚悟をきめた。
「フラウ、来い」
俺は精一杯の、見栄をはって言う。
声は震えていたかもしれないし、顔もうまく笑えていたか怪しい。伸ばした手はじっとりと汗をかいていたし、やっぱり震えていた。
「うん。フミナよろしくに」
だが、そんな伸ばした手に、フラウは嬉しそうに頬ずりしてくれた。
そして、俺の胸にゆっくりと倒れ込む。
俺はしっかりと彼女を抱きとめた。
グッバイ童貞。
まさか、異世界でこうなるとは思っていなかったなぁ……!
抱きしめたフラウの体はとんでもなく柔らかくて、良い匂いがした。
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